救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119-すべては救命のために-
緊迫の救急現場 case21

パラメディック119緊迫の救急現場突然の背部痛、足背触れず up data 2009.9.26

突然の背部痛、足背触れず

 今回のお話は緊急度・重症度を判断する上でいくつか重要な所見がでており、私たち救急隊としては適切な医療機関に早期に搬送できた事案でした。このお話では当サイトでははじめての試み、クエスチョン編とアンサー編とに分けてお話を作成します。

 「救急出場、○町○丁目Tさん方、男性は背部痛を訴えているもの、通報は妻から」との指令に私たち救急隊は出場しました。現場は私たちの隊の受け持ち区域、数分で到着できる距離でした。

 現場到着
Tさんのお宅の前には手を振る女性の姿がありました。Tさんのお宅は住宅街の一戸建てでした。
隊長「ご通報いただいた奥さんですね?」
奥さん「はい、こっちにいます、お願いします」
奥さんは玄関には入らず私たちを家の脇から庭先へと案内しました。
奥さん「主人が庭でゴルフの練習をしていたら急に背中が痛いというので、あまりに痛そうで動けないようなので119番しました」
隊長「それは突然にですか」
奥さん「はい、私が洗濯物を干そうとしたら急にそんなことを言い出して…」

 傷病者接触
傷病者のTさんは50代の男性、庭でうずくまっていました。自宅の庭でゴルフの練習をしていたところ急に背中に痛みが走り激痛でとてもうごけなくなってしまったとのことでした。ゴルフの練習と言ってもそこまで広い庭ではありません、クラブを握りスイングの練習をしていたとのことでした。パっと見て顔色は優れない、ただ蒼白と言うほどではありませんでした。
隊長「どうされました?」
Tさん「お願いします…いえね、スイングの練習をしていたのですが…急に背中に痛みが走って…」
隊長「痛くてとても動けないですか?」
Tさん「ええ…何でしょう…痛くてたまりません…」
隊長が傷病者に問いかけている間に隊員はTさんの身体に触れ脈を取っていました。
隊員(…脈拍は…脈拍は…ん?触れないぞ…脈拍は…いや触れている、でもとてもとりずらい、頻脈だな、それに…)
隊員「Tさん、ゴルフの練習はずいぶんとされたのですか?ずいぶんと汗をかいていますが?」
Tさん「いや…5分やったかやらないか、本当に少しだけです」
隊員「隊長、脈拍はずいぶんととりずらいです、それから冷汗があります」
隊長「分かった、このままじゃモニターも取れないからまず車内収容しよう、メインはここまで入るかな?」
機関員「ひとりじゃ無理です、隊員と二人で持ち上げながらならここまで持ってこれますよ」
隊長「よし、それじゃふたりでここまで持ってきてくれ」
隊員・機関員「了解です」
Tさんはうずくまり背部の激痛で動けないと訴えていました。このままでは詳細な観察はできないし、傷病者にも負担になるだろうと隊員と機関員は玄関前に置いてきたメインストレチャーを取りに向かいました。
隊長「Tさん、今あなたを搬送するストレッチャーをここまで持ってきます、そのままご自分が一番楽な姿勢を保っていてください、これから酸素マスクをさせてもらいますよ」
Tさん「はい…」
測定していたサチュレーションモニターは90~92%程度を示していました。酸素投与ですぐに98%程度に改善しました。

 車内収容
Tさんをメインストレチャー上に坐位とし車内収容しました。
隊員「Tさん、血圧や心電図をとらせていただきますよ」
Tさん「はい」
隊長「それではこれまで特に大きなご病気などされたことはないと言うことですね?」
奥さん「ええ、手術も入院もいっさいありません、とにかく元気な人で病院になんてここ何年もかかっていません」
隊長「そうですか、分かりました」
心電図は特にこれといった不整脈はありませんでした。ただ、脈拍は130代、やや頻脈気味、血圧は収縮期が100mmHgでした。
隊長「反対側でも血圧は測定しろよ」
隊長「はい、分かりました」
隊長「Tさん、血圧はいかがですか?特に問題はありませんか?」
Tさん「ええ、会社の検診でも指摘されたことはありません、いつも120か130程度です」
隊長「分かりました、痛みの位置はどうですか?先ほどと変わっていませんか?」
Tさん「ええ、さっきまではこの…肩の、この辺りが痛かったのですが、今はここら辺りですね背中です」
隊長「そうですか、一番痛い場所は少し下がってきていますね」
Tさん「ええ、そうですね」
反対側の上腕で血圧測定するもはやり収縮期で100mmHg程度、左右に差はありませんでした。ただ…
隊員「Tさんもう一度足を触らせてくださいね」
Tさん「ええ」
隊員「隊長、ちょっと触知してもらっていいですか?触れますか?私は触れていないと思うのですが」
隊長「どれ?…う~ん、そうだな感じられないな」
Tさんの足背動脈を触知しようとするもどちらも触知することができませんでした。
隊員「間違いないですよ」
隊長「選定科目は分かるな?搬送連絡を実施してくれ、オレはご本人と奥さんに説明するから」
隊員「了解」


