救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119~すべては救命のために~
救急救命士の仰天現場報告 case11

パラメディック119仰天現場こんな私にあんたたちがしたんでしょ! up data 2007.4.5

こんな私にあんたたちがしたんでしょ!

 「救急出場、20代女性は自宅に気分が落ち着かない模様、なお付加する情報があります、救急隊は指令台の前でお待ちください」との出場指令が流れました。
「気分が落ち着かないから」救急要請、内容からしても不自然であることは明らか…。何らかの精神科疾患をお持ちの傷病者であろう事が分かります。…長期戦か。ビ~ビ~!指令台が鳴った。
救急隊員「はい、救急隊です」
司令室「本件は20代の女性の方からの救急要請です。主訴は気分が落ち着かずここにはいられない、どうにかなってしまいそうだなど支離滅裂で落ち着かない様子があります。救急隊は言動と安全に充分注意して下さい。
救急隊員「了解しました」
司令室「必要がありましたらすぐに応援要請、警察官の要請を行ってください」
救急隊員「了解!救急隊出場します」
…こりゃたいへんだ。

 精神科疾患をお持ちの傷病者を扱った際、多大な時間を要する活動になるケースが多いです。これにはいろいろな要因がありますが、まずひとつに傷病者自体の問題、「なんとなくイライラする」など主訴事態がはっきりしないことがあります。
内科医「なんとなくイライラするは内科の領域じゃないよ、脳外科のある病院を当たってください」
脳外科医「なんとなくイライラするは脳外科の領域じゃないよ、女性だし婦人科にかけてみたら?」
婦人科医「なんとなくイライラするのは婦人科じゃないでしょ?内科にかけなさいよ」
…(涙)

 精神科現病を持ち、そのかかりつけの病院、クリニックに傷病者自身が搬送を希望すればまだ搬送できるのですが、この手の病院やクリニックは昼間しかやっていません。外来の時間外であった場合、お手上げです。またこういう患者さんは歩けない訳ではないので外来の時間であれば自分で病院に行くのです。時間外に不安になったりイライラしたり、それでどうしていいか分からなくなって119番するケースが多いのです。さらに受け入れ側の病院の問題、精神科疾患をお持ちの傷病者は診察できないと断られるのが当たり前…。診察できない理由はいくつもあるようで、夜中の手薄な時間、当直医と看護師数人の体制で急に暴れだしたりした時、対応ができない。精神科は当直医師の診察できる科目ではない。病院によっては過去に精神科疾患をお持ちの患者さんを受け入れ、その病院で自殺未遂を起こされた事があり、それ以来精神科の疾患をお持ちの患者さんの受け入れはすべて断っているなんてところもあります。

 精神科疾患をお持ちの方への根強い差別、社会の偏見があることは否定できません。でもそれは許されないこと。しかし私たち救急隊も含めてですが、医療の現場ですら「精神科疾患を持っているから受け入れられない」と言ってはいけないはずの理由で断られてしまいます。

 出場途上。救急車から通報電話番号に連絡を入れます。
救急隊員「もしもし、救急隊です。患者さんはあなたですか?」
傷病者S「はい…」
救急隊員「どうされましたか?」
傷病者S「どうしたって!?苦しいから救急車を呼んだに決まっているじゃない!何言ってんのあんた!」
大変厳しい口調です。
救急隊員「今そちらに急いで向かっていますよ、何が苦しいのか、どこが苦しいのか教えてもらえますか?」
傷病者S「そんなの分かる訳ないじゃない!何言ってんの!」
バリバリ…バリバリバリ…何かが壊れるような潰れるような音がしている。
救急隊員「落ち着いてください!ちょっと、もしも~し?」
電話が切れた…。
状況を救急隊長、救急機関員に説明する。
救急隊員「隊長、どうします?警察官要請しますか?暴れているかもしれませんよ」
救急隊長「そうだな…要請入れようか」
出場途上から傷病者が暴れている可能性があるとの判断で警察官を要請することとしました。

 現場到着。現場はマンションの一室です。救急車をマンションの前に停車して部屋に向かいます。まだ昼を過ぎたくらいの時間、天気も最高に良く暖かい日でした。マンションの住人なのでしょう、辺りで遊んでいた子どもたちが何事かと興味心身で集まってきました。
子どもたち「ねえねえ?どうしたの?怪我した人がいるの?」
救急隊員「ごめんね、具合いが悪い人がいるんだ、救急車に乗るような怪我しないでね、事故に気をつけてね」
子どもたち「は~い」
とってもいい子たちで助かりました。子どもによっては現場までついてきちゃうような困った子もいるんですよね…。

