パラメディック119-すべては救命のために-

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緊迫の救急現場 case25

パラメディック119緊迫の救急現場ヒントは現場に落ちている up data 2010.1.26

ヒントは現場に落ちている

 救急隊が出場して行く現場には人々の生活があり日常があります。それは環境、性格、家族構成、季節などなど様々な影響を受けるものです。100の現場には100の活動が必要です。ひとつとして同じ現場なんてありません。それが現場活動の難しいところであり、またやりがいのあるところだと思います。私たちは向き合う傷病者の病態が分からない時、それを導くヒントを探します。それは傷病者観察から導けることであったり、家族の話から導けることであったり、時に現場に落ちていたりするものです。それをどのように導き出すか、救急隊には知識、冷静な判断、広い視野、そして経験が必要です。

 消防署に出場指令が鳴り響きました。「救急隊出場、○町○丁Bさん方急病人、男性は意識もうろう、通報は妻から」との指令に私たち救急隊は消防署を飛び出しました。

 現場到着
指令先のBさんのお宅は住宅街の一軒家、私たちの受け持ち区域であったためすぐに到着できました。

 傷病者接触
案内に出てきたのは60歳くらいの女性でした。この人が通報者の奥さんでしょう。
隊長「救急隊です、ご通報を頂いた奥さんですか?」
奥さん「はい」
隊長「どうされましたか?ご主人のご様子はいかがですか?」
奥さん「今は話ができるようになりました、通報した時は何かもうろうとしていて様子がおかしかったのです」
隊長「そうですか、どちらにいらっしゃいますか?」
奥さん「こっちです」

 傷病者接触
傷病者は60代の男性でBさん、部屋のリビングの椅子に座っていました。座位を保つことができる方、意識はしっかりとしている方です。
隊長「おはようございますBさん、救急隊です、分かりますか?」
Bさん「??」
キョトンとした表情のBさん、恐らく分かっていません。
隊長「Bさん、おはようございます、救急隊ですよ、どうされましたか?」
Bさん「救急隊?え…ああ…どうも…」
隊長「奥さんがご様子がおかしいからと私たちが要請されたのですよ、分かりますか?」
Bさん「…はあ…??」
隊長「Bさん、お名前を教えていただけますか?」
Bさん「…?」
Bさんは隊長の質問の意味が分かっていませんでした。
隊長がBさんに話しかけている間にも隊員はBさんの身体に触れ状態を観察していました。
隊員「隊長、Bさんの脈拍なのですがけっこう除脈です、それに不整もあります、モニターしますよ」
隊長「ああ、意識レベルも悪いし酸素投与もしよう、バイタル測定と搬送準備を進めてくれ」
隊員・機関員「了解」
隊長「ご主人は日常はどうなのでしょうか?私の質問に答えられないような事はありますか?」
奥さん「そんな事はありません、やっぱり様子がおかしいです、さっきまではもっともうろうとしていて酷かったんです、今は少し良くなっています」
隊長「そうですか…、ご主人は何かご病気をお持ちでしょうか?」
奥さん「慢性腎不全で透析をしています、それから糖尿病があります」
隊長「それは糖尿病を起因としての腎不全ですか?」
奥さん「はい、糖尿病を患って、それから腎も悪くなりました」
奥さんの話によるとBさんは40代の時に糖尿病を患い、次第に腎臓も悪くなったとの事、数年前から人工透析を導入するようになったとの事でした。他には特に病気はないとのことでした。
隊長「透析はいつ実施していますか?」
奥さん「月・水・金に実施しています」
隊長「今日は日曜日だから一昨日実施したのが最後ですね?」
奥さん「はい、そうです」
Bさんは週に3回、近所の透析クリニックにて人工透析を実施している方、バイタルサインは意識レベルJCS3、呼吸は18回/分程度、血圧は収縮期で100mmHg程度、脈拍は40~50回/分程度で明らかな不整、SPO2は90%程度、酸素投与ですぐに99%となりました。
隊員「隊長、この波形、それからこの除脈、血圧も落ちています、レベルが落ちたのもこれが原因かもしれませんよ」
隊長「アダムストークスか…でもブロックはなさそうだな?」
隊員「いや…どうでしょう?P波が分からないですよ、この波形では…」
心電図で特徴的であったのはP波が不鮮明…と言うより欠落していたこと、QRSが幅広であったこと、T波がR波より増高していたことでした。さらにこの現場にはヒントが落ちていました。
隊長「奥さん、そのテーブルに果物がありますがご主人はそれを召し上がってはいませんよね?」
奥さん「いや…実は少し食べているんです」
隊長「食べている?果物は気をつけるように言われていませんか?」
奥さん「ええ…医師にもそう言われているのですが、実は昨日、孫が遊びに来たものですから…」
奥さんによると昨日、かわいがっているお孫さんが遊びに来て、その際に用意していたケーキをBさんも一緒に食べたそうです。そのケーキにはたくさんのフルーツがのっており、さらにテーブルにあった果物なども食べたとの事でした。家族から得られた情報からのヒント、傷病者観察から得られたヒント、そして現場に落ちていたヒントが答えを導き出してくれました。
隊長「これは間違いないな、バイタルも良くないし3次選定しよう、AEDはDCパッドに張り替えてから搬送するぞ」
隊員「了解です」
救急隊長は緊急度が高いと判断し3次高度救命救急センターへの搬送を判断しました。DCパッドとは除細動を打つことのできるAEDのパッドです。これから搬送に際してBさんは容態変化し電気ショックを打つかもしれないほど危険な状態であるとの判断です。


