救急救命士の現場 パラメディック119〜すべては救命のために〜
パラメディック119緊迫の救急現場助けられなくても意味はあったか? Last up 2005.7.26

緊迫の救急現場 case1

助けられなくても意味があったか?

 いつもいつもいつもため息の出る救急現場のお話をしています。実際、みなさんが思い描いている緊迫の現場は1日1件あるかなんかの程度で、あとはため息の現場ばかり扱っているのが大都会の救急隊の現実です。でもたまにはテレビで放送されているような、テレビドラマのような緊迫の現場のお話を。今日はまさにこれぞ救急隊員の仕事だっていうお話です。

 「救急出場、○○ビル7階、○○株式会社に急病人、男性は倒れたもの」との指令に私たち救急隊は出場しました。出場してすぐに救急車の無線機が鳴る。
本部「救急隊ですね。今、現場より第2報が入りました。本件、重症の模様、傷病者は意識、呼吸なしとのこと。本件にすで消防隊も出場させました。」
救急隊「了解しました!現着までおよそあと2分です。」

 現着。現場の○○ビル前に停車、現場は7階、メインストレッチャーに救急資器材を載せて搬送を始めると消防隊のサイレンが聞こえてきました。案内の社員の男性がいました。私たち救急隊は荷物搬送用のエレベーターに乗って7階へ。
救急隊長「患者さんは意識も呼吸もないとのことでこちらに消防車も向かっています。消防隊も案内してください。」
案内てくれた社員男性「分かりました。案内したらもう一度1階に降りて案内します。」
救急隊長「今、どのような状況ですか?」
案内してくれた社員男性「オフィスで横になっています。何か顔色がものすごく悪くなって、今は息をしていないみたいなんです。」
7階に着いた。案内の社員男性が走っていく、
社員男性「こちらです!お願いします!!」

 傷病者接触、現場到着からおよそ2分。傷病者は40代の男性でオフィスの床、じゅうたんの上で仰臥位となっており、身体には毛布がキレイに掛かっていました。それを取り囲む30〜40人のオフィスの社員の人たち、何をどうしたらいいか分からないようで応急処置はされておらず見守っていました。
私たちがまず思ったこと「これはヤバイ!」
傷病者の男性は顔貌蒼白で倒れている。救急隊長が駆け寄って呼びかける。
救急隊長「もしもし!もしもし!大丈夫ですか?お返事して下さい!!」
私たちには活動基準と呼ばれるものがあります。傷病者と接触する前にまず二次的災害危険の有無(そもそもそこで活動して大丈夫かどうか)、接触したら外見で判断できる観察(出血、変形、顔貌、嘔吐など)、その後呼びかけのように活動の流れが決まっているのです。これにはいろんな意味があって、ある程度パターン化して観察漏れをなくすには大変有意義です。とはいえ、基準は基準、現場は訓練のようにはいきません。パっと見た瞬間、ただ事じゃないことは誰の目にもありらかです。活動基準の流れは隊長が、ならば隊員と機関員はすぐに救命処置、搬送準備にかかる。私の隊には暗黙のルールがあります。
救急隊長「胸の所を押しますよ、痛いですよ!反応なし、意識レベル300、CPR(心肺蘇生法)の準備とモニターしろ!」
救急隊員、機関員「了解!」
救急隊員はすでにAED(心電図モニター)、救急機関員はバックマスクと高濃度酸素の準備をしていました。救急隊長は観察を継続、
救急隊長「…呼吸、脈拍なし。CPA(心肺停止状態)、CPRを開始するぞ!」
救急機関員が準備できたバックマスクを隊長に渡す、バックマスクには10リットルの高濃度酸素が接続されている。機関員はそのまま心臓マッサージへ。CPR開始。救急隊員は傷病者男性の胸を開けて除細動パッドを貼った。
救急隊長「CPR中断、波形は?」
・・・ピ!・・・ピ・・・。波形が出ている、が、洞調率(正常波形)とはとても言えない波形。
救急隊長「総頸動脈で脈拍を確認…、触れず。PEA波形(心電図上波形は出るが脈拍は触れず有効な血液の循環が行われていない状態、CPRが必要)CPR再開!隊員はLM(ラリンゲアルマスク)の準備をしろ」
救急隊員、機関員「了解!」

 先ほどの案内の男性と消防隊がなだれ込んできた。
消防隊長「消防隊到着しました!」
救急隊長「傷病者はCPA状態、ポンプ隊はCPRを支援してください。」
消防隊長「了解しました。CPRを実施しろ!」
消防隊長が消防隊員2名に下命する。消防隊員2名がCPR、バックマスクによる人工呼吸と心臓マッサージを継続した。救急隊員はLMの準備、救急機関員は搬送準備に入る。救急隊長はPHSにて本部に電話。
救急隊長「医師指示要請、○○町の現場、40代男性はCPA状態、波形はPEA、現在CPRを実施中、LMによる気道確保を実施したい。いかがですか?」
電話先の医師「どうぞ実施してください!」
救急隊長「了解しました」
救急隊員「LM、喉頭鏡準備できました」
救急隊長「よし!CPRを一度中断しろ、LMによる気道確保を実施する。」
救急隊長による器具を使った気道の確保を実施、これは救急救命士にのみ許された救命士の特定行為です。
救急隊長「喉頭展開…、喉頭深部異物なし…LMを渡せ…、よし!喉頭鏡を抜くぞ…」
傷病者の喉にラリンゲアルマスクが挿入された。
救急隊長「聴診器、LMにバックマスクを接続しろ!換気の確認」
バックマスクをLMに接続、隊長が聴診器を付け傷病者の胸に当てた。バックマスクを揉んで送気した。傷病者の胸が挙上した。
救急隊長「よし!換気良好、CPR再開!」
救急機関員「搬送資器材準備できてます」
救急隊長「よし!サブストレッチャーに収容」
消防隊と強力して傷病者をサブストレッチャーに収容、CPRを継続しながら搬送を開始。