 現場到着。マンションの一番角部屋でした。隊長が呼び鈴を鳴らす。ピンポ~ン!
救急隊長「Sさん、こんにちは!救急隊です、ドアを開けてください」
ガチャ…。ドアが開いた。バタバタバタ…、Sさんはドアを開けてまた奥の部屋に走っていきました。
救急隊長「資機材はここに置いておこうか」
救急隊員「了解、そうですね、その方がよさそうですね」
持ってきた救急資機材は玄関の外に置いておく事にしました。とりあえずSさんは自力歩行で部屋のドアを開けられる方です。1分1秒をどうこうしなくてはならない方ではありません。救急隊長が意図しているのは万が一、Sさんが暴れ出すなどの行動をとった場合、私たちは身を守らなくてはならないし、それには救急資機材は邪魔になります。壊されてしまう可能性もある。無理に携行する必要はないとの判断です。
救急隊長「失礼します、Sさん、どうされましたか?お部屋にあがらせてもらいますよ」
救急隊長がSさんの下へ入っていく、それに続いて救急隊員…これは…。Sさんがいたお部屋は2部屋がふすまで仕切られているお部屋で12畳くらいの広さでしょうか、真昼間で外は最高にいい天気だと言うのに窓という窓には厚いカーテンがひかれ部屋は薄暗い。部屋はとても散らかっていて服や雑誌、ゴミなどが散乱していました。中でも気になったのがソフトドリンクのペットボトルが数百本、ありとあらゆるところに並んでいました。異様な光景です。この薄暗い部屋、Sさんの表情までは分かりませんでした。
救急隊長「Sさん、こんにちは、どうされました?救急隊ですよ」
Sさん「苦しいから呼んだに決まっているじゃない!」
Sさんは部屋の一番奥にあるベッドに座っています。
救急隊長「Sさん、何が苦しいのかどこが苦しいのかお話を聞かせてください。それから血圧だとかも測らせてもらわないと私たちはあなたをどの病院にお連れしたら良いかわかりませんよ」
Sさん「…」
救急隊長「Sさん、このお部屋じゃ暗すぎて何も分からないからカーテンを開けさせてもらうよ」
Sさん「ダメっ!カーテンは開けないで!!」
救急隊長「…カーテンはダメですか」
救急隊員「Sさん、血圧だとか他にもいろいろ測らせていただかなくちゃいけないことがあるんです。この真っ暗なお部屋じゃ何もできませんよ、それなら電気をつけさせてもらいますからね」
Sさん「…」
電気をつけた。Sさんは20代の女性、とてもやせていて奥の部屋のベッドの上に座り込みこちらをにらんでいます。
救急隊長「Sさん、どうしたの?とにかくこちらに来てください、よくお話を聞かせてもらわないと」
Sさん「…はい」
Sさんはムクリと立ち上がり私たちがいる玄関付近の部屋まで来てまた座り込みました。手にはペットボトルとコップが握られていました。

 傷病者接触。
救急隊長「どうされましたか?」
Sさん「それが分からないの!何か…もう…ひとりじゃいられなくって…」
救急隊長「どこか苦しいとか痛いとかありませんか?」
Sさん「別に痛いとかそう言うんじゃなくって…、とにかく!…もうどうにかしてよぉ!」
Sさんはとにかく落ち着きません。彼女が精神的な症状で苦しんでいることは分かります。救急隊も病院を選定する過程で傷病者が何を訴えているのか分からないままと言う訳にはいきません。
救急隊長「Sさん、今一番苦しいのは何?それを教えてくれる?今、治療中のご病気とかかっている病院も教えてください」
救急隊員「Sさん、こちらの手で血圧を測らせてくださいね」
救急隊長はSさんからお話を、隊員はバイタルを測定します。
Sさん「○県の○病院の精神科にかかっています…。うつ病で薬も飲んでいます」
○県○病院…それどこ?少なくとも高速道路で4時間くらいかかるかな?かかりつけの病院への搬送は無理です。
救急隊長「○県の病院ですか…、こちらでかかっている病院はありませんか?」
Sさん「はい…」
救急隊長「Sさんは○県の方なの?今は何でこちらにいるんですか?」
Sさん「ここは私の彼の家で、こっちに出てきたんです」
救急隊長「そうですか、彼氏はどうしたのかな?今日はお仕事ですか?」
Sさん「そうです。今日もきっと夜中まで帰ってきません」
救急隊長「そうですか、それじゃ少し寂しいね」
救急隊長の優しい語りかけにSさんも大分落ち着いてきました。隊長と話をしている間にもペットボトルのソフトドリンクをコップについでは飲みコップについでは飲み、ずっととにかく飲んでいます。そしてペットボトルを握る握る、バリバリバリ…。電話で聞こえたのはこの音だったのか。そんなところへ…。

