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今日のお話はいつも私たち救急隊の頼みの綱になってくれている献身的な医療機関についてです。先日、危険な状態の高齢者を扱い16医療機関に受入れを断られた事案を紹介しました。まずこのお話をお読み下さい。
救急隊員なんて仕事をやっていると時々、「この辺りで評判の良い病院ってどこ?」なんて聞かれる事があります。評判の良いねぇ…?ところで評判の良いというのはどういう事でしょうか?問いかけてくる人たちの言う評判の良い病院とは、きっと患者のために献身的で、何より腕の立つ医師、医療従事者のいる病院の事なのでしょう。救急隊は傷病者を医師に引継ぎ引き揚げますからなかなか腕の立つ医師がどの方で、いつその先生が勤務しているかまで把握する事はできません。これが搬送する医療機関が膨大な大都市部であればなおさらです。ただ、救急隊の目線から見えるのは「医療機関としての姿勢」です。私たち救急隊員が通報を受ければ何をしていても真っ先に消防署を飛び出し傷病者の下の駆けつける事を使命としているように、医療機関にも果たすべき使命があります。この使命にどれだけの姿勢で取り組んでいるか、私たちにはそれが良く見えてきます。
救急医療体制の崩壊が危惧されている今、頻発する受入れ困難事案により、救急隊が迅速に医療機関に搬送できない事案が問題化しています。そんな中、どこの病院も受け入れるのが難しいと断った傷病者を受け入れてくれるような献身的な医療機関が頑張ってくれています。「精神科」「高齢者」「アルコール中毒」などなど受け入れ先がなかなか決まらない事案がある中、私たち救急隊がどうにか活動できているのはこういった献身的な医療機関の支えがあるからこそです。こんなギリギリの現場の中で、よく聞こえてくるのはこういった病院の報われない評判です…。
救急車内、病院選定を始める救急隊
隊長「そうですか、それではここから一番近くの病院から連絡を取ってみますね」
傷病者「お願いします」
隊長「一番近くだと…H病院が診察可能なのですが」
傷病者「ああ!ダメダメ!H病院だけはダメだ!」
隊長「H病院はダメですか?どうして?」
傷病者「あそこに行って帰ってきた人なんていないんだよ、みんな殺しちまうんだ」
妻「そうそう!H病院はダメよね、あそこの向かいのおじいちゃんもこの前にH病院に運ばれて亡くなったのよ」
隊長「…そうですか」
傷病者「前だって、ほらあそこのおばあちゃんだってH病院で死んだだろ?」
妻「そうそう、あそこに行くとみんな助からないのよね」
隊長「分かりました、それではもう少し遠くなってしまいますがR病院と言うところがありますからそこに連絡してみますね」
傷病者「R病院?」
妻「ほら、○通りの先の病院、あそこは評判が良いのよ、○さんの奥さんが先生も看護師さんもみんな親切だったって言っていたわ」
傷病者「そうか、ならそこが良いな」
隊長「では、よろしいですね?R病院に連絡しますからね」
傷病者「ええ、お願いします」
はぁぁ…、分かってねえなぁ…。H病院に行ったら帰ってこない?みんな亡くなってしまうって?それは違います。亡くなってしまうかもしれない危険な状態の患者、どこの病院も受けれ入れる事を躊躇ってしまうような患者でさえも受け入れているのです。それは確かに亡くなる事も多いことでしょう、そうなるリスクの高い方を受け入れてくれているのだから。「崇高な意志で救急病院としての姿勢をまっとうしている医療機関」何でそういう評価にならないのでしょうか…。
一方、ご近所の奥さんがとても親切だと言っていたというR病院、この病院もH病院と同じく救急病院なのですが…。以前こんな事がありました。
奥さん「…と言う訳なのです」
隊長「そうですか、それではR病院には奥さんから連絡が取れているのですね、診てくださるって?」
奥さん「はい、向かおうと思ったらとても動けないって言うから、夫は大きいですからとても私が連れて行くことはできなくて…」
隊員「それでは私につかまってください、玄関にストレッチャーが用意してありますから」
傷病者「申し訳ないです」
傷病者である30代の男性は身体の大きい方、体調が悪く嘔吐が続いていたことから奥さんが一番近くのR病院に連絡をしたところ診察することになったとの事でした。さあ行こうと思ったら、とても立ち上がれず奥さんが連れて行ける状態ではなかったので救急要請に至ったとの事でした。
隊長「奥さん、連絡は付いているとの事ですが、救急車でもう一度確認させてください、確認が取れたらすぐに向かいますから」
奥さん「はい、お願いします」
車内収容、病院連絡
隊員「…という患者さんです、先ほど奥さんから連絡が付いているはずです、向かってよろしいですね?」
看護師「…救急車で来るなんて聞いてないんだけど?」
隊員「ええ、奥さんとそちらに向かうつもりだったようですが、とてもそれができる状態ではないからと救急要請になったそうですよ」
看護師「そう…ちょっとお待ち下さい、今から医師に確認しますので…」
隊員「はい…」
感じの悪いこの雰囲気、はぁぁぁ…こりゃ嫌ぁ~な予感がするぞ。。
医師「お電話替わりました当直医です」
隊員「先生、お世話になります、向かってよろしいでしょうか」
医師「救急車で来なくてはならないほど悪いのではうちでは受け入れられません、他に行ってもらえませんか」
救急病院が救急車で来るなら受け入れられないと言っています…。
隊員「あの…先生、先ほど奥さんから連絡がいっているはずですよ、受け入れてくださるってお返事を頂いているとのことなのですが」
医師「救急車で来るほど悪いんじゃ無理ですよ、うちは今、ベッドがありませんから」
隊員「はぁ、そうですか」(家族になんて説明すればいいの?)
