救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119-すべては救命のために-
緊迫の救急現場 case17

パラメディック119緊迫の救急現場あれ…?心室頻拍だ! up data 2008.12.10

あれ…?心室頻拍だ!

 私たち救急隊が見逃してはならない兆候、症状というものがあります。それは傷病者をパッと見て分かるもの、見たり、聞いたり、感じたりと五感を活用して分かるもの、そして資器材を使って初めて分かるもの。この時は何かよく分からないからと一応と使ってみた資器材に助けられた事案でした。あの時、資器材を活用しなかったらあるいは…。

 「救急出場、○町○丁目W方急病人、60代男性は呼吸苦、なお喘息発作の模様、通報は奥さんから」との指令に私たち救急隊は出場しました。指令段階で喘息であるとの付加情報がありました。
救急隊員(喘息を持っている方か、どこかかかりつけの病院があるだろうな)

 現場到着
指令先のWさんのお宅の前には通報者の奥さんが案内に出ていました。
救急隊長「通報いただいた奥さんですね?」
奥さん「はい、お願いします」
救急隊長「喘息発作ですか?お話はできますか?」
奥さん「はい、話はしっかりしています。もう1週間も前からなんです。」
救急隊長「もう一週間?」

 傷病者接触
傷病者のWさんは60代の男性の方です。、自宅の部屋の布団上に寝ていました。
Wさん「ああ!すみません」
私たちを見て起き上がろうとするWさん。
救急隊長「ああ!そのまま、そのまま!そのまま楽にしていてください」
Wさん「そうですか」
救急隊長「どうされましたか?」
Wさん「いえね、こうして横になっていると大丈夫なのですが、起き上がるとどうにも苦しくなってしまってね…」
意識は清明、Wさんはとてもしっかりしており呼吸も特に苦しそうと言うことはありません。喘息発作特有のヒューヒューと狭窄音がしている様子はありませんでした。喘息発作であるとの指令情報から救急隊員はまずサチュレーションの測定、胸部の聴診を行いました。
救急隊長「起き上がると苦しくなってしまう?それはもう一週間も前から?」
Wさん「そうなんですよね」
救急隊長「喘息はどちらの病院にかかっているのですか?」
Wさん「いえ、もうかかっているということはないですよ。若い頃、喘息がちでかかっていたのですが、大人になってからは発作を起こすこともなくなったので」
救急隊長「喘息があるとのお話だったのですが、今は治療していないのですね?」
Wさん「ええ、子どもの頃の話です。もう30…40年か、喘息と言うことはないですね。ただ、起き上がると喘息の時みたいに苦しくなるんです」
救急隊員「隊長、呼吸音は正常ですよ、サチュレーションは80%代」
救急隊長「サチュレーションは80%代か…酸素投与しようか」
救急隊員「了解」
慢性的に喘息を持っている方ならサチュレーションが80%代でも普通にしている方もたくさんいます。身体が低酸素の状態に慣れてしまっているからです。ただ、もう40年も喘息を起こしたことのないWさん、昔は発作を起こしたことがあり、本人がその症状だと思うと言うのです。う~ん…。ただ、どうも喘息とは思えない…。喘息発作ならむしろ起き上がっていた方が楽なはずです。救急隊の酸素投与でサチュレーションはすぐに90%代となり改善しました。考えられるのは心臓、ひょっとして心臓喘息ではないのか?心臓喘息とは心不全が進むと現れる喘息のような症状のことです。
救急隊員「Wさん、ちょっとお布団をめくりますよ、お体見せてください」
Wさん「はい、分かりました」
心不全に特徴的な頸静脈の怒張や下腿の浮腫もありませんでした。血圧も特に異常なし、脈拍も不整がある訳ではなく60回/分代、ちょっと除脈気味ですが異常値ではありません。
救急隊長「不整は感じられないな…」
救急隊員「隊長、モニターしましょうか」
救急隊長「そうだね、そうしようか」
この時の一応と言う感じで貼った心電図モニター、この活動の要になりました。
救急隊員「あれ?あれれ??ちょ、ちょっとWさん力を抜いて楽にしてもらえますか」
救急隊長「あれ?」
AEDのディスプレイに映し出されたハートレートは200回/分もの数値を示しています。
救急隊員「隊長、これってVT(心室頻拍)ですよ!」
救急隊長「除細動パッドに張り替えろ!酸素の流量も上げろ!」
救急隊員「了解!」
VT、心室頻拍はVF(心室細動)と同様、除細動の適応です。ただ、心室細動と違って時に脈拍を保ち、このWさんのように意識をしっかり保つ方もいるのです。脈ありのVT、ただ一気に脈なしのVTに変わりVFになってしまう可能性が非常に高いのです。緊急度大!
救急隊長「Wさんは不整脈はありませんか?心臓にご病気なんてありません?」
Wさん「いいえ、ありません」
Wさんは若い頃に喘息を持っていたくらいで大きな病気はなく、かかっている病院などない方でした。
救急隊員「CCU?それとも三次選定にしますか?」
救急隊長「…。三次にしよう、機関員は搬送連絡、隊員は搬送の準備、オレは説明する」
救急隊員、機関員「了解」
救急隊長「Wさん、奥さんもよろしいですか、今のあなたの状態なのですが、たいへん危険な不整脈が出ています。お連れする病院なのですが…」
もともと不整脈をお持ちの方で脈ありのVTになってしまうことがあるなんて方もいます。そんな方の場合はかかりつけの医療機関、循環器の医師がいるところに搬送すればよいのでしょうが、このWさんの場合、そんな既往症はありませんでした。
Wさん「そんなに大げさじゃないよ」
救急隊長「Wさん、大げさじゃないってことはけっしてないよ、あなたの心臓に起こっている不整脈はすごく危険な不整脈なんですよ」
奥さん「お願いします、救急隊の方にお任せします、あなたも言うこと聞かなくちゃダメじゃない!」
私たちは最悪の事態も想定して三次選定、救命救急センターに搬送することにしました。

