救急救命士の仰天現場 パラメディック119〜すべては救命のために〜
パラメディック119仰天現場虫屋敷にて Last up 2005.8.27

救急救命士の仰天現場 case4

虫屋敷にて

 救急隊員が出動していく現場には想像を絶する場所が多々ありますが、そんな中でも割と多いのがとんでもなく汚れているお宅です。ゴミ屋敷なんて言われる家にも出動していくのですが、ゴミに埋もれてどこに人がいるのか分からないなんてこともあります。私も救急隊員になるまでそんな家は本当に特殊でテレビの中にしか登場しない非現実的な場所だと思っていたのですが、それに似たりよったりのお家っていうのがけっこうあるものなんですね。今回のお宅は虫屋敷です。

 「救急出場、○町○丁目、80代の男性は呼吸困難の模様」との指令に私たち救急隊は出場しました。

 出場途上にPHSを活用して通報者に連絡。
救急隊「もしもし、救急隊です。あなたが通報してくださった方ですね。男性が呼吸困難ということで出場指令を受けています。今、そちらに向かっています。今の患者さんの状態はいかがですか?」
通報者の男性「う〜ん…布団に横になっているんですけど、…なんかピクリとも動きません。」
救急隊「意識はありますか?呼吸はしているんですか?」
通報者の男性「息は…していないみたいです。」
救急隊「!!それではね、人工呼吸と心臓マッサージをしてください!」
通報者の男性「えっ!…ちょっと、それはできません。」
救急隊「できない?できませんか?」
通報者の男性「う〜ん…できませんね」
救急車「分かりました。今、救急車が向かっていますから様子を見ていてくださいね」
通報者に心肺蘇生法を指示するも「それは無理」と断られました。救急隊としてはガックリです。救急隊が到着するまで心肺蘇生法ができるか否かで救命率、予後に多大な影響があるのですが、できないというんじゃどうにもなりません。私たちは出場途上の情報から重症と判断、本部に一報してポンプ隊を一隊応援要請しました。

 現着。通報者の男性がこちらに手を振っています。40代の男性でした。
救急隊「なんだ!まだ若い人じゃないか、心肺蘇生できないもんかなぁ?」
通報者の男性「こちらです。上(2階)にいます」
現場はアパートで傷病者は2階にいるとのことで案内がありました。入り口も廊下も階段もとても狭くサブストレッチャーがやっと通る広さでした。
通報者の男性「この部屋です」
救急隊長が先頭に隊員、機関員が続く。部屋の入り口で救急隊長の動きが一瞬止まった。入り口も狭く隊員、機関員には部屋の様子は見えません。
救急隊長「隊員はすぐに除細動パッドを貼れ!」
そういうと部屋に入っていった。
救急隊長「大丈夫ですか!?」
続いて部屋に入った隊員と機関員。うわぁ…これは…。その部屋のすさまじいこと。6畳くらいの広さなのですが畳は腐りこげ茶色をしていてなにやらタバコのヤニのようなものがこびりついている。部屋中にはカップラーメンのパックや缶ジュースやビールが散乱しておりそこにはタバコが浮いていてカビというカビが生えていました。部屋にはものすごい異臭とタバコの腐ったような臭いが充満していました。ベテランの救急隊長も一瞬動きが止まってしまうはずです。こんな部屋に住んでいるくらいですから傷病者の男性もものすごい汚れようで異臭を放っています。除細動パッドを貼ろうと胸部を開けるとまだ体温がありました。波形はフラット(心静止)、すぐにCPR(心肺蘇生法)を開始しました。

 CPRを開始してすぐに応援要請したポンプ隊が到着しました。
ポンプ隊「消防隊到着しました。」
救急隊長「傷病者はCPAです。CPRの支援をしてください」
人工呼吸と心臓マッサージをポンプ隊にお願いして救急隊長と救急隊員は器具を使った気道の確保、ラリンゲアルマスクの準備を開始しました。傷病者の口からは何やらタール色の液体で大変汚れておりラリンゲアルマスクもなかなか入りません。少し手惑いましたがラリンゲアルマスクは挿入可能、バックマスクで換気を確認すると傷病者の胸部が挙上しました。
救急隊長「よし!換気良好!搬送準備はいいか?」
救急機関員「サブストレッチャーは準備OK!そこの毛布を借りて傷病者を包んでいきましょう」
そう言って救急機関員が部屋にあった毛布を手にした。ピタ…動きが止まる。横で見ていた消防隊員の動きも止まる。
救急機関員「さぁそれでは搬送を開始しましょう」
あれ?毛布で包むんじゃなかったの?あれれ?傷病者をサブストレッチャーに収容して私たちはCPRを継続して病院に搬送しました。

 推定ですが、通報者からの話の内容からしても、心肺停止に陥ってから1時間以上が経過しており、蘇生は相当難しい事案でした。結局、病院収容から数十分で先生が死亡を確認しました。

 病院の前で使用した資器材を洗う隊員と機関員、ラリンゲアルマスクにはこげ茶色のヤニがべったりとくっついていてなかなか落ちません。
救急隊員「あの傷病者の方、相当なヘビースモーカーですね、このヤニすごいですよ」
救急機関員「タバコもすごかったけどあの部屋もすごかったなぁ。もうオレはあの毛布見たときどうしようかと思ったよ…」
救急隊員「ああ、そういえば毛布借りるって言っていたのに止めちゃいましたね、なんでですか?」
救急機関員「あれ?見なかったの?CPRやってたもんな、それどころじゃないよな?虫だよ虫!うじ虫じゃなかったんだけど小ハエみたいのがびっしり…ギョっとして動き止まっちゃったよ」
部屋もものすごかったのですが、その方が寝ていたであろう毛布には虫がビッチリとついていたのです。本当にものすごいお宅でした。

 通報してくれた40代の男性は大家さんで、この方はもう何十年もこのアパーとで一人暮らしをしており、天涯孤独の身だったようです。年金で細々と生活していたようですが、それでも家賃はいつもきちんと収めていたようです。とにかく病院が嫌いで人に世話になるのも嫌いな方だったようで、ヘルパーさんなども利用できる状況にあったようなのですが全て断りひとり暮らしをしていたそうなんですね。男性のひとり暮らしの部屋というのはまぁお世辞にもキレイじゃない部屋が多いですが、あのお部屋は本当にすさまじかったです。虫の沸いている部屋の中で亡くなった80代の男性、都会ではこんなことも人知れず起こっているんです。最後の最後まで自立して自分のことは自分でやろうって方もいれば、何から何まで人の世話になろうって方まで本当にいろんな方がいるものです。この方の場合、もうちょっとだけ人の世話になっても良かったのかななんて思ってしまいます。

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