 クエスチョン編はここまでです。私たちはBさんを救命救急センターに搬送しました。この活動、2次にすべきか3次にすべきかは迷いどころでした。しかし、結果的には3次選定で大正解、搬送先の医師にも3次選定で間違いないと評価してもらいました。ズバリBさんの傷病名は何だったでしょうか?典型的なヒントがいくつもそろっていますので簡単だと思います。現役の救急隊の方、救急救命士の卵や学生さんなどなど皆さまからのご意見をお待ちしています。救急救命士の待機室にコメントを残すことができます。


 アンサー編追記(2010.2.8)

 車内収容
隊員「やっぱり坐位が良いですかね?」
隊長「ああ、この方がサチュレーションも良いみたいだしこのまま搬送しよう」
慢性腎不全があり、サチュレーションが悪かったことから肺水腫など呼吸不全を起こすことを考慮したのですが、Bさんの呼吸音はクリア、浮腫など特徴的な症状はありませんでした。Bさんは意識状態が悪く座っている方が楽だとは訴えませんでしたが、人は辛い時には無意識のうちに最も楽な体位を保つものです。Bさんは接触時から意識レベルが悪いにも関わらず坐位でいました、搬送体位は坐位としました。
機関員「車内収容完了、救急隊は○病院救命救急センターに向かい現場出発します」
本部「了解、容態変化等があった場合は早期に連絡してください」
機関員「了解しました」
機関員が搬送開始の旨の報告、搬送先医療機関についての確認を行っていました。受け入れ先はすぐに決まりました。
隊長「Bさん、分かりますね?お返事できます?」
Bさん「?…」
Bさんの様子、バイタルも先ほどと変わりませんでした。
機関員「隊長、搬送先は○病院、出発しますよ」
隊長「了解」
動き出した救急車、現場出発です。

