救急救命士の仰天現場 パラメディック119〜すべては救命のために〜
パラメディック119仰天現場14歳の母 Last up 2006.10.28

救急救命士の仰天現場 case8
14歳の母

 このサイトでのお話を書く際、「ああそう言えばあんな現場があったなぁ」っとふと思いつき、それがページになります。1日10件もの出場件数をこなしていると、紹介したい現場のお話には事欠かず本当にたくさんの仰天現場やため息現場があります。ただどのお話を紹介するか、星の数ほどある中で、それはけっこうふっとした思いつきだったりする事が多いのです。現在、日本テレビ系列で「14歳の母」と言うドラマが放送されています。救急隊員なんてやっていると毎週の連ドラなんて録画しないととてもついていけませんので番宣をちらりと見ただけなのですが、「そう言えばそんなこともあったなぁ」と思い出しました。今回のお話はまさにドラマの中のようなお話です。

 いつだったかの帰署途上、腹部痛の若い女性をを産婦人科のある病院に搬送した帰りだったと思います。いつもお話している通り帰署途上はひと段落し、救急隊員どうし現場の愚痴や日常のこと、くだらない冗談も言います。隊員同士にはコミュニケーションを図る時間でもあるのです。若い隊員がいる場合、ベテランの隊員、隊長が過去の体験を語って聞かせる教育の場にもなります。この帰署途上のくだらない冗談や経験談の中に、実は医学書や救急隊員たちが読むテキストなんかよりもずっと役に立つ使える情報があったりもします。
救急隊長「さっきの女性、結局妊娠はなかったみたいだよ、内科の医師が詳しく診察するってさ」
救急隊員「そうですか、本人も妊娠の可能性はないって言うし大丈夫だとは思ったんですけどね、もっと近くの内科だけの病院でも大丈夫でしたね」
救急隊長「結局そうだったけど、女性の腹痛は絶対気をつけないとダメだよ。いつだったか細い女性で下腹部痛を訴えている事案があってさ、どう見ても妊娠しているようなお腹じゃないんだけど、なんとなく嫌な感じがして、産科のある病院を選定したんだよ。そしたら診察室でそのまま生んだからね…。先生も看護師も大パニックだよ。本当あの時は万が一を考えて正解だった。」
救急隊員「10ヶ月も赤ちゃんがお腹にいるのに分からないものなんですかね?」
救急隊長「つわりとかもほとんどない人もいるし、お腹が大きくならない人もいるしな、女性の腹痛は絶対妊娠の可能性を疑わないとだめだよ」
救急隊員「救急の研修でもそう言われました。」
救急隊長「そうだろ、救急隊員の鉄則だよ、あと妊娠って言えば昔にたいへんな思いをしてさ…あの時組んでた隊員が気がきかなくってさ…」

 ここからは隊長の回想です。隊長のお話を再現したものです、ずいぶん前の話だそうですが、隊長は…やっぱりそのときも隊長でした、ベテランですから。
14歳、女子中学生が腹部の痛みを訴えているとのことで救急隊が駆けつけました。車内収容し観察、この時も救急隊長は鉄則の通り中学生とはいえ妊娠の可能性も含めての観察を行ったそうです。ただ、なんでもかんでもテキストの通りじゃいけないのが救急現場です。
救急隊長「お腹のどの辺りが痛い?下の方ですか?」
母親「急に痛いって言い出して顔色も悪くなってきたので要請したんです」
救急隊長「今までこんな痛みは始めてかな?」
少女「初めてです。」
救急隊員「月経はちゃんと来ていますか?妊娠している可能性はありませんか?」
救急隊長(バカ!そんなに単刀直入に聞くんじゃねえよ!)
母親「何を言うんですか!娘はまだ中学生ですよ!そんなことある訳がないじゃないですか!まったく何を言っているんですか!」
お母さんは激怒しました。
救急隊長「お母さん落ち着いてください。お気持ちは分かりますけど娘さんも中学生とは言え、もう身体は充分に大人ですから妊娠以外にも月経や他にも婦人科系の病気も考えられるかもしれませんから聞いているんですよ」
母親「それは分かりますけど妊娠なんてしている訳がないじゃないですか、失礼しちゃうわ!」
救急隊員「…」
激怒する母親をなだめ救急隊長はいらない苦労をしてしまったと言います。が、この少女の雰囲気から「妊娠の可能性は否定できない」と判断したと言います。母親を説得し、婦人科系の疾患も充分に考えられるからと内科・婦人科のある病院に搬送しました。で、救急隊長の判断は見事に当たりました。医師が診察して詰め寄られたこの少女は「妊娠しているかもしれません」と泣き崩れたそうです。この14歳の女子中学生が本当に妊娠していたかどうかは分かりませんが、婦人科の医師が診てその可能性を疑ったくらいですから可能性は充分でしょう。医師にそう告げられ詳しい検査をすると告げられた母親、さっきまで救急車内でヒステリックに怒っていた面影はなくなり蒼白…少女よりも具合が悪そうに病院の待合室に固まっていたそうです。

