救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119-すべては救命のために-
緊迫の救急現場 case16

パラメディック119緊迫の救急現場アナフィラキシーショックだ! up data 2008.11.18

アナフィラキシーショックだ!

 先日のニュース、俳優の豊川悦司さんがかきを食べたのが原因だと思われるアナフィラキシーショックで病院搬送されたと言うもの。人気俳優に起こった事故に各マスメディアでも大々的に紹介されていました。そう言えばあったなぁ、今回のお話は明らかにアナフィラキシーショックであった少年のお話、本人、家族に緊迫感はありませんでしたが、私たちにはかなりの緊迫の現場でした。

 時間は夕飯時、辺りが暗くなり始めた夕方でした。「救急出場、○町○番、B方15歳男性は呼吸苦、通報は母親から」との指令に私たち救急隊は出場しました。
15歳の少年が呼吸苦、過換気症候群かな?若い女性に多いものですが、男性でもこの年齢なら珍しくはない。それとも喘息発作でも持っているのかな?こんなことを疑いながら出場しました。現場は直近、5分ほどで現場に到着しました。

 現場到着
指令先のBさんのお宅の前には女性が立っており手を振っていました。
救急隊長「通報いただいたBさんですね?お母さんですか?」
母親「はい、私の息子なのですが、突然意識を失って…」
救急隊長「意識を失った?今はお話はできますか?」
母親「今は大丈夫です、しっかりしています、ただ何かおかしいんです」
救急隊長「分かりました、案内してください」
私たちが資器材を携行し母親の後に続くと、父親に腕を引かれて少年がこちらに向かって歩いてきました。
母親「あっ!あの子です」
救急隊長「あの子が患者さん?」
母親「そうです」
傷病者はひとまず歩いて救急車に向かって歩いてこれる方、1分1秒をどうこうの緊急性はなさそうです。
救急隊員「大丈夫?ここに座れますか?」
傷病者「はい、大丈夫です、すみません」
救急隊員と機関員はすぐにメインストレチャーを準備して傷病者を収容しました。傷病者は15歳の少年Bくん、意識は清明、受け答えもしっかりしています。辺りは暗く顔色を伺うことはできませんでした。

 車内収容、傷病者接触
救急隊長「どうしましたか?」
傷病者「はい、食事をして、なんか体がかゆいと言うか、熱いというか…変になったんです」
救急隊員「ちょっと指に機械をつけさせてもらいますね、血圧も測りますよ… あれ?ずいぶんと体が赤いな…顔色もずいぶんと赤いけど、お風呂にでも入っていた?」
傷病者「いいえ」
救急隊長「お母さんの話だと意識を失ったって言う話だけど」
傷病者「いえ、意識は失っていません、母が何か呼んでいるのはずっと分かっていました。ただ何か力が入らなかったと言うか…よく分からないんですけど…」
救急隊長「今は何が一番辛いのかな?」
傷病者「特に辛いと言うことはないのですが…ただちょっと息苦しい感じがします」
救急隊員「隊長、この腕…腫れている、発赤も全身ですよ」
救急隊長「お母さん、Bくんは何かアレルギーはありませんか?」
母親「特にはないんですけど、小さな頃におそばを食べて気持ちが悪くなったことがあってそれからは食べさせていません」
傷病者「さっき、夕食の時にそばなら少し食べました、もう大丈夫かなぁって、でも本当に一口です」
救急隊長「その後すぐ?おかしくなったのは?」
傷病者「えっと…そうですね、30分くらい経ってからだと思います、僕もそばを食べたのが原因だとは思います」
救急隊長「ちょっとごめんね、服をめくるよ、全身をちょっと見せてね」
傷病者「はい」
Bくんの発赤は全身に及んでおり全身がうっすらと腫れあがっている状態でした、さらに…
救急隊員「隊長、血圧なんですけど収縮期で80mmHgしかありませんよ」
救急隊長「間違いないな!隊員は3次病院選定!」
救急隊員「了解」(やばい!緊急度大!これはアナフィラキシーショックだ!)
小さな頃にそばを食べて気分が悪くなったことがある。それ以来、食べていないそばをさっき一口食べてから何かがおかしくなったとの訴え。さらに全身の発赤、息苦しさ、血圧の低下、アナフィラキシーショックを疑うべきキーワードが揃っていました。

