救急救命士の仰天現場 パラメディック119〜すべては救命のために〜
パラメディック119仰天現場この足腐っているよ Last up 2006.7.14

救急救命士の仰天現場 case7

この足腐っているよ

 私たち救急隊をいつも悩ませてくれるホームレス…。どうにか入院して暖かい食事とベッドを狙う不届き者がそのほとんどですが、世の中のあらゆるものと接触せず、誰にも迷惑をかけたくないと空き缶などを集め細々とホームレスをやっている方もいます。今回は普段は救急車なんて呼んだことのないマジメな?ホームレスのお話です。

 「救急出場、○公園内、男性は足部の痛み歩行困難、公衆電話より女性からの通報」との指令に私たち救急隊は出場しました。

 出場途上。
救急隊長「公衆電話から○公園か…ホームレスだろうな…」
救急隊員「間違いないでしょうね、あの公園テントがめちゃめちゃありますもんね」

 現場到着。通報のあった公園内電話ボックスの前で女性が手を振っている。この初老の女性もホームレスで服装もけっこう汚れていました。
救急隊長「足が痛いのは男性の方ですよね?患者さんはどちらですか?」
通報者女性「あっちです、私の友達です」
電話ボックスから100mほど公園の奥に行ったテントに患者さんはいると言います。
資機材をメインストレッチャーに乗せて救急隊3人は通報者の女性の案内で公園内を進みます。その間にも隊長は女性から情報を取ります。
救急隊長「患者さんはおいくつの方ですか?」
通報者女性「…?さあ?50歳くらい…?」
救急隊長「お名前はなんていいますか?」
通報者女性「さあ?」
救急隊長「あなたお友達じゃないんですか?」
通報者女性「そうです、同じ公園に住んでいるもので、でも名前までは」
そんなの友達でもなんでもないと思う方もいるかと思いますが、ホームレスにはホームレスのルールがあるのです。町、地域によってそのルールも異なるのでしょうが、この辺りのホームレスは名前や年齢、出身や何でホームレスをやっているかなどなどいっさいを言わない聞かないというのが暗黙のルールになっているようです。もちろんホームレス仲間で酒盛りをしたり協力することもあるのであだ名や呼び名はあるけどそれが本名である必要は全くないのだそうです。通報者の女性が傷病者の名前も生年月日も知らないのはホームレスなら当たり前のことだったのです。こんな話もいつだったか搬送したホームレスの方から聞いたのですが、救急隊なんて仕事をしていなければ知りえないことですね。

 傷病者接触。傷病者の男性はBさん、ホームレスでブルーのビニールシートで作ったテントに住んでいました。他のホームレス仲間に抱えられてテントの外に座っていました。
救急隊長「あなたが患者さんですね」
Bさん「そうです…私です」
最近のホームレスはボランティアの方たちのサポートなどで週1回シャワーを浴びたり、洗濯もしますし、たまにサウナなどにも行くので一見ホームレスとは分からないなんてことが多いです。このBさん、服装もお世辞にも綺麗とは言えない生粋のホームレスでした。まさにみなさんが思い描くホームレスの典型のような感じです。
救急隊長「Bさん、痛いのは足?立つこともできないかい?」
Bさん「もう痛くって痛くって…。」
救急隊長「ともかく救急車に乗ろうか、救急車の中で痛いところをよく見せてください」
ホームレス仲間と救急隊員が肩を貸してBさんはストレッチャーの乗り込みました。

 車内収容。ホームレスの靴は脱がさない。これが救急隊の暗黙のルールです。たまにシャワーを浴びたりする一見ホームレスに見えないホームレスでも靴や靴下は何年も洗っていないなんてことがあります。靴を脱ぐとその瞬間、狭い救急車内なんて激臭にさらされます。いつだったか割ときれいなカッコのホームレスを搬送した際、看護師さんが診察室で靴を脱がせて待合室にまで臭いが立ち込めたなんてことがありました。Bさんはたまにシャワーを浴びているような方じゃありません。恐らくここ何年単位で風呂はもちろんシャワーも浴びていないことと思います。それでも主訴は足の痛み、観察しない訳にはいきません。
救急隊員「Bさん、靴脱がせますよ」
Bさん「痛い痛いいたたたた!…」
救急隊長「Bさん悪いけど少し我慢してよ、見せてもらわないことには分からないから」
Bさん「分かってるよ、痛いいたたたた…」
激痛にBさんの顔がゆがみます。
救急隊長「Bさんずっとあの公園に暮らしているの?病院とかにはかかってない?最近救急車なんて呼んでない?」
Bさん「なんかよく救急車呼んで迷惑かけているのもいるみたいだけど、俺は誰にも世話になりたくないからホームレスやってるんだ。病院になんてかかってないよ。今日も救急車なんて呼んでほしくなかったんだけど、さっきいた仲間がおかしいからって呼んだんだ」
救急隊長「そうですか」
救急隊員「Bさん靴下の脱がせますよ」
うう""…。臭い…。何年も洗っていない足の臭い。みなさんだって蒸れた靴を1日履いていたら足が臭くなりますよね。それが年単位ですからね、半端じゃない臭いに決まっている。ただこの臭い、すごい臭いだけどちょっとすごすぎる…。何年も脱いでない靴下を脱がせた。!!これは…。
救急隊員「隊長…この足…」
救急隊長「!!…Bさん足のどこが痛いの?」
Bさん「全部だよ、全部…」
救急隊員「Bさん、痛いところ悪いけどちょっと触りますよ」
Bさん「痛い痛い痛い!!」
救急隊員「Bさん、特にココ(足のつま先)が痛いんじゃないの?」
Bさん「いたたた!痛い!そうだな、全部痛いけど特につま先が痛い」
救急隊長「Bさん、あなたね、この足腐ってるよ」
Bさん「腐ってる?」
救急隊員「壊疽ですよね、こっちの足もですか?」
Bさん「両方とも」
もう片方の靴下の脱がせて見るとやはりつま先は壊疽していました。ようは腐っていて異臭を放っている状態です。壊疽した組織は血流が途絶え黒色に変色すると聞いたことがありましたが、このBさんのつま先は皮膚が盛り上がり白く変色していました。足の指は5本ともくっついてしまっていて開きません。
救急隊長「痛くなり始めたのはいつから?」
Bさん「どのくらい経つだろう?半年くらい前からかもしれない」
救急隊長「Bさん、誰の世話にもなりたくないって気持ちも分かるけど、こんなになるまで我慢しちゃダメだよ…。こんな足ほっといたら本当に死んじゃうよ」
Bさん「そうですか…」
救急隊員「隊長、整形外科で入院の必要もありますよね」
救急隊長「もちろん」
救急隊員「片っ端から当たりますからね」
急隊長長「そうだな…」

