救急救命士の現場 パラメディック119~すべては救命のために~
パラメディック119緊迫の救急現場血の海…何やってるんだ消防隊は! Up Data 2007.2.18

緊迫の救急現場 case9

血の海…何やってるんだ消防隊は!

 この日は朝から出場が立て込み続けていました。昼食も摂れずもう夕方になろうかという時間でした。出場、そして病院からの帰署途上、また無線で転戦出場する。消防署に帰ることすらできなかったのです。さらに帰署途上の私たちの隊に出場命令が下るくらいですから周辺救急隊ももちろん出場中、連続出場ですから自分たちの管内ではない場所からの出場、それを繰り返すうちとんでもない場所までの出場になりました。以前、救急車が来ない日というお話を書かせてもらいましたがまさにあの状況、私たちの隊にも帰途上、隣のさらに隣の町への出場がかかりました。

ピーピーピー!無線機が鳴る…。
救急機関員「…本当かよ、まだ飯も食ってないんだぜ、消防署に帰ることもできないのか」
本部「救急隊、連続出場となります、受信体制をとってください」
救急隊長「救急車を停車します、少しお待ちください」
救急隊3人「腹減ったけど頑張ろう…」
本部「○町○道路、乗用車と歩行者の交通事故、男性の怪我人が1名、なお重症の模様、すでに消防隊を1隊出場させてあります」
救急隊長「救急隊了解しました、現在地は○町○丁目、出場します」
救急機関員「○町!?それどこだよ?…」
救急機関員が地図の確認をしている。この出場、すでに消防隊を出場させているとの指令内容でした。本部も一番近い救急隊を探して私たちに無線指令しているのです、相当に遠い現場のはず…、○町、どこだ?確かに行ったことがない。
救急機関員「あ!ここだ!ええぇ!10キロ近くあるぞ、この時間じゃ15分…下手すれば20分かかっちゃうよ」
救急隊長「遠いな…」
救急隊は帰署途上先より転戦出場。この時、通報者連絡電話番号は把握できていませんでした。救急隊から通報者に連絡を入れての事前情報収集はできない。それでも交通事故による重傷者が1名いるとのことで全身固定資機材などの高エネルギー外傷対応の準備を行いました。

 出場途上。ピーピーピー!無線機が鳴った。
本部「救急隊」
救急隊長「救急隊です、どうぞ」
本部「先着消防隊からの情報です、本件30代の男性が1名、なお、かなりの出血があるとのこと、重症の模様です」
救急隊長「了解、出血部位、状況等はいかがですか?」
本部「了解…少しお待ちください…   消防隊からの情報は以上です。再度確認して一報します。現着まであと何分くらいかかりますか?」
救急機関員「そんなにすぐ着く訳ないだろ!どれだけ走ると思ってんだ!隊長、あと5分じゃとても着かないですよ」
救急隊長「現着までまだ10分ほどかかると思います。なお○通りは渋滞中」
本部「了解、交通状況に注意し急いでください」
救急機関員「いくら急いだってすぐに着ける距離じゃないよ…」
救急隊長「出血ありだって、部位も出血量も状況も何もなしだよ…」
今では全国で活発に行われている消防隊と救急隊との連携活動。私の町周辺では、この時もすでにかなり活発に行われていました。しかしまだまだ消防職員の教育育成、資格者の数は充実している状況とは言えず、消防隊に救急資格者が常時乗車している状況ではありませんでした。先着消防隊に救急資格者がいるかいないかで消防隊の活動もかなり変わってきます。消防隊から上がってきた情報がこれだけ…、なんとなく嫌な予感はしていたのですが…。

 現場到着。
救急機関員「いた!あそこだ!隊長、あそこに停めますよ」
救急隊長「了解!消防隊は?いないよな…」
救急隊に出場指令が下って約20分、すでに事故が発生して25分程度経過していると思われます。傷病者が重傷者であれば危険な時間です。救急車を停車してまず救急隊長と救急隊員が傷病者の下へ走ります。

 傷病者接触。トラックの後方、路上に男性が仰向けになって倒れている。アスファルトには大量の血液が流れ出していました、まさに血の海です。警察官が到着しており交通整理をしていました。傷病者がひとりで倒れている…なぜ?何やってるんだ消防隊は!?先着しているはずだ、消防隊は何やってる?…!交通整理をしている消防隊員がいました…。警察が来てるだろ、バカか!?傷病者の処置だろ最優先するのは!

