救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119-すべては救命のために-
救急救命士の仰天現場報告 case14

パラメディック119仰天現場報告外国人、保険未加入、決まらない病院 up data 2008.5.31

外国人、保険未加入、タール便、決まらない病院

 日常生活においてはなかなか知る事のない仰天の現場に出かけることのある私たち救急隊、先日、ニュース番組の特集で警察や入国管理局の取締りの模様がやっていました。違法な入国ビザなどで滞在している外国人たちが摘発に至るまでの過程が放送されていました。そう言えばあったなぁ、私が勤務する町の繁華街ではあらゆる国の人たちが働いています。深夜はむしろ日本人の方が少ないんじゃないかと思うような場所まであります。当然、こんな繁華街がある訳ですからその周辺には外国人たちが暮らしているところがある訳です。

 もう少しで0時を回ろうかという深夜、消防署に出場指令が響き渡りました。「救急出場、○町○丁目、○マンション301号室F(外国の性)方、下血があるとのこと」との指令に私たち救急隊は出場しました。
救急隊長「この姓、中東系だよな?」
救急隊員「日本語が通じると良いですけどね」
救急機関員「この時間に下血じゃ、病院なんてなかなか決まらないよな…」

 現場到着
指令先の○マンションの前に手を振る男性の姿がありました。この方が119番通報をした男性でやはり浅黒い肌、中東の国出身の方でした。
救急隊長「あなたが要請してくれた方?」
要請者「はい、友達が何か黒い大便が出て苦しんでいる」
救急隊長「そうですか、意識はありますね?案内してください」
要請者の男性は日本語がとても上手な方でした。

 傷病者接触
3階のマンションの一室のドアを開けると10人近くの外国人、さらに数名の子供、この決して広いとはいえないであろう部屋にこの数の人たちです。傷病者のFさんは40代の男性で部屋の床上に横たわっていました。床にはべったりと黒色のタール状のものが付着していました。Fさんも中東出身の方ですので浅黒い肌で顔色は判断が難しいですが、かなり蒼白と言って良いであろう顔色をしていました。
救急隊長「注意しろ!床にタール便があるぞ、触らないように気をつけろ!」
救急隊員「了解!」
タール便とはその名の通りまるでタールのようにべったりとした大便のことです。消化管のどこかに出血があり血液が消化されるとこのように真っ黒いタールのような便が出ることがあります。便に血液が混じっており、感染に非常には危険なものです。便に触らないよう、特に感染防御に気をつけなければなりません。部屋には普通の大便とは違うなんとも言えない異臭が漂っていました。
救急隊長「こんばんはFさん、大丈夫ですか?どうされましたか?」
Fさん「黒いうんちが出て…気持ち悪い、%&#…」
Fさんは日本語が話せますが要請者の方ほど上手ではありません。日常会話程度なら問題ないのでしょうが、難しい言葉などは分かりません。
救急隊員「隊長、バイタル取りますよ」
救急隊長「うん、それから眼瞼結膜も観察」
救急隊員「はい、了解です」
Fさんは一昨日からこのような黒色の便が出ているとのことでした。血圧は収縮期で90mmHg程度、眼瞼結膜、あっかんべ~した時の下まぶたの色のことですが、これは蒼白でした。血圧が下がっておりこの顔色、眼瞼結膜です。
救急隊長「Fさん健康保険は加入している?」
Fさん「ホケン?」
要請者の男性「保険はここにいる者はみんな入っていません」
救急隊長「救急車はお金かからないけど、保険に入っていないと病院のお金はたくさんかかるよ、大丈夫?」
要請者の男性「それは…大丈夫、みんなで何とかする、病院に連れて行ってほしい」
救急隊長「それは大丈夫、Fさんは病院で診てもらわないといけない状態だから連れて行きます。それとね、私たちは医者じゃないから何とも言えないけど、入院しないとどうにもならない状態だと思いますよ、あなたが病院には一緒に行ってくれるね」
要請者の男性「はい、それは大丈夫」
救急隊長「ひとまず車内収容しよう、車内で病院選定する」
救急隊員「了解」

