裸足の救急隊員

仰天の現場

前回、お酒を飲むと攻撃的になるタイプの酔っ払いのについてをオメエぶっ殺すぞ!というお話を紹介させて頂きました。お酒を飲むと攻撃的なる方には救急隊に限らす周りの人はみな困らされていることでしょう。

今日紹介する酔っ払いは完全に寝込んでしまうタイプです。こちらをご覧のみなさんの中にも酔うとまったく起きなくなる友人や知人の一人やふたりがいるのではないでしょうか?深く眠り込んで起きないだけならまだ良いのですが…。

出場指令

「救急出場、○町○町名…路上、飲酒した男性は嘔吐後、座りこみ動けないもの、通報は友人のGさん」

との指令に救急隊は出場しました。


現場到着

指令場所は居酒屋のビルの前の歩道、数名の男女が大きく手を振っていました。その先には電柱にもたれかかるように座っている男性の姿が見えました。

隊長「おっと…こりゃみんな酔っ払っているぞ、言動が荒いようなのがいたらすぐに車内収容してこの場を離れよう」
機関員「そうですね、了解」


傷病者接触

隊長「救急隊です、ご通報頂いたGさんはどちらですか?」
Gさん「私がGです、お願いします」
隊長「患者さんはあちらの方ですか?」

傷病者は30代前半の男性でKさん、案内に出ていたのは会社の同僚たちでした。長期に渡る仕事がひと段落したからと会社の仲間10人ほどで打ち上げをしていたとのことでした。

飲み始めて2時間ほどでKさんは飲みつぶれてしまい寝込んでしまったとの事でした。1次会は終わり、これから次の店に行くぞとKさんを起こそうとするもまったく起きず、とりあえず同僚の男性たちが担ぎ出すように店を出たのだそうです。

すると店の前の路上で突然の嘔吐(いわゆる寝ゲロです)、それでもまったく起きないため心配になり要請したとのことでした。

隊員「Kさん、こんばんは、Kさん、救急隊ですよ、大丈夫ですか?」

隊員が肩を叩き大きな声で呼びかけるもまったく反応はなし、ただ呼吸はしっかりとしていました。Kさんのシャツは嘔吐物で汚れていました。

指につけたパルスオキシメーターも98%と正常値、意識レベルは低下していますが緊急度はなさそうです。

隊員「隊長、呼びかけに反応はなし、呼吸も脈拍もしっかりしています、サット(SPO2のこと)は98」
他の同僚「いいから早く運べよ!お前らに何が分かるって言うんだよ!」
女性の同僚「ちょっと、やめなさいよ!」

ふぅぅ…やれやれ…こっちには攻撃的なタイプの酔っ払いがいる…。

隊長「車内収容しよう!今すぐ搬送しますから、患者さんが楽なようにストレッチャーを準備しますからね」

隊長が攻撃的な同僚に諭すように説明しています。Kさんをメインストレッチャーに乗せ車内収容しました。

隊員「Gさんが同乗してくださいますよね?ここは繁華街で車の通りも多いのですぐに離れますからどうぞ乗ってください」
Gさん「はい、分かりました」

通報者のGさんはとても落ち着いている方でした。あんな攻撃的な同僚がいるこの現場で選定などしたらどうなるでしょうか?

「いったいいつまでここにいるつもりだ!とっとと運べよ!」などとののしられ活動の支障になることが目に見えています。罵声を浴びる程度ならまだ良いですが、下手をすれば車両を壊されたり殴られたりすることだってあり得るでしょう。

隊長「Gさんに一緒に行っていただきますから、ここは道も狭いし車の往来も激しいですから離れますね」
他の同僚「分かりました」
隊長「いいよ、行こうか」
機関員「はい…了解」

救急車は静かに選定できる場所までとゆっくりと現場を離れました。


車内収容

静かになった救急車内、Kさんの詳細観察を実施します。特に怪我をしていることもなくバイタルも特に問題はありませんでした。ただ…

隊員「Kさん、胸を押しますよ、痛いですよ~」

傷病者の意識の覚醒度を判断するため隊員はKさんの胸の真ん中をぐりぐりと押したのでした。それでもKさんはまったく反応なし。

隊員「意識レベル300です」
隊長「ああ…Kさんは相当お飲みになられていますよね?かなりのお酒の臭いですが」
Gさん「ええ…でもそんな弱いヤツじゃないんですよ、今日も1次会の途中で寝てしまいましたから潰れるような量ではないはずなのですが…、ただ、昨日はほとんど徹夜状態で仕事をしているんです、だからかもしれないです」

Gさんの話によれば長期に渡り準備してきたプロジェクトは今日が節目だったそうで、昨夜は同僚のほとんどがその準備を深夜までやっていたそうです。中でもKさんは朝方まで働きほとんど寝ていないとのこと。

そして今朝から夕方にかけてがこのプロジェクトの本番、無事に終わったとのことで打ち上げで大いに盛り上がったのだそうです。ほとんど徹夜状態で疲れが溜まっている中なら普段なら酔わない量でも潰れかねない。急性アルコール中毒の可能性が非常に高そうです。

隊長「Kさんのご家族には連絡が取れますか?」
Gさん「ええ、もう奥さんに連絡が付いています。病院が決まったら来てくれるように言ってあります」
隊長「そうですか、それは良かった」

