救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119~すべては救命のために~
緊迫の救急現場 case13

パラメディック119緊迫の救急現場緊張性気胸、時間との勝負だぞ! up data 2007.10.13

緊張性気胸、時間との勝負だぞ!

 救急隊員たちが研修やテキストなどで学ぶことで、絶対に見逃してはならない兆候、症状などがあります。その中でも代表的なのが「緊張性気胸」です。救急隊員の適切な観察と判断、そして救命に必要な処置のみを行い、早期に病院に搬送することが傷病者を助けられる唯一の道と言っても過言ではない。出会ったなら救急隊の腕の見せ所でしょう。とは言え、そうそう出会わない事案でもあります。私もこれまで明らかな緊張性気胸と思われる事案は数件です。

 「救急隊出場、○街道乗用車同士の交通事故、怪我人がいる模様」との指令に私たち救急隊は出場しました。もう0時も回った深夜です。この○街道は片側一車線の道路、昼間は交通量もそこそこであまりスピードを出して走行できる道路ではありません。
救急隊員(○街道の交通事故、頸部の痛みを訴えている可能性が高いかな?)ガーゼや三角巾などが入っている外傷用のバック、頸部を固定するカラーなどを準備しました。消防署から現場までは1キロほど、この時間もありすぐに到着できます。通報電話番号に電話して情報を取る時間はありませんでした。

 現場到着
 救急機関員「いた!手を振っている!案内人あり」
救急隊長「乗用車と…タクシーだな、2台とも歩道に乗り上げてるぞ」
思っていたよりずっと大きな事故のようでした。事故車両の周りに5,6人の人、みんなこっちだこっちだと手を振っていました。救急隊長と救急隊員が救急車を飛び降りる。
案内人「こっちです、タクシーの運転手さんが意識がないみたいで、早く!」

 傷病者接触
 現場はタクシーと乗用車との交通事故でした。2台とも歩道の花壇を突き破って歩道に乗り上げていました。タクシーの前方と運転席側は大破しており内部に運転手さんがハンドルにもたれかかるようにして座っていました。
救急隊員(高エネルギー外傷だ!)
救急隊長が割れたタクシーのドアから呼びかける。タクシーからは何やら液体が漏れ出していました。隊長が触って臭いを嗅ぐ。
救急隊長「ガソリンじゃない、多分ラジエター液だ、応援要請入れろ!オレが観察する、ロードアンドゴー!、高濃度酸素投与!」
救急隊員「了解!」
救急隊長はタクシーの助手席側を開けて傷病者の下へ。救急隊員は救急車から酸素投与の資器材を準備し隊長に渡しました。
救急隊員「この事故を見た方!情報を下さい!他に怪我をしている人いますか!」
案内人「この人も怪我人です」
案内してくれた男性に手を引かれて若い女性が歩いてきました。
救急隊員「あなたは?乗用車に乗っていたんですか?」
女性「はい…」
救急隊員「乗用車にはもう誰も乗っていない?脱出できない人はいませんね?」
案内人「はい」
救急隊員「分かりました、ごめんなさい、今はあなたの処置はできない!ご覧の通りこの運転手さんが重症です。あなたたちを搬送する救急車はすぐに手配します。申し訳ないけど私たちはこちらの方を優先する、分かってください!」
女性がうなずいた。彼女はとりあえず自分の足で歩ける方です。詳細な観察はできませんが一分一秒を争う方ではないでしょう。
救急隊員「ここにまた車が突っ込んでこないように交通整理をお願いします、協力してください!あなたの安全も図ってください!」
案内人の男性がうなずいた。救急機関員がメインストレッチャーを引いてタクシーまで来た。
救急隊員「機関、消防隊を応援要請、ロードアンドゴー!あとあそこに立っている女性も怪我しているって」
救急機関員「了解!本部に一報する」
救急隊長「はさみを!シートベルトを切らないと出せない、後ろに回れ」
救急隊員「了解」
救急機関員「○救急隊です、本件は高エネルギー外傷、消防隊、救急隊1隊応援要請、事故概要は…」
救急隊長と隊員が傷病者救出へ、救急機関員は本部に応援要請を入れました。
救急隊員「隊長ダメ!後ろは開かない」
事故の衝撃からなのでしょうタクシーのドアは助手席側のみが開く状態でした。助手席のシートを倒して隊員が傷病者の後ろに回る。タクシーの助手席には運転手さんの顔写真入りのネームプレートがありました。
救急隊員「隊長、この人Hさんです、そこに書いてある」
救急隊長「Hさん、Hさん分かる?返事できる?」
Hさん「うぅううぅうう…」
Hさんは苦悶の表情、浅く早い呼吸で唸っていました。呼吸はいびきのようにグーグーと音を出しています。気道が閉塞しつつあるのでしょう。意識レベルは100の不穏状態。まずネックカラーで頸部固定を実施、シートベルトを切断、これがなかなか切れませんでした。
救急隊員「隊長どうですか?足が挟まっているけど俺達だけで出せますか?」
救急隊長「ちょっと待て…、いや、これは無理かも、機関!救助隊も呼べ!脱出不能かもしれない」
本部に連絡中の救急機関員がうなずいた。シートベルトが切れた。
救急隊員「隊長、全身固定は?」
救急隊長「気道確保が優先だ、まず出す!」
救急隊長は傷病者の気道確保のため車外救出を最優先することにしました。助手席のドアしか開かない変形したタクシーの中に傷病者と隊長と隊員3名、活動スペースなんてありません。救急隊単独の出場、マンパワーもない、まず出さないとどうにもなりませんでした。隊員がHさんの脇から手を入れて抱え込みます。
救急隊員「Hさんガンバって!今からあなたを救出します!頑張って!隊長、こっちはOK!引きますよ」
救急隊長「了解、引っ張れ!足が挟まってる…、もっとそっちへ引けるか?よし!それでいい、出せるぞ」
Hさんは救急隊長と救急隊員2名で救出できました。本部への連絡を終えた救急機関員が車外で全身固定資器材を準備していました。救出と同時にHさんを全身固定、救急隊員が全身観察します。

