救急救命士のため息 パラメディック119〜すべては救命のために〜
パラメディック119ためいき現場寝ているだけじゃん Last up 2005.7.29

救急救命士のため息現場 case12

寝ているだけじゃん

 救急車の使い方を間違っている人はこの世の中にそれはそれはたくさんいて、それがこのため息現場になっているのですが、中には確かに困ってはいる、困ってはいるんだけどそれは違うだろって方もいるんですね。今回はそんなお話です。

 「救急出場、飲食店○○に急病人、お客さんの男性は飲食後意識がないもの、通報は店員のFさん」通報の内容から言っても重症の可能性が高い。消防隊も同時出場となりました。朝の5時頃の出場で朝日が眩しい時間でした。この飲食店は24時間営業の某有名チェーン店です。

 現着。意識なしとの情報に私たち救急隊も資器材を抱えてお店になだれ込みました。時間はまだ早朝の5時を過ぎた頃、お客さんは…ひとり、あそこで寝ている男性だけだなぁ?傷病者は…?あぁ〜あ…またか…。
救急隊「救急隊です。あなたが通報者のFさんですね?意識のない方はどちらですか?」
店員Fさん「え〜とぉ…この人です…。」
ああやっぱりね、カウンターのテーブルで「ぐぅ〜ぐぅ〜」寝ているあの彼だ。誰がどう見ても寝ているだけ。この日もほとんど寝れずの救急隊でした、普段は温厚な隊長も飛び起こされてこのガックリ事案にちょっとイライラしたのでしょうね。
救急隊長「どう見ても寝ているだけじゃん?」
店員Fさん「いや、その…、でももうずいぶんあのままだったので…」
この店員のFさん、この男性がカウンターで眠りこけてしまったものでお店の片付けだとかいろいろと仕事が進まなかったんでしょうね、で困っちゃったわけです。私たちが駆けつけた時も「意識なし」のお客さんをほっぽらかしてお店の奥の方でなんかやっていましたからね。
ウゥ〜!サイレンを鳴らして消防隊も到着した。消防隊が駆けつける。
消防隊長「消防隊到着しました!」
救急隊長「あぁ…。お疲れさまです。ちょっと待機しててもらえますか」
重症だからと消防隊も出場してみれば、この手のケースというのもけっこうありますのでそこは消防隊も慣れたものです。
消防隊長「はいはい、了解!」
消防隊員、救急隊員たちが見守る中、救急隊長が傷病者?に接触する。眠りこけている男性からはすごいアルコール臭がしていました。ただの酔っ払いです。飲んだ後にこ腹がすいてこの飲食店に入ってご飯を食べたら眠たくなっちゃったんでしょうね。私にも似たような記憶があります。

さぁ傷病者に接触です。
救急隊長