同僚の同乗、奥さんが駆けつけてくれることが分かっていました。酩酊状態の方の搬送先医療機関選定は苦慮することが多いのですが、家族や同僚が付き添ってくれるとなるといくらかましなのです。それでもこの活動もすぐには受け入れ先は決まらないのでした。


医療機関選定

機関員「…そうですか、分かりました他を当たってみます…」
隊員「R病院はダメですか…」
機関員「ああ、他の患者さんの処置中で手が離せないって」
隊員「次は…H病院ですよ」
機関員「ああ、H病院ならきっと受けてくれるな、もうこれで4件目だし」
隊員「そうですね」

このH病院は選定に苦慮しているような事案の時、何かと助けてくれる医療機関です。他の病院が避けたくなるような内容も受け入れてくれることが多く、救急隊からはとても頼りになる存在です。救急病院としての使命を果たそうと崇高な意志を持って戦っている医療機関であると思います。

そのせいもあってか地元住民の評判と言えば…(献身的な医療機関の評判というお話で紹介させて頂いています)はぁぁ…またH病院に負担をかけなければならないのか…。

機関員「そうなんですよ…ええ…他はどこも断られてしまって…すみません、よろしくお願いいたします、それではそちらに向かいます」
隊員「さすがH病院ですね」

結局また、献身的な医療機関に負担をかけることになってしまいました。


医療機関到着

看護師「Kさん!Kさん!起きてください!」
看護師が大声で呼びかけても揺すっても無反応のKさん
看護師「Kさん、痛いことするよ」

そう言うと看護師はKさんの乳首をつねったのでした。救急隊の痛み刺激による覚醒の評価は胸の真ん中を押すことが一般的ですが、医療機関では乳首をつねることもあります。

考えただけでも痛い…それでもKさんは…

看護師「本当だ、本当に300なのね」
隊員「ええ…」
看護師「どれだけ飲んだのかしらね?」
隊員「さあ?でもそんなに長時間飲んでいた訳ではないみたいなのですけどね」
看護師「診察の前にこの格好じゃ…着替えさせますね」
隊長「はあ、そうですね…お手伝いしますよ」
看護師「すみません、お願いします」

看護師2名と救急隊長と隊員とでKさんの吐物で汚れた衣服を脱がせます。

隊長「Kさん、まずこのシャツを脱がすよ、着替えないと…ねえ?」

相変わらずKさんから返事なんてありません。酒と胃酸臭いシャツを脱がせるのも一苦労です。病院の衣服に着替えさせて…と。

あれ?何だこの暖かいのは…あれ?

隊員「アアアアアァァァぁぁぁ…」
看護師「何!?あっ!…あ~あ…」
隊長「あっ!あ~あ…やられちゃったなぁ…」

病院のストレッチャー上で小便をしてしまったKさん、履いていたジーンズはびしょびしょになり、さらにストレッチャー上に引いてあったシーツを濡らし、滴り垂れた小便は救急隊員のズボンに流れて靴の中までしみ込んだのでした。

隊員「Kさん…」
看護師「あなたも着替えないとね」
隊員「はぁ、そうですね…」

看護師「ふぅ…これで上着だけって訳にはいかなくなっちゃったわね、下も着替えさせないと」

Kさんのジーンズはずぶ濡れ、さらに下も着替えさせえることになりました。するとさらに…この臭いは…。

看護師「あ~あ…こりゃ大変だわ…」
隊長「本当だ…」

漏らしていたのは小便だけではなかったのか…Kさんの履いていたパンツは大便でぐちゃぐちゃ、ジーンズにまで染み付いていました。パンツとジーンズを袋に入れて着替えさせる看護師さんたち…。

看護師「ねえ、Kさん、あなたどれだけ飲んだのよ?うんち漏らすまで飲むことないじゃない?ねえ?」

グーグー寝息を立てているKさん。

看護師「救急隊さん、ちょっとこの足持ち上げててくれる?お尻が拭けないから」
隊員「ええ…はぁぁ…」
看護師「何?」
隊員「いえね…看護師さんにこんな格好でこんな風にされるかと思うと…アル中になんてなれないなぁって…」
看護師「あら…私たちはしょっちゅうよこんなの、救急隊さんも飲み過ぎちゃったらやってあげるわよ、ふふふ」
隊員「いえ…ここまでは飲み過ぎませんから大丈夫です、こんなの見たらなおさら…」

本当にお疲れ様です、看護師さんも本当にたいへんなお仕事です。

病院のストレッチャーを小便まみれにし全身を自身の糞尿で汚してしまったKさんはオムツを履かされ全身を病院着に着替えさせられて、それでもまだ無反応、グーグーいびきをかいえているのでした。医師の診察が始まり点滴処置、尿道カテーテルが入れられるなど処置が行われました。

事務員「Kさんはこちらにいます?」
看護師「ええ、この方ですけど」
事務員「今、奥様がみえてますけど」
看護師「あら、先生、奥さんが来たそうですよ」
医師「ちょうどいいや、入ってもらって」

慌てた様子で駆けつけた奥さん、診察室に入り医師から状況の説明を受けていました。同僚からは夫が意識不明で救急車で運ばれると連絡を受けたのです、それは慌てて駆けつけるはずです。



慌てて駆け付けた奥さん、病院では修羅場が待っているのでした。

続・裸足の救急隊員につづく

緊迫の現場
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