 車内収容。傷病者の容態は変わらず、波形はでるもPEA、傷病者の上司が同乗した。救急隊長と救急隊員がCPRを継続する。機関員が本部へ連絡。
救急機関員「○町の現場、車内収容完了、状況変わらずCPA状態」
本部「了解しました、T病院救命センター連絡済、搬送を開始してください」
救急機関員「T病院救命センター、救急隊了解!現場出発します」

 現場出発。傷病者接触からここまで15分ほど、活動としては充分早い良い活動だと思います。出場先も私たち救急隊の管轄区域で現着まで5分はかかりませんでした。搬送先病院もまさに現場から目の前、通報から30分掛からないで救命センターに運び込むことができました。私たちとしては大きな失敗もなく、消防隊も同じ消防署の隊だったこともあり連携もスムーズにいきました。

 病院到着。救命センターの前には医師が待ち構えていました。救命センターに運び込んだ傷病者には医師たちの救命処置がほどこされていく。私たち救急隊にできるのはここまで、あとはお医者さんの腕の見せ所です。現場の状況などを説明に救急隊長は医師への申し送りへ。救急隊員、救急機関員は使用した資器材の片付け、救急車内の洗浄へ。
救急隊員「あの人助かるといいですね」
救急機関員「そうだな、まだ若いし助かってほしいもんだよな」
私たちは汗でびっしょりです。心臓マッサージをしながらの活動は救命センターに運び込むまで続きます。真冬であってもその緊迫の現場は汗でびっしょりになる。それでもそれは心地いい疲れです。(心地いいと言ったら誤解を招くかもしれませんけど…)こういうことをするために私たちは救急隊員をしているのです。傷病者が政治家でも有名人でもサラリーマンでもホームレスでも、それが本当に私たちを必要とする傷病者なら私たちは救命のために全力を尽くします。やることはいつだって同じです。助かるかどうかはあとはその人の生きる力。助かってほしい、あとは祈るだけ。

 医師引継ぎを終えた救急隊長が救急車に戻ってきた。
救急隊長「脈拍が再会したってさ」
救急隊員、機関員「よっしゃ!やりましたね!」
救急隊長「う〜ん…。でも呼吸はダメみたいだね。消防隊も頑張ってくれたし、活動時間も掛かってないし、なかなかいい活動だったね。助かるといいんだけど。」
さあ、次の現場がある。気持ちを切り替えて行こう。脈拍は回復した、呼吸が回復し意識まで回復したらそりゃ感動と最高のやりがいがあります。私たちの仕事はお金じゃ量れない、助けた人の命に対価なんてないからです。家族の涙はお金になんて変えられない。でもいちいち浸ってなんていられない。次の出場がすぐに待っているのです。で、だいたい次の現場はガクっと来るようなため息の現場なんですよね…。

 CPA状態の傷病者の脈拍を回復させた功績は大変評価され、私たち救急隊と連携した消防隊の表彰が検討されました。あとはこの傷病者はどれだけ回復するかによってその賞が決まります。仕事を評価してもらえるのは嬉しいですが、表彰とかそんなのよりもなによりも一番嬉しいことはこの人が生きて歩いて消防署を訪ねてくれること。きっとそうなる。

 翌朝、T病院に昨日搬送した傷病者の状況を確認。早朝に死亡を確認…。残念ながら私たちが搬送してから半日でこの40代の男性はなくなりました。私たちとしてはいい活動ができた事案でした。それでも助けることはできなかった。現場に居合わせた人たちが応急救護をしていていたのなら助かっていたのか?私たちがもっと素晴らしい活動ができていたら助かっていのか?医師がもっと素晴らしい救命処置ができていたら助かっていたのか?この人の生きる力が足りなかったのか?それは分かりません。ただ結局、ひとりの男性が死んだ…。それでも私たちの脈拍を回復させた功績?は評価され、たいした賞ではありませんが表彰されることとなりました。
救急隊員「隊長、結局、助けることなんてできなかったのに賞なんてもらっちゃっていいんですかね?」
救急隊長「それは社会復帰までさせられたらそれが最高だけど、なかなかそうは上手くいなかいよ。あの人の場合、結局亡くなっちゃったけどさ、俺たちの活動で半日だけど延命できたんだよな。きっと家族が集まって家族が見守る中で亡くなっていったんだよ。それだって意味のあることじゃないか?」
救急隊員「…そうですよね、きっと」

 助けられなくても私たちの活動に意味があったのか?それともなかったのか?助けてあげたかったな。後日、私たちの元に表彰状が届きました。ちっとも嬉しくありませんでした。私たちは救命のために頑張っている。私たちの活動にきっと意味はあったんだろう…けどやっぱり助かってほしかったな。

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