 車内収容、現場出発
救急隊長「Wさん、大丈夫ですね?ご気分悪くないですね?」
Wさん「大丈夫、大丈夫だって!そんなに大げさじゃないよ」
奥さん「何言っているのよ!だから早く病院に行けばよかったじゃない!」
体調を崩してから一週間も大丈夫だからと病院に行かなかったWさん、奥さんに怒られていました。Wさん本人はそんなの大げさ、奥さんがお願いしますと言うからしぶしぶ…そんな感じでした。緊迫感のない傷病者、そんな状態の夫に救急隊から危険だからと説明されたものの、いまいちピンときていない奥さんでした。一方の私たちはピリピリ、いつ容態変化してしまうかもしれない。ただ、私たちの目の前で脈なしVTやVFに変化したのならすぐに除細動が打てる。すぐにCPRを開始できる。容態変化を見逃さなければ容態変化があっても救命できる可能性が非常に高い、いや、助けなければならない傷病者です。私たちは病院に向かう救急車内でWさんに話しかけ続けました。容態変化を見逃さないためにです。
救急隊員「Wさん、大丈夫ですね?ご気分悪くないですね?」
Wさん「だから、大丈夫だって!」

 病院到着
医師「波形どうですか?変わりませんか?」
救急隊長「VTです、変化ありません」
医師「レベルは?」
救急隊長「ずっと清明です、しっかりされていますよ」
医師「Wさん、こんにちは」
Wさん「こんにちは、お世話になります」
救命センターに運び込まれたWさん、すぐに処置台に移され医師たちの処置が始まりました。
医師「本当だ、VTだな」
Wさんは救急隊が接触した時から状態は変わらず、意識は清明、VTは継続していました。医師からの質問にもしっかり答えています。

 容態変化
私たちが救命救急センターに運び込んで数分、
医師「Wさん、Wさん!お返事してください!Wさん、しっかりしてWさん!先生、容態変化です!総頸(動脈)触れません」
Wさんは心肺停止状態になりました。医師たちによる心肺蘇生法、除細動などの処置で数分で心拍は再開、救命センター処置台の上で起こった容態変化です。最も危険な状態に陥ったWさんでしたが、これ以上ない場所で起こった容態変化でした。
医師「良い判断だったね、搬送があと数分遅れていたら現場か車内かで容態変化だったね」
救急隊長「そうですね…」
「院内心肺停止 重篤」

 帰署途上
救急隊長「いやいやいやいや~…危なかった…」
救急機関員「運び込んですぐに容態変化ですか」
救急隊員「これぞ救命ですね!三次選定で間違いなかったですね」
救急隊長「本当だよ、でも車内で容態変化しなくてよかったなぁ」
救急機関員「よくモニターしようって思ったな」
救急隊員「喘息って感じではないし、心臓喘息かと思ったんですけど心不全の兆候もないし、何か分からないから一応ですよ」
救急隊長「いやぁその一応が良かったよ、この活動、あそこでモニターとらなかったら分からなかったよな」
救急機関員「内科選定なんてやっていたら選定中に落ちて(容態変化)いたかもね」
救急隊長「多分、そうなってたな」

 まさに危機一髪、ギリギリで運び込んだ事案でした。救急救命士だからこそ行える処置は何ひとつ行っていませんが、迅速に適切な医療機関に搬送する、救急隊として本来業務を遂行して助けられた事案でした。

 この記事へのご意見・ご感想、追加、修正などなどをお寄せください。脈ありVT、意外と出会う事案ではないでしょうか。みなさんはどのように対応しましたか?CCU?三次?パラメディック119ブログ版・救急救命士の待機室にコメントを残すことができます。

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