救急救命士のため息 パラメディック119〜すべては救命のために〜
パラメディック119ためいき現場振り込め詐欺ではありませんよ Last up 2005.5.30

救急救命士のため息現場 case6

振り込め詐欺ではありませんよ

 「救急隊出場指令、A駅に怪我人、お客さんは階段から転落受傷したもの。救急隊はA駅北口に向かってください。駅員Hさんの案内があります。」
夜11時過ぎ、小雨舞う中の出動でした。現着するとA駅駅員のHさんが待っていました。
駅員H「こちらです。40歳くらいの男性なんですけど、階段から落ちたようで頭に怪我をしています」
救急隊「意識はありますか?出血はどのくらいですか?」
駅員H「意識はあります。…でも大分酔われているようで何を言っているのか?出血は大分あったみたいで階段は血だらけになっています。

 傷病者接触。A駅の長い階段の下でFさんという40代の男性が血まみれになってひっくり返っていました。
救急隊「どうされましたか?大丈夫ですか??」
怪我人F「大丈夫?なにが大丈夫ぅ?ひぃ〜ック」
典型的酔っ払い。酩酊状態。観察実施するも動いて動いて血圧もろくに取れない。
怪我人F「触るんじゃねえよぉ〜」
頭からの出血は止まっているもかなりの量があったようでFさんの着ているスーツは血だらけでした。頚部を固定しようとネックカラーをしようとするも自分で取り払ってしまう。
怪我人F「なんだよぉ〜これ、いらねえよ〜ぉ〜」
救急隊「あぁぁFさん、それ取らないで、壊さないでよ!」
あんまり乱暴に取り払うので頚部固定は諦める。サブストレッチャーで搬送しようとするも
怪我人F「オレは大丈夫だぁ!そんなのには乗らない!救急隊は帰れ〜!」
とか言っちゃってダメ。
救急隊「分かった!分かったからFさん。とりあえず立ってみよう。私たちが肩を貸すから。ここで寝ていたって仕方ないでしょ?」
立ち上がるFさん。ふらふらしているものの肩を貸してあげれば自分で歩くことできる。ようは酔っ払っちゃって階段で自爆した酔っ払いでした。やれやれ…。でも頭部を見る限り2箇所以上10cm近くパックリと割れていて数十針は縫わなきゃいけない怪我をしている。

 車内収容。23時過ぎ、頭を強打している傷病者、脳外科で選定。脳外科で酔っ払い…診てくれる病院ないんだよなぁ…。深夜に診てくれる脳外科の病院が少ないのに加えて、このようにちょっとたちの悪い酔っ払いの場合、なかなか診てくれる病院が見つかりません。おまけにこのFさんの場合はひとり、付き添いがいない場合、病院も深夜で手薄、あきらかに人手のかかってしまうこのような方を診られる余裕がないんですね。数件の病院にやっぱり診察の後、この時間じゃ帰れないだろうし朝まで付き添ってくれる人がいないと診れないと断られました。
救急隊「ねえFさん自宅の電話番号教えてよ、誰か付き添ってくれる人いないと診てくれる病院ないよ、ねえ!」
何故かこのFさん、自分の名前や住所は教えてくれたのに電話番号を教えてくれないんですね。こっちもずっと救急車で待機している訳にはいかないから教えろ教えろとFさんに詰め寄る。もう酔ぱっらっちゃってすっかりストレッチャーの上でおやすみのFさんとしてはうるさい訳です。
怪我人F「う〜ん、うるせえなぁ…。勝手に携帯みろよ〜」
救急隊「携帯見てもいいんだね!このポケットに入っているのそうだね、出すよ!見せてもらうよ!いいね?」
救急隊が勝手に傷病者の持ち物を見るわけにはいきません。酩酊状態なれど本人の許可を得た。自宅の電話番号は分かりませんでしたが、リダイヤルの1件目に奥さんらしき名前あり。
救急隊「ねえ、Fさん、このI子さんって奥さん?奥さんでしょ??」
Fさん「…」
救急隊「Fさん、I子さんは奥さんだよね?ねえ?Fさん??Fさんってば!?」
Fさん「うるせえなぁ〜!そうだよ!ああうるせえなぁ」
よっしゃ、電話番号GET!こんなやり取りをしている間にどうにか診てくれる病院が決まった。でも診察後、入院の要がなかったら誰か付き添いを置くこと。それが無理なら救急隊から警察官を要請し保護してもらうことでした。

 現場出発。走り出した車内から家族への電話連絡。
救急隊「もしもし、私、救急隊の者です。Fさんの奥さんですよね?」
Fの妻「まあサイレンまで鳴らして…」
救急隊「?あのね、奥さん、FさんがA駅の階段から落ちまして、今、K大学病院に向かっています。迎に来ていただきたいんです。」
ガチャ・・・。ツーツ・・・。切られた。えぇ〜切られた!?なんで??旦那が怪我しているんですよ?