 救出完了
 救急車のヘッドライトが照らす路上、全身固定式材の上に仰臥位としたHさんに隊長と機関員が固定処置をします。隊員が全身観察を実施する。
救急隊員「Hさん、頑張って!今からあなたの身体を触りますよ、分かりますか?」
Hさん「ううぅぅうぅぅう」
Hさんのシャツは血に染まっていましたが出血はそれほどでもない。どこからだ?どこから出血している?遠くから消防車のサイレンが聞こえてきた。
救急隊員「Hさん、頭を触りますよ、!」
まず後頭部に私の指が2本ほど入るような大きな創がありました。ただ出血はたいしたことはない。緊急に処置の必要なし。さらに全身観察を続ける。
救急隊員「隊長、頭部に大きな創があります、ただ出血はたいしたことない、Hさん、胸を触りますよ、シャツのボタンはずしますよ!(これは…)」
Hさんの胸部にグズグズと鈍い感覚、さらに左胸部にはズブズブと鈍い感覚がありました。
救急隊員「隊長、両胸部皮下気腫、左胸部は恐らく多発骨折、処置しますか?」
救急隊長「全身固定できた!まず車内収容、ここじゃ(危険で)ダメだ、車内収容を優先する」
消防隊が到着した。消防隊員たちが駆けつける。
救急隊長「消防隊長、高エネルギー外傷!こちらはこのまま車内収容する、もう1名女性の怪我人がいる。救急隊はもう1隊応援要請済み、まだ怪我人がいるようならそちらでお願いします」
消防隊長「了解!お前は救急隊の支援に当たれ!」
消防隊員「了解です!」
私の代わりにたまに救急隊員をする救急資格者である消防隊員が救急隊の活動支援に当たりました。

 車内収容
 Hさんの全身観察、救命に直結する処置のみを始める。救急機関員が本部に連絡を入れる。救急隊のみの出場、この現場は明らかにマンパワーが不足していました。状況を説明して本部に病院を選定するよう伝えてありました。
救急機関員「車内収容完了、救急隊のみで救出できました。救助隊の要はなし、病院選定はいかがでしょうか?…はい、…はい、了解、隊長!E病院救命センター!出発します」
救急隊長「K病院じゃないの?」
救急機関員「K病院は受け入れ困難だって、出発します」
K病院はここから2キロほどの3次病院、受入れ困難でした。E病院は緊急走行しても10~15分はかかる。病院までもつのか…?

 現場出発
 緊急走行する救急車内、Hさんの呼吸はますます浅く早く、胸部はさっきよりずいぶんと大きく膨らんできました。聴診器で呼吸音を確認してもとても聞こえずらい。さっきより皮下気腫も胸部全体に広がってきた。やっぱりこれは…。
救急隊員「隊長これって間違いないですよね?」
救急隊長「機関、慌てないでいいけど、緊張性気胸、時間との勝負だぞ!」
救急機関員「了解!さっきよりずいぶん苦しそうになってきましたね」
救急隊長「苦しいよこれは…」
救急隊員「Hさんガンバって!今、急いで病院に向かっています、もうちょっとだから、Hさん頑張ってください!」
もうできることは急ぐこと、声を掛けることくらいです。Hさんの胸は大きく膨れ上がり呼吸はどんどん苦しそうになっていきました。それでもどうにか呼吸も脈拍も止まることなく病院に着いた。

 病院到着
救急隊長「先生、気胸が進行してます」
救命センター医師「本当だね、すごいねこれは…」
Hさんは救命センターの処置室に入るとすぐに胸腔ドレーンが入れられ医師たちによる救命処置が行われました。相当な重症でしょうが1分1秒の危機は回避されました。Hさんは脳挫傷、緊張性気胸、さらに血胸、胸部の多発骨折などがありました。「多発外傷 重篤」

 帰署途上
救急隊員「すごい事案でしたね、まさにロードアンドゴー!」
救急隊長「いつ(心臓が)止まるかと思ったよ…」
救急機関員「運転席にいても呼吸様式がどんどん危なくなっていくのが分かりました。呼吸が止まったらやっぱりすぐにCPAになるんですかね?」
救急隊長「多分ね」
救急隊員「本当時間との勝負ですね、全身への高エネルギーですけど助かる可能性は充分ありますね」
救急隊長「そうだね、山を越えられればきっと」
この時の活動は上手くいきました。現場の活動も隊の連携も上手くいった、あと5分搬送が遅れていたらあるいは分からなかった事案でした。こう言う活動こそが救急隊が活躍すべき現場だと思います。ため息現場の中にたま~~~にこう言う事案があるものです。ため息現場ばかりの現実に参ってしまいますが、かと言っていつもいつもこんなに重症の方ばかり扱うのも参ってしまいますね。

 この記事へのご意見・ご感想、追加、修正などなどをお寄せください。パラメディック119ブログ版・救急救命士の待機室にコメントを残すことができます。

パラメディック119緊迫の救急現場緊張性気胸、時間との勝負だぞ!