 搬送途上
隊長「Bさん、Bさん、分かりますか?」
Bさん「ええ、あれ?分かります、あれ?」
隊長「救急車ですよ、私たちは救急隊です」
Bさん「救急隊、ああそうですか」
急に我に返ったBさん、しっかりとした口調で話しができるようになりました。
隊員「隊長、ハートレートが90まで上がりましたよ」
隊長「本当だ、だからしっかりしてきたんだな」
かと思うと…
隊長「Bさん、ちょっとBさん、分かりますか?」
再びうつろな表情になるBさん、容態変化かと冷や冷やする私たち、救急車の中に流れるAEDのモニター音、ピ・・・・・・・・・・・・・・・・・ピ・・・・ピ・・・・・・・・・・・・・・・・・ピ・・・とにかく遅い…。
隊員「隊長、ハートレートが今は20くらいですよ」
隊長「分かってる、総頸動脈でしっかり触れている、大丈夫だ…」
いつ容態変化するだろう?いつ心停止に陥ってしまうのだろう?冷や冷やしながらの搬送途上でした。Bさんの脈拍数は実に不安定、脈拍数が上がれば我に返り、下がれば意識も落ちてきてしまう、脈拍数とリンクして意識レベルも良くなったり悪くなったりを繰り返しているのでした。脈拍数がこれだけ遅くなれば循環に異常をきたします、つまり脳血流量も落ちてしまう、だから意識が悪くなる、この症状はやはりアダムストークスで間違いなさそうです。

 病院到着
私たちはBさんを3次高度救命救急センターに搬送しました。Bさんはどうにか容態変化することもなく、病院到着時にはむしろ意識レベルは良くなってきていました。救急隊のストレッチャーから救命センターの処置台に移ったBさん、自身で医師からの質問に応えています。
医師「意識はしっかりしているんだね」
隊長「今は…です、搬送途上も良くなったり悪くなったりを繰り返していました、とにかく不整脈が著明で、脈拍と同期して意識レベルも変化しました」
医師「状況は連絡を受けたけど高カリウム血症を疑っての3次選定ですよね?」
隊長「はい、そうです」
隊長はこれまでの経過、そして現場に落ちていた様々なヒントについて説明しました。
医師「なるほどね…確かに高カリが濃厚だね」
看護師「血ガスでました、カリウム7.8です!」
医師「7.8!それじゃすぐに透析の準備して!」
隊長「先生、カリウム7.8と言うとやはり危険なのでしょうか?3次選定でよかったですか?」
医師「ええ3次で間違いなし、7.8じゃ相当に危ないですよ」
Bさんには緊急透析などカリウムを取り除く処置をするとのことでした。「高カリウム血症 重症」
高カリウム血症の簡単な解説はこちら)

 帰署途上
隊員「やっぱり高カリでしたね、現場にヒントがずいぶんとありましたね、それにしても果物を食べたって言うのは思いつきませんでしたよ」
隊長「机にみかんとバナナが乗っていたのが見えたんだよ、腎不全患者にカリウムは危ないからな、これから気をつけてみた方がいいよ」
隊員「そうですね、でもみかんもバナナもカリウムって多いのですか?」
隊長「さあ?どの果物がどのくらいカリウムが含まれているかまでは知らないけど…帰ったらちょっと調べてみるか?」
隊員「そうですね、先生はカリウムが7.8なら相当危ないって言っていたけどどのくらいから危ないのかも調べてみますよ、救急隊の現場では生かせない知識でしょうけど」
こんなことの繰り返しが知識の向上には欠かせないと思います。正直、高カリウム血症は危険な症状として救急救命士テキストにも救急救命士の国家試験などにも必須で出題されるような病態です。いくつからが高カリウム血症とされいくつ以上だと危険だとしっかりと勉強していたはずのことでしたが…この時はさすがに数値までは覚えていませんでした。現場で経験した事と合わせて入れた知識はそう簡単には忘れないものです。

 アンサー編はいかがだったでしょうか?みなさんからのたくさんのコメントを頂きました。みなさんさすがです!高カリウム血症導き出していましたね。この活動はどうでしょうか?みなさんの経験やアドバイスなど、この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。救急救命士の待機室にて救急救命士の事後検証を行います、たくさんのコメントをお待ちしています。

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