 ここからいつもの帰署途上のお話に戻ります。
救急隊長「10年近く前でも女子中学生が妊娠しているんだから今じゃ小学生だって疑わなくちゃダメだよ」
救急隊員「そうですね」
救急隊長「でもあの時の隊員は本当気がきかなくってさ…母親の前じゃ「妊娠しているかもしれません」って中学生が言うわけないだろ?気がきかなかったんだよ…。お前は頼むよ」
救急隊員「分かりました、大丈夫ですよ。」
救急機関員「オレの娘ももうじき中学生だけど心配だよなぁ…お父さん私妊娠しちゃったなんて言われたらオレどうしよう…」
救急隊長「オレの娘なんてもう30も近いって言うのに妊娠どころか結婚しそうにもないよ…」
救急隊員「娘を持つお父さんはいろいろ大変なんですね」
こんな昔話が実は現場に使えるのです。

 「救急出場、16歳の女性は下腹部の痛み、歩行困難」との指令に私たち救急隊は出場しました。傷病者は女子高生のHさん、昨日からの下腹部の痛みで動けなくなったとの通報でした。まさにあの時の隊長の話を生かさなければならない現場です。

 傷病者接触、車内収容。同乗者は母親でした。
救急隊長「お腹が痛くなったのは昨日の夜からですか?」
Hさん「はい。」
救急隊長「生理痛とは違う?」
Hさん「似ているんですけどこんなに痛くなったことはないです」
救急隊長「何かお薬飲んだりしなかったかな?」
Hさん「生理痛のお薬を飲んだんですけどちっとも良くならなくて…」
救急隊員「(よし!しめた!)そのお薬持って来ました?」
母親「いえ、家に置きっぱなしですけど」
救急隊員「まだ病院も決まりませんし、搬送先のお医者さんもどのお薬を服用したのか知りたいと思うのでお母さん持ってきていただいていいですか?」
救急隊長「そうだね、お母さん、持って行った方がいいですよ」
母親「そうですか、分かりました。取ってきますね」
救急隊員「お願いします。今、救急車のドアを開けますからね」
母親が自宅に服用したお薬を取りに行きました。救急隊長がこちらを見て「そうそうそうやって上手くやってよ」って感じです。
救急隊長「さて、Hさんね、大切なことだからちゃんと教えてね、妊娠している可能性はありませんか?」
Hさん「えっ…」
救急隊長「下腹部の痛みじゃ婦人科の病気も考えられるし、妊娠の可能性も充分考えられるからね、きちんと教えてください」
Hさん「妊娠は…していることはないと思うんですけど…」
救急隊長「ないとは思うけど妊娠するかもしれないようなことはここ最近にはあったってことだね?」
Hさん「…そうです。」
救急隊長「分かりました」
ああよかった。やっぱりお母さんを車外に出してでも聞いておいてよかった。産科系の疾患を疑い病院に連絡する際にはほぼ100%聞かれる妊娠の可能性、聞かないで搬送なんかしたらまた病院で怒られちゃうよ。救急現場ではこんなちょっとした裏技的なテクニックもあります。結局このHさんは月経困難症なんて傷病名で妊娠しているようなことはなかったようですが。

 帰署途上。
救急隊長「いやいや、今の活動はよかったよ、お母さんの前じゃ絶対本当のこと言わないから」
救急隊員「薬持って来てないって言うからしめたって思いましたよ」
救急機関員「実際、薬持って行った方が医師もいいだろうし傷病者のためなんだからいいんだって」
救急隊長「それにしてもやっぱり今の女子高生ってやっぱりなんだなぁ」
救急機関員「16でしょ?経験あったって普通なんじゃないですか?この辺りじゃ」
救急隊長「今の産科の先生にもここ数ヶ月の間に性交渉はあったみたいですって伝えたって、そうですかって別にまったく驚かないもんね。」
救急機関員「ああ…オレも娘が心配だなぁ」
救急隊長「オレも嫁にいかない娘が心配だなぁ」
時は流れてもお父さんの心配は変わりませんね。

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