 車内収容
深夜の消化管出血、病院で行われるであろう処置は出血部位の確定と止血だろうと思われます。消化器内科、消化器外科、ともかく消化器を得意とする医師がいるところに搬送する必要があるのです。喉の奥に入れるカメラが着いた内視鏡と言う検査器具がある病院、そしてこの時間、それが使える医師、選定は非常に難しい…。
看護師「この時間では内視鏡が使えないから当院での診察は無理です」
救急隊員「…分かりました他の病院に当たります」
さらに科目だけでも難しい状況に加えてFさんは外国人です。国籍により診ないなんてことはあってはならないことですが、特に東南アジア系、中東系の外国人が医療費を払わずに雲隠れしてしまうと言うケースは良く聞く話です。いつだかある病院ではこういった人たちの未払いが数千万円に及んでいるなんて聞いたことがあります。
看護師「外国の方ね?日本語は大丈夫?」
救急隊員「まあ日常会話くらいでしたら問題ないみたいです。同乗いただく友人の方は上手ですよ」
看護師「健康保険には入ってないのでしょ?支払いは大丈夫なのかしら?」
救急隊員「それも確認したのですが、友人の方は仲間みんなでなんとかすると言っています」
看護師「そうですか、少しお待ち下さい…  ごめんなさい、多分その方の状態だと入院になると思いますがベッドが万床です、受け入れることはできません」
救急隊員「そうですか…分かりました他の病院を当たります」
さらに健康保険には未加入、医療費は10割負担になるであろう方、こういった未払いになる可能性が見え隠れします。もちろんそれを理由には断られませんが、とにかく病院は見つかりませんでした。救急車内で救急隊からさらに本部に連絡を取って本部からも選定するももうとくかく搬送先病院は見つからない。
救急隊長「Fさんごめんね、病院がなかなか見つからないんだ、もう少し頑張ってね、今一生懸命病院を探しているから」
Fさん「はい…」
傷病者のFさんも要請者の男性もこのような状況でも暴言を吐いたりするようなことはなくただ静かに待っていました。時々、私たちには分からない国の言葉で何やら話しをしていました。
要請者の男性「あの、気分が悪いので外に出たいです」
救急隊員「ええ、分かりました、今、救急車の後ろのドアを開けますね」
要請者の男性は救急車を降りるとゲーゲー嘔吐を始めました。救急車内に立ち込めたこの臭いに気持ち悪くなってしまったのです。私も仕事でなければとてもじゃないけどこの臭いの中、ずっとなんていられない。病院が決定するまで実に1時間以上もの時間を要しました。連絡した病院の数は本部と合わせれば30件近くに上ったと思います。

 病院到着
医師「これはダメだ、相当出血しているね」
Fさんの顔色を見た先生が即刻入院を決定しました。「消化管出血 重症」

 帰署途上
救急隊長「いや~よく見つかったよな」
救急隊員「私立病院じゃ無理ですよね」
救急機関員「○病院も○病院も公立でも断るんだもんな、オレは一晩かかるかと思ったよ」
救急隊長「でも実際、どれくらいの医療費がかかってそれが払えるのかなんて分からないよな」
救急隊員「病院だって経営がありますからね、払えないリスクの高い人をわざわざ診たいとは思わないでしょうからね」
救急機関員「それにしてもひどい臭いだったな」
救急隊員「オレも正直、気分悪くなりましたよ」
救急隊長「あの生活ぶりだし、医療も受けてないだろうし、あのタール便は危険だよな」
救急機関員「肝炎、エイズ、何があってもおかしくないですよね」

 この現場、「外国人」「健康保険未加入」「タール便(消化管出血)」と搬送先病院が決まらないキーワードが揃っていました。そして案の定、決まらなかった病院…。こんな事があってはいけないのでしょうが、現実はこんなものなのです。

 この記事へのご意見・ご感想、追加、修正などなどをお寄せください。パラメディック119ブログ版・救急救命士の待機室にコメントを残すことができます。

最近の記事

コーナー

ソーシャルブックマーク
パラメディック119仰天現場報告外国人、保険未加入、決まらない病院