 傷病者は30代の男性Sさん、運送業をされている方でトラックから荷物を降ろしている際にほぼノンストップで乗用車が突っ込んできてトラックと車両との間に下腿を挟まれる形になった事故だったとのことでした。顔面は蒼白、意識はややボーっとしている状態でしたがほぼ清明、事故の状況も今の場所、日時などもはっきりと応えられる状態でした。先着した消防隊により右大腿部からの出血に包帯による止血処置が行われていました。消防隊の限られた資機材でできることは限られます。さらに先着して10分以上救急車が到着しない。こんな時、先着消防隊は本当に辛い…。できる処置は止血処置くらい…。ただこの時、私たち救急隊が一番許せなかったのは傷病者がひとり倒れていたこと、できる処置は終わったかもしれないけど、傷病者のそばにいて励まして、声をかけなくちゃいけないんじゃないのか?
救急隊長「高エネルギー外傷、ロードアンドゴー!3次だ、救命センターに搬送するぞ!全身固定、高濃度で酸素投与しろ!」
救急機関員「了解!」
救急隊員「消防隊!全身固定して車内収容します!支援してください」
救急隊長「いい!俺たちでやる」
全身観察、全身固定処置をして車内収容。ほぼ救急隊3人で行いました。不安そうな表情を浮かべて活動していた消防隊、確かに気持ちは分かります。できることもなくなった、消防車で搬送することもできない、救急資格者もおらず救急隊の活動への協力もよく分からない。辛いのは分かる…。でも一番辛いのは傷病者です。

 車内収容。Sさんは右大腿部以外には大きな外傷はありませんでした。事故にあう瞬間、車をかわそうとしたけど間に合わなかったそうです。右大腿部だけを車両とトラックの間に挟みこみ受傷、あとは怪我をしていないと自ら説明してくれました。ただ乗用車の衝撃を右大腿部に受けたのです、相当のエネルギーです。
救急隊長「Sさん、悪いけどズボン切らせてもらいますよ、お怪我したところをもっとよく見せてください、止血ももっとしっかりやらなくちゃいけないかもしれない」
Sさん「はい…いいですよ、切ってください」
救急隊員「切りますよ…(これは…)」
Sさんの右大腿部は激しく損傷して血がにじみ出ていました。私の腕がスッポリ入りそうな大穴が3箇所以上あり大腿骨が飛び出しています。ただ組織も車両に潰される形だったようで動脈性の出血はなく血がにじみ出ていました。右の足背動脈では脈拍が触れませんでした。足の先端まで充分な血液が流れているとは言えない状況です。
救急隊長「Sさん、あなたの右足ですけどすごく大きな怪我です。出血も多いですし、あなたを救命センターという高度な処置ができる病院にお連れします。」
Sさん「分かりました。よろしくお願いします…」
救急機関員「隊長!○病院救命センター、連絡済み、出発しますよ!」
救急隊長「了解、行こう!」
現場出発。

 病院到着。
救命センター医師「Sさん、分かりますね?」
Sさん「はい…」
救命センター医師「あなたの右足の怪我ですけどすごく大きな怪我です。これから麻酔をかけます、あなたは大人のしっかりした方ですからはっきり言いますよ、私たちがこれからあなたの手術をしてどうにか頑張りますけど、最悪切断しなくてはいけないかもしれません、分かってくださいね」
Sさん「…はい。先生、どうにかお願いします」
救命センター医師「はい、最善をつくしますからね」
Sさんは右足を大腿部から下、切断しなくてはいけないかもしれないほどの怪我でした。「右大腿部複雑骨折 重傷」

 帰署途上。
救急隊長「さっきの消防隊、オレは許せないね」
救急隊員「オレもですよ!できる処置ももうちょっとあると思いますけど、傷病者がひとりで倒れていたのが一番許せないですよ」
救急機関員「できる処置もなくなっちゃって救急車がなかなか来なくちゃ辛いのも分かるけど交通整理はないよな」
救急隊長「でも実際、救急隊のオレたちがあの隊にいたって消防隊の資機材じゃできることは止血くらいなものだよな…、消防隊も救急車が10分の15分も来ないんじゃどうしていいか分からなくなっちゃうよな」
救急隊員「結局一番の問題は近くの救急車が待機してないってことですよね」
救急機関員「本当…。オレたちがあんなところまで出場したんだぜ、CPAだったら絶対に助からないよ」

 この活動、傷病者のSさんには本当に気の毒なことをしました。あれだけの怪我をして20分もの間、救急車が来ないのです。ご本人にとっては途方もない時間であったことでしょう。救急出場件数が増大し救急車が現場に早く到着できない。そのひとつの対策として取り入れられた消防隊との連携、現在では消防隊の救急活動への理解も高まり、隊員たちも救急資格者が増えこの時よりはるかに良い連携活動ができるようになりました。救命できた事案に消防隊との連携が欠かせなくなってきたくらい実績も上がっています。ただ、やっぱり一番の原点は救急車が早く現場に到着すること。救急車が来ないんじゃ搬送が始まらない。救急隊が自分たちの受け持ち区域を守り、自分たちの町の人たちの下に迅速に駆けつける。そんな当たり前を取り戻さないといけませんね。

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