 病着。医師の治療の間も暴れて大変。
医師「救急隊さん、迎に来てくれる人いるの?」
救急隊「…それが先生、奥さんにはつながるんですけど切られちゃうんですよ」
医師「何で?もう一度かけてみてよ」
今度はFさんの携帯を借りてかけてみることにしました。Fさんの携帯を持って隊長は診察室の外へ。隊員と機関員は暴れるFさんを押さえる。
救急隊「Fさん、今、先生が治療してくれているんだから動かない!」
Fさん「痛てえんだよ!離せよぉ〜」
診察室に入ってきた隊長、何故か半笑い。
医師「どうでした?」
隊長「ダメ、ぜっんぜん信じてない。私はダマされないわよとかなんとか言っちゃって切られちゃったよ。なんか振り込め詐欺だと思われたみたいでさ」
医師「…嫌な時代だね」

 救急隊長の話から再現するとこんな感じだったらしい。
隊長「もしもしFさんの奥さんですか?救急隊です」
プツゥ・・・ツ〜ツぅ〜・・・。いきなり切られた。もう一回。
隊長「もしもし奥さん切らないで救急隊です」
Fの奥さん「もういい加減にしてください!」
隊長「本当に救急隊です。信じてください。振り込め詐欺じゃありませんよ。FさんがA駅でお怪我をしました。今、K大学病院に運びました。Fさんは大分酔われていまして迎に来ていただきたいんです。」
Fの奥さん「主人は今日は仕事です。酔っ払ってなんていません」
はは〜ん。だからFさんは家の電話番号を教えたがらなかったんだな。奥さんの完全に信用していない態度にベテランの隊長も引かない。
隊長「分かりました。でしたらね、あなたがK大学病院の救急処置室に電話をかけて確認してください。私たちはK大学病院の救急処置室にご主人を搬送いたしました。Fさんが搬送されているかどうかあなたが確認してください。電話番号は…、あなたが電話帳ででも104ででも調べてください」
なんでも指定した電話番号にかけてきた人をさらにだます手口があるらしく、そんなニュースを見ていた隊長はあんたが調べろって言ったそうです。

 診察室。
隊長「全然信じてなかったからここにかけろって言っておきました。それでもダメかもしれないけど、もしかしたらそろそろかかってくるかもしれません」
医師「大変だね、救急隊も」
救急隊「はぁ、そうなんです」
怪我人F「痛てえ!痛えつってんだろぉ〜!」
男性看護士「動くなつってんだろぉ〜!」
プルプルプル〜!K大学病院救急処置室の電話が鳴る。電話に出た看護士さん、
K大学病院看護士「…搬送の確認?」
医師・隊長「来た来たぁ〜!」
K大学病院救急処置室に笑いが漏れる。
K大学病院看護士「Fさんですね、はい確かにここにおられますよ、はい、今こちらで治療している最中です。」
医師「私が替わろう」
看護士さんから受話器を受け取った医師。
医師「K大学病院医師のOと申します。Fさんの奥様ですね、私が迎に来てくれる方を探してほしいと救急隊にお願いしました。ご主人ね、大分酔われていて今、治療をしています。頭に20針以上の怪我をされていまして、その治療が済んだら今度はCTやレントゲンの検査をします…」
自分で調べたK大学病院の電話番号にかけ、お医者さんが登場したものだからさすがの奥様も信じたようですね。
電話を切った医師、
医師「迎に来るってさ。信じたみたい!」
K大学病院看護士「Fさんは確かにいますよって言ったら、いるんですか!!って言われちゃいました」
K大学病院救急処置室、爆笑!

 治療が終わってすっかり元気をなくしたFさん。きっとこれから奥さんに怒られるのでしょう。帰署途上の救急車内、
救急隊長「ホントまったく信じてないの。嫌な時代かもしれないけど、あのくらい用心深くないといけないのかもしれないね」
救急隊員「そうですね…」
救急機関員「それにしてもあの野郎、ずいぶんと元気だったじゃねえか、抑えるの大変だったよな?」
奥さんと連絡が取れるまで暴れ続けたFさんを押さえつけるのに隊員と機関員の腕はパンパン。疲れました。私たちは救急隊、深夜でも酔っ払いでも119すれば駆けつけます。けっして振り込め詐欺ではありませんよ。

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