 ここで本当に簡単にアナフィラキシーショックについて触れておきます。アナフィラキシーショックに陥ると血管の緊張が緩みます。全身を流れている血液の量は変りませんが、血管が広がることで血管の容量が大きくなってしまいます。相対的に血液量が低下しているような状態になり、、脳血流量も低下してしまいます。意識を失ったと言う母親の話にも繋がります。私たちはアナフィラキシーショックであると判断、緊急度が非常に高いことから救命救急センターに搬送することにしました。本来であればBくんの保護者である母親に救命救急センターという病院に搬送する旨、傷病者の今の状態、救急隊が判断したことなどを説明し、理解してもらった上での選定開始なのですが、この時はそんな暇もなくすぐに病院選定を開始しました。病院はすぐに決定しました。

 搬送途上
救急隊長「Bくん、大丈夫?気持ち悪くなったりしたらすぐに言うんだよ」
傷病者「大丈夫です、さっきよりずいぶんとよくなりました」
救急隊員「それはよかった、もうそばは食べない方がいいね」
傷病者「そうですね、一口食べてみてやっぱり何かダメな感じがしました」
救急隊員「たくさん食べなくて本当によかったね」
などなど、私たちは搬送途上、ずっと傷病者に話かけ続けました。突然の容態変化を見失わないためです。そういった状況、さらに搬送時間は5分ほどであったこともあって、病院に到着するまで詳しい状況を母親に説明することができませんでした。

 病院到着
直近の救命救急センターに搬送、搬送途上に容態変化もなく無事に医師に引き継ぐことができました。
傷病者「なんかこんなにたくさんの先生にお世話になってすみません」
医師「Bくん、君はあまり分かっていないかもしれないけど、命が危なかったんだよ」
傷病者「そうなんですか?」
医師「今の状態だと大丈夫だとは思うけど、ひとまず今日は入院だから」
傷病者「ええ!そうなんですか!」
医師「そう、今日は絶対に入院」
Bくんは今夜一晩は集中治療室での管理になるとのことでした。「アナフィラキシー 中等症」
救命救急センターの処置室から出てくると待合室のベンチにBくんの母親が座っていました。
母親「ご迷惑おかけしました、ありがとうございました」
救急隊員「いいえ、今もBくんはしっかりとお話できる状態です。先生に自分の状態をしっかり説明しています。詳しいお話は処置が終わってから先生がして下さると思いますから、お母さんはこちらでもうしばらくお待ち下さい」
母親「はい、分かりました。今日、帰れますよね?」
救急隊員「いや…、処置室で先生も言っていましたけど今日は絶対に入院ですって」
母親「ええ!入院するほど悪いんですか!?」
救急隊員「いや…、Bさん、私たちももっと詳しく説明できなくて申し訳なかったんですけど、お子さんの状態なんですが、生命に関わる危険性が非常に高いと判断したからこちらにお連れしたんですよ」
母親「そんなに悪いんですか!?」
救急隊員が救急隊がアナフィラキシーショックを疑い、実際そうであった旨、アナフィラキシーショックに陥るとどのような危険性があるのかを説明しました。
母親「まあ…たいへんなことだったんですね」
救急隊員「ええ、ただもう処置してもらっていますし、今もはっきりお話できる状態ですから」
母親「本当にすみませんでした、私も主人もそんなにたいへんなこととは全然思わなくて、本当に助かりました」
救急隊員「いいえ、私たちはこれで失礼いたします」

 帰署途上
救急隊員「…って今、お母さんに言われましたよ」
救急隊長「確かに現場でしっかりした説明ができなかったな、ただそれどころじゃなかったよな」
救急隊員「そうですよね、喉頭浮腫でも起こして気道閉塞にでもなったらあっという間に容態変化ですものね」
救急隊長「呼吸苦の訴えもあったし充分考えられるね、本当容態変化もなくてよかった」

 アナフィラキシーショックは人によって症状の重症度や進行の速度などかなり個人差があります。そもそもほとんどの人にとってそばは一般的食べ物、それが今回のBくんにとっては命に関わる重大な毒になった訳です。今はしっかりと話をしている、これがまったくあてにならない現場、私たちとっては冷や汗モノの緊迫の現場でした。

 この記事へのご意見・ご感想、追加、修正などなどをお寄せください。救急救命士、救急隊のみなさんのアナフィラキシーショックに関わる事案などお待ちして.いま.す。パラメディック119ブログ版・救急救命士の待機室にコメントを残すことができます。

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