 クエスチョン編はここまでです。今回は医療従事者や救急隊の方でないと少し楽しめないお話になっています。かなりヒントとなるキーワードがちりばめられています。まさにテキスト通りである典型的症状が出現していました。ズバリ、救急隊が疑ったのは何でしょうか?現役の救急隊の方、また救命士の卵や学生さんなどなど、みなさまからのたくさんのご参加をお待ちしています。救急救命士の待機室にコメントを残すことができます。みなさまからのたくさんのコメント、回答をお待ちしています。


 アンサー編(追記2009.10.13)

 この活動、迷いどころは3次にすべきか循環器の専門処置ができる医療機関にすべきかであると思います。ただ、今回のこのTさんのお宅の場合、それはあまり問題にはなりませんでした。と言うのも、3次もCCUも併設した大病院がすぐそばにあったからです。と言うよりこの病院しかありません。あとはどこも緊急走行しても10分以上かかる距離です。私たちは直近のこの病院を選定、こちらの病院は3次も併設するこの辺りでは最も大きな病院です。Tさんのお宅からも5分弱、本当に目と鼻の先という所です。

 病院連絡
隊員「…という患者さんです、先生、救急隊は解離を疑っています。容態変化もあり得ると思います3次の方が良いですか?」
医師「分かった、うちのCCUで対応するよ、容態が変わっても3次で対応できるからすぐに連れてきて」
隊員「分かりました、お願いします」

 医師引継ぎ
医師「本当だね、足背動脈が触れない」
隊長「先生、やっぱり解離でしょうか?」
医師「状況からみれば恐らくはね、今から検査しますから見ていきます?」
隊長「ええ是非」
映し出されたのは裂けた大動脈の様子でした。
医師「ああ!やっぱり裂けてるか…、良い選定でしたね、お見込みの通りでした」
隊長「やっぱりそうですか、どの辺りまで裂けていますか?」
医師「う~ん、そうだなぁ、胸部大動脈の下部ってところですね、多分ここまでいっきに裂けたんじゃないかな」
隊長「下肢で脈拍が触知できないのは解離のせいでしょうか?」
医師「…この位置だとまだ影響はないと思うんだけどなぁ、分からないけど単純に血圧が落ちてきているからじゃないかと思いますよ、でも両足背の観察は重要ですよ」
「急性大動脈解離 重症」

 医師の判断では解離が及んでいるのは胸部大動脈の下部辺りまでだそうで、痛みが移動したのは解離が進行したからだろうとのことでした。解離はねじれながら進行することが多いそうで、解離が進行していくと下行大動脈への血流を妨げることがあるので両下肢の脈拍触知や血圧の左右差も重要な所見になります。今回の両足背動脈が触知できないと言う観察情報は重要でした。…ただ、解離により触知できなかったのではなく、これは単純にショックから触知できなかったのではないかとのお話でした。詳しい検査をさらにしないと何とも言えないが、下行大動脈に及ぶほど解離は進行していないのではないかとのことでした。

 帰署途上
隊長「あの痛がり方はやっぱり解離だったな」
隊員「ええ、背中に痛みっていうからそうかと思って行きましたけどオレでもすぐに分かりましたよ、疑う所見もずいぶんとそろっていたし」

 いかがだったでしょうか?皆様の予想は当たったでしょうか?この記事に対するご意見ご感想をお寄せください。救急救命士の待機室にコメントを残すことができます。皆様からのたくさんのコメントをお待ちしています。

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