医師「悪いけど、他を探してください」
隊員「ご本人と奥さんにその旨を説明します。今の患者さんのご様子だと入院の必要性があるかもしれないからベッドのある病院に搬送した方が良いと言うことでよろしいのですね?」
医師「ええ…まあ、そう言うことです」
隊員「少しお待ち下さい」
隊員が傷病者と奥さんに、この旨を説明しました。
奥さん「他の病院と言うと遠くなりますよね?」
隊長「そうですね、次に近いところだと○病院、その次だと○病院になります」
傷病者「あの…入院するほどではないと思うんです。前にもかかったことがありますしR病院でどうにか診てもらえませんか?」
隊長「ただ、先生も仰っている通り、入院の必要があった場合もベッドがありませんよ」
傷病者「ひとまず…それでもいいです、R病院に診てもらえれば」
隊長「そうですか」
傷病者も奥さんもR病院への搬送を希望します。
隊員「先生、診察だけでもと患者さんからの強い希望があるのですが…」
医師「だから、うちではそんなに状態の悪い患者さんは受け入れられませんって」
どうにか断ろうとする医師、診てほしいと訴える傷病者、まさに板ばさみの救急隊です。確かに既に自分たちで連絡し、受け入れてもらう確約を取っているのです。さらに過去の受診歴まであるとなると…傷病者も奥さんもなかなか引きませんでした。
隊員「先生、ご家族にも説明したのですが、診察だけでもお願いしたいとのことなのですが」
医師「だって入院になったら困るのは患者さんでしょ」
隊員「ですよね…それでは先生、奥さんに電話を替わりましょうか」
医師「え?何で」
隊員「いえ、もともとは奥さんから連絡して受け入れてくださるというお話でしたから、先生から他の病院に向かった方が良い旨の説明を頂ければ奥さんも納得頂けると思うので」
医師「…はぁぁ、分かりました、それでは搬送してください」
隊員「え!?よろしいのですか?」
医師「ええ、どうぞ ガチャ…」
電話が切れた。
隊員「なんか…受け入れてくれるそうですよ」
奥さん「そうですか!良かった」
隊長「それでは、R病院に向かいましょう」
傷病者「お願いします」
はぁぁ…こりゃ病院でチクリチクリとやられるぞ…。
病院到着
医師「うちで受け入れても入院になれば、あなたのご負担になるでしょ?それが心配だったんですよ」
傷病者「すみません、先生」
医師「いえ、まあ点滴を打ってどうにか帰れるでしょう」
奥さん「先生、ありがとうございました」
医師「いえいえ」
医師はとてもにこやかで優しそうです。
隊長「先生、こちらにサインをお願いします」
医師「うちは2次指定かもしれないけど、状態の悪い方は無理ですから」
私たちにはずいぶんと愛想が悪い医師、一言二言チクリチクリと嫌味を言われサインを貰いました。私たちは何か悪いことをしたのでしょうか?
看護師「奥さま、こちらで受付していただけますか」
奥さん「はい、分かりました」
電話では感じの悪かった看護師もとてもにこやかで優しそうです。なるほどね…スタッフの愛想はとてもよい、住民ウケするはずだ。ちぇっ、なぁ~にが「奥さまぁ」だ!病院のスタッフがとても親切で愛想よく患者や家族に接する、それだってとても大切なことでしょうよ。ただ、「医療機関としての姿勢」はどうなの?
症状の重い患者を受け入れればリスクは高まる。受け入れて容態が悪くなればトラブルになる可能性も高まる。患者が亡くなれば風評被害が出る。そんな事は回避したい、それが本音でしょう。回避しようとする医療機関がある一方で、それでも救急病院としての使命と正面から向き合って戦っている医療機関があるのです。「評判の良い医療機関」とは私たち救急隊からの視線と住民からの視線とではかけ離れたところにあると感じます。こんな現状の中、救急病院としての使命を貫いている医療機関は疲弊していっています。他が回避しようとするツケが流れて行っているからです。そしてまた、それを運んでいるのも私たち救急隊だったりもします…。献身的に頑張ってくれている医師が「救急隊がとんでもない事案ばっかり運んでくる」とこぼすはずですね…。献身的な医療機関の頑張りでどうにか繋がっているギリギリの現場、いつかそれも壊れてしまうのではないか、それがとても心配です。
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