 病院選定。救急隊員が片っ端から当たると言ったのは病院がなかなか決まらない事案であることが明らかだからです。入院目的のホームレスの場合、元気にも関わらず救急要請します。もちろん医師でもない私たちが入院治療が必要かどうかなど判断できないのですが、病院選定の際には「看護師さん、入院治療の必要はないと思われる住所不定の方です。先生に診てくれるよう頼んでよ〜」とお願いします。今回のBさんの場合、間違いなく入院治療が必要です。
看護師「…住所不定の方で、足が壊疽しているのね。入院しなくちゃだめよね…うちではちょっと受け入れ困難です、ベッドが万床です。」
救急隊員「…そうですか分かりました」
いったい何件断られたでしょうか?1時間近く、下手すればそれ以上の時間現場で病院を探しに探しました。入院治療が必要な住所不定者、どこの病院も受け入れたくないのです。コンコン!救急車の運転席をノックする人が、通報者のホームレス仲間でした。
ホームレス仲間「ねえ、救急車は何やってるの?あんなに痛がっているんだから早く病院に連れて行ってやってよ」
救急機関員「病院が決まらないんですよ、私たちも病院が決まったらすぐに連れて行ってあげたいんですけどね」
ホームレス仲間「早く病院に連れて行くのが救急車じゃないのか!何やってんだよ!」
救急機関員「受け入れてくれる病院が決まらないんじゃ私たちも急ぎようがないよ」
救急隊員「…そうですか、分かりました他の病院を当たります」
決まらない…。ホームレス仲間は早く運べって詰め寄ってくるし、機関員はイライラしているし、はぁぁ、それでも決まらない。こんなことを繰り返してやっと、本当にやっとどうにか診てくれる病院が決まりました。ここから20キロ近くある公立病院です。私立病院では難しいと思っていましたが近くの公立病院は全滅でした。

 病院到着。
看護師「じゃあ救急隊さん、(身体洗浄)お願いしますね」
救急隊員「はい分かりました」
さて、知られざる救急隊の裏の仕事です。もう何年も風呂に入っていない足の腐ったホームレスを医師はそのまま診察してくれたりはしません。看護師、救急隊員、救急機関員でBさんの服を脱がせて洗います。
病院の浴槽に浸かったBさんは痛みで顔をゆがめます。
Bさん「痛い痛い痛い、すごくしみて痛いんだ…」
看護師「Bさん、ダメよ!足がこんなに腐っちゃっているじゃない!しっかり洗って治療しなくちゃダメなんだからね」
救急隊員「Bさん、これ痛いに決まっているって、足の指がつながっちゃってるよ。ちゃんと治療してもらわないと歩けなくなっちゃうよ」
救急隊長と医師が入ってきた。
医師「こんにちはBさん、痛いのは両足だね?」
Bさん「…そうです。もう痛くってたまらないんだ。先生どうにかしてくださいよ」
医師「…本当だね、これはひどいね、腐っちゃってるね。Bさんあなた足以外もばい菌だらけだから、ともかく身体を綺麗にしてそれから治療しなくちゃダメだよ」
Bさん「はい…痛い、いたたたた」
「両足部壊疽 重症」Bさんはもちろん入院になりました。

 帰署途上。
救急隊員「何件断られたでしょうね…」
救急機関員「他のホームレスにも詰め寄られちゃうしな…でも救急車が1時間も病院に行かないでいるなんてやっぱりおかしいよな」
救急隊長「先生に署名してもらう時さ、「なんでうちなんだ」ってさ、怒ってるんだよ、近くにも公立の○病院も○病院もあるじゃないかって」
救急機関員「そんなの俺らだって近くの病院に搬送できればそれが良いに決まっているじゃないですかね!」
救急隊長「○病院も○病院も断られましたって言ったんだけどさ、「うちがなんで他の町のホームレスまで取らなくちゃいけないんだ」ってオレたちに言ったって仕方ないじゃないか!」
救急隊員「ホームレスには怒られるし、近くの病院には断られるし、搬送先の先生には理不尽な事で怒られるしもうたまりませんね…」
救急隊長「…本当だよなぁ」
救急隊はこうやって消防署に戻る間に嘆いて愚痴をこぼしてコミュニケーションを深めるのです。でもこの活動、一番気の毒だったのは傷病者のBさんですね。あの足、相当の激痛であったことと思います。よくこんなになるまでいられたものだっていう状態でした。誰にも迷惑をかけたくない、Bさんのホームレスとしての姿勢?は良いのですが我慢強すぎるのも考えものですね。

パラメディック119トップへ