 警察官到着。
救急機関員「隊長、おまわりさんが来てくれました」
玄関の外にいた救急機関員が隊長に声をかける。
Sさん「なんで警察なの!私が何したって言うのよ~!」
救急隊長「Sさん、落ち着いて、別にあなたが悪いことしたからって警察の方が来たわけじゃないんだから」
警察官が駆けつけたことでSさんはまたも不安定に…。それでもSさんはとにかく情緒不安定ですが、私たちに危害を加えたり暴れたりすることはなさそうでした。これまでの経過を説明しようと玄関の外からこちらの様子を伺っている救急機関員、警察官の下へ。
救急隊員「おまわりさんどうもお疲れ様です」
ベテラン警察官「どうも」
こちらを伺っていたのは指揮をとる方なのでしょうベテランの警察官、その後ろに3人ほど若い警察官がいました。暴れているかもしれないとの事で4人もの警察官が駆けつけていました。
救急隊員「先ほどまで大分落ち着かない様子があったのですが、今は大分落ち着いてきました。現時点では暴れたりすることはなさそうです」
ベテラン警察官「了解、あまり大勢で入ると良くないよね?」
救急隊員「そうですね、まだ落ち着かない様子もあるし」
ベテラン警察官「それでは私たちは外にいます、必要があれば私だけがお話を聞きに行きますから」
救急隊員「そうですね、そうしましょう」
このベテラン警察官の後ろについてきた一番若そうな警察官の手には警棒が握られていました。
救急隊員(警棒はまずいって、今は大分落ち着いているから刺激しないでよ~)
ベテラン警察官「オイ!今のオレと救急隊との話聞いてなかったのか?そんなもんしまっとけ!何やってるんだ!」
若い警察官「すみません」
上司に怒られしゅんとなる若い警察官、どこの組織も同じですね。私たちもこんな感じで現場で先輩に怒られて怒られて覚えたものです。

 そうこうしている間にも救急隊長がSさんとゆっくりじっくりとお話をしていました。慌てる必要はない、とにかく落ち着いてもらわないとね。
救急隊長「そうですか、それじゃあ今一番辛いのは何か落ち着かないことなんだね、息苦しい感じがするんですね?」
Sさん「そうです…」
救急隊長「それではね、私たちも診てくれるお医者さんを一生懸命探すからSさんももうちょっと辛抱してくださいね」
Sさん「はい分かりました」
救急隊長「それじゃあ病院に連絡して!」
救急隊員「了解…」
救急隊長「Sさん○県のおうちにはどなたがいるのかな?」
ちょっと隊長、どこの病院に連絡すればいいの?何科??大事な指示がないよ…。落ち着かなくて息苦しいか…、内科かなぁ…。救急隊員は部屋の外に出て片っ端から診てくれる病院を探し始めました。で、思った通り診てくれる病院は見つからない。
看護師「その方精神科疾患をお持ちなんでしょ?かかりつけは無理なの?」
救急隊員「○県の病院にかかっているんですって、今日はこっちに出てきていて具合が悪くなったそうです」
看護師「困ったわね」
救急隊員「そうなんです、どうにか診察してもらえませんかね」
看護師「一応先生に聞いてみるけど無理だと思うわよ」
で、やっぱり無理。そんなこんなでいったい何件断られたのでしょうか?10件、20件かな。病院への連絡を開始して30分以上は経っていました。この時には部屋の中には救急隊長とベテランの警察官、ふたりがSさんと話をしていました。
救急隊長「どうだ?選定状況は?」
救急隊員「まだ連絡中です」
救急隊長「ごめんね、Sさん、診てくれる病院がなかなかみつからないんだ」
ベテラン警察官「ねえ、Sさん○県のご両親は迎えに来てはくれないの?」
救急隊長「そうだね、Sさん、病院も迎えに来てくれる方がいた方が見つかりやすいと思うんだ。どなたかいない?」
Sさん「無理だと思うけど…」
救急隊長「ご実家に連絡してみようか」
救急隊員が病院連絡するのと並行してSさんは○県の実家に電話、病院に行くので立ち会ってもらえないか、迎えに来てほしい旨を伝えることとなりました。病院連絡する際にも付き添いがいるのといないのとでは大違いです。ただこの実家への連絡が私たちのミスたっだのかもしれません…。

