救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119-すべては救命のために-
救急救命士の仰天現場報告 case16

パラメディック119救急救命士の仰天現場報告我関せず、フィーバー up data 2008.10.16

我関せず、フィーバー

 我関せず。大都市で救急隊をやっていると他人のことなんて気にしていられないのでしょう。都会って他人になんて関心がないのだなと痛感することがよくあります。ただ、この事案は大都市、田舎町にきっと関係ない。みなさんとっても集中していて周りの人がどうなっていようとそれどころではないのです。

 「救急隊、消防隊出場、○町○番パチスロ店○に急病人、男性は倒れたとのこと、通報は店員のGさん」との指令に私たち救急隊、さらに同じ消防署の消防隊がペアで出場しました。

 現場到着
出場先のパチスロ店は繁華街にあり、お店の周辺も人が溢れていました。通報者である店員のGさんの案内がありました。
救急隊長「通報していただいたGさんですね?」
店員G「はい、お客様が倒れたので要請しました」
救急隊長「その方は今はどうしていますか?」
店員G「今も店の方で倒れています」
救急隊長「意識とかはどう?」
店員G「…それが、分かりません」
救急隊長「分からない…、案内してください」
店員G[はい、こっちです」
Gさんの案内で救急隊員、消防隊員がパチスロ店に入りました。この日は週末、店はたいへんな人ごみで、どの台にもほぼお客さんが座っていました。ジャンジャンバリバリジャンジャンバリバリ、どこのパチスロ店でも同じように激音がお店に轟いていました。

 傷病者接触
救急隊長と救急隊員がお客さんの間を分け入って傷病者の下へ向かいます。
救急隊長「ちょっとすみません、通してください」
救急隊員「すみません、具合が悪い方がいるんです、通してください」
夢中でパチンコに明け暮れている他のお客たち。そばで人が倒れているって言うのにまったく関係ない様子です。分け入る私たちに明らかに嫌そうな顔をしてる方が何人もいました。パチンコ台の足元に40代くらいの男性が倒れていました。誰も付き添っていることはなく、周りではパチンコが淡々と続けられ、ただ倒れていました。呼吸はしっかりとしていましたが、口からはよだれを垂らしており、明らかに意識障害がありそうな様子です。
救急隊長「もしもしどうされました?大丈夫ですか?もしもし!」
と多分言っています。
救急隊長「おい!&&%$&%$!!」
何やら隊長が叫んでいる。
救急隊長「え!?何ですか!?隊長、聞こえません!!」
救急隊長「%$&出す!$&’出&%#ぞ!!」
救急隊員「何!?聞こえないです!!」
救急隊長が隊員の肩をつかみ耳元で叫びます。
救急隊長「ここじゃダメだ!まず静かなところに移動しよう!ここから出すぞ、ここじゃあ活動にならない」
救急隊員「了解!消防隊にも伝えます!」
パチスロ店に行った事のある方ならイメージできると思いますが、台が並んだ通路はとても狭く、さらにそこにはドル箱が積んであります。この現場、傷病者のすぐそばに駆けつけられたのは救急隊長と救急隊員だけ、救急機関員も消防隊員もスペースがなく近寄ってこれません。パチンコに夢中の他のお客さんも席を立ち、活動に強力してくれる様子はありません。ただ黙々、淡々とパチンコを続けているのです。隊長の下命どころか話もできない。これでは活動になりません。
救急隊員「機関員、消防隊長!まずここから出します!」
救急機関員「は?何?聞こえない!」
やっぱり機関員の肩をつかんで耳元で叫びます。隊長の意思を伝えること自体がたいへんです。救急隊長、救急隊員、救急機関員、消防隊員1名の計4名で傷病者を抱えてひとまず活動スペースのとれるところまで出すことにしました。傷病者は身体の大きな男性で、この狭い通路を出すのはとてもたいへんです。パチンコを続ける他のお客さんの背中に当たりながらスペースのあるところまでともかく出すことにしました。
救急隊員「すみません、通ります!」
救出の際、肩や背中に当たる私たち救急隊に、人によっては明らかに「チッ…」舌打ちしている。彼の足元にはドル箱…あぁ出ているのね、人のことなんて気にしていられないですよね…。少し広いところまで救出してきましたがやっぱりここでは活動になりません。隊長の下命が聞こえないのです。消防隊員が用意してくれていたメインストレッチャーの傷病者を乗せてすぐに車内収容しました。

 車内収容
救急隊長「もしもし!?もしも~し、大丈夫?どうされましたか?」
傷病者「え?…ええ…」
救急隊長「分かる?ここは救急車の中だよ、分かるね?」
傷病者「…?」
傷病者の男性はうつろな表情を浮かべ明らかに今の状況が分かっていない様子でした。意識レベルはJCS3、ただ接触時より明らかに回復してきていました。血圧やサチュレーションなどのバイタル測定をするも特に異常な数値はみられない。意識障害があることから酸素投与を実施、私たち救急隊は近くの脳神経外科で診察可能な病院を選定し始めました。そうこうしているうちに…
救急隊長「分かる?分かるね?」
傷病者「ええ、分かります」
救急隊長「あなたはパチンコ店内で倒れたんだよ、分かるかな?」
傷病者「パチンコしてて…そこまでは分かるけど…」
救急隊長「名前は言える?お年は?」
傷病者「はい、Fと言います」
傷病者の男性はFさん、40代の男性で痙攣発作をお持ちの方でした。お話を聞いていくと過去にも何度かこうして発作を起こして倒れたことがあるとのことでした。かかりつけの病院もここからそう遠くない病院であることが分かり、このかかりつけ医療機関に搬送することになりました。

 現場出発
傷病者も回復して名前も生年月日も分かった。医療機関も決まってさあ出発、と思ったら。救急車の外で待っている店員さん。
店員G「どうですか?」
救急隊員「ええ、大分よくなって、今はお話もできるようになりましたよ、かかりつけの病院がある方でしたので、その病院に搬送します」
店員G「そうですか、それはよかった、お客様とお話させてもらいたいのですけどいいですか?」
救急隊員「そうですか、分かりました、ではこちらにどうぞ」
救急車のリアドアを開けて店員GさんはFさんに話しかけ始めました。
店員G「お客様、このカードなのですが、お客様の出球を換算しておきました。またのご来店の時に球にも景品にも交換できますのでお持ち下さい」
傷病者F「ああ、すみません。そう言えばけっこう出ていたんだよな…、助かりましたありがとう」
店員G「いえ」
倒れていたFさんに付き添う人はいなかったけど、出ていた玉をしっかり換算してくれた店員はいたのでした…。

 病院到着
Fさんは「痙攣発作 中等症」でした。

 帰署途上
救急隊員「本当、都会って言うのか…みんな我関せずですね…」
救急機関員「都会とか田舎とか関係ないよ、ギャンブルの場所ってあんなもんだよな」
救急隊長「オレもいつかの事案、やっぱりパチンコ店でCPAだったけど今日と同じだよ、オレたちがCPRしてたってパチンコは続いていた」
救急機関員「オレもあったなぁ、場外馬券場だったけど、やっぱりみんな我関せずって感じだった」
救急隊員「やっぱりそんなものですかね」
救急機関員「そんなもんだよ、フィーバーしてたらなおさら、どんな理由があったって中断させられたらたまらないでしょ、分からないでもないよ」
確かに救命活動のためだからと確変中の人たちを押しのけて活動したのなら、「オレはあの時、フィーバーしていたんだ!消防署で保証してくれ」充分言われかねない…。何か寂しい世の中ですね。。

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