 Sさんが実家に電話をします。みるみる興奮していくSさん。
Sさん「ちょっとあんた!何言っているの?あんたの娘が苦しいって言っているんじゃない!?あんた何なの?私がこんなに苦しいから救急隊の人も警察の人も来てくれているのよ!」
救急隊長「ちょ、ちょっと…Sさん落ち着いて、そんな言い方したらご家族もびっくりしちゃうよ」
Sさん「もうこの人たち何言っても分からないんです、私なんてどうなってもいいって!ちょっと替わってください」
救急隊長「え""…」
救急隊長が電話に出ることとなりました。
救急隊長「こんにちは、Sさんのお母様ですか?私、救急隊の隊長なのですが、娘さんが落ち着かない様子なんですね、私たちが病院にお連れしますから迎えに来ていただけませんか?…入院?入院は先生が決めることなんで入院になるかどうかは分かりません。入院になってもならなくてもお母さんが来てくれた方がSさんにとっても良いと思うんですが…、え"""買い物?」
Sさん「待ってください、私替わります、どうせ買い物に行くからとか言うんでしょ?」
Sさんが受話器を救急隊長から取り上げた。
Sさん「何なのあんた?買い物?頭おかしいんじゃないの?あんたの娘が救急車で病院に行かなくちゃいけないって言っているのよ、なんで買い物なのよ!あんたたちがそんなんだから私がこんな風になったんじゃない!こんな私にあんたたちがしたんじゃない!!もういいわよ!私なんてどうなってもいいって言うんでしょ」
ガチャ…電話を切った…。
Sさん「いつもこうなんです。私が何を言っても買い物があるとか掃除しなくちゃいけないとか言って迎えになんて来たことなんてないんです。もう救急車も警察の人もいいです、帰ってください」
救急隊長「そんなこと言わないで、今一生懸命病院探しているからさ」
ベテラン警察官「そうだよ、救急隊の人も私たちもあなたの心配しているんだから」
Sさん「もういいわよ!帰ってください!」
自分で病院に行きたいと救急要請したSさんでしたが、実家への連絡を機に病院にはいかないと言い出しました。救急隊長、ベテラン警察官が病院への搬送を説得しましたが結局ダメ…。なんの解決も見ないままこの事案は傷病者本人の搬送辞退による不救護となりました。1時間以上の時間をかけて何の解決もみないままこの活動は終わりました。

 帰署途上。
救急隊長「あの子の家めちゃくちゃだよきっと」
救急隊員「電話ですか?」
救急隊長「…そう。迎えに来てくれないかって言ったらもうかんべんしてくれって、いつもの事だから救急隊も帰って大丈夫だってさ、それでもこっちは迎えに来てくれって言うだろ?そうしたらどこかに入院させてくれって、それがダメなら買い物に行かなくちゃいけないから無理だとか…滅茶苦茶だよ」
救急機関員「あの子もお母さんはいつも買い物があるから迎えに来れないって言うって言ってたじゃない」
救急隊員「それにしても何の解決にも役にもたてなかったですね」
救急機関員「仕方ないって、救急隊だけの問題じゃないよ、診てくれる病院もないし、家族はほっとけって言うし」
救急隊長「あの子大丈夫なのかね?」
救急機関員「自殺ですか?うつ病だって言っていましたもんね…」
救急隊員「傷病者本人が病院に行きたくないって言うんだからどうにもなりませんよね」
救急機関員「そう言い出さなきゃ今もまだ病院なんて決まってなかったよ」
救急隊長「うつ病もあるんだろうけどさ、寂しいんだろうなあの子…」

 精神科にまつわる長時間の活動は日常茶飯事です。なんと言っても受け入れてくれる病院がありません。この手の問題は私の町に限ったことではなく日本全国で同じような事案が発生しているようです。どの町でも何度も問題化しどうにかしなくてはならないと課題にはなるもどうにもなっていないのが現実のようで…。いつもいつも思うのです、こう言うときどうすればいいのか??救急の研修先でもいろんな先生にこの手の質問をぶつけてみましたが、どの先生からも具体的な回答は得られませんでした。ある先生は、
医師「あなたの言うとおりですよ、どの町でもこの問題は上がっています。でもどの町でもどうにもなっていないのが実情ですよ。でもね、どの病院も新規の精神科の患者なんて受け入れられないのもまた実情です。どうすればいいんでしょうね…」
きっともう現場レベルの問題ではないのでしょうね…。本当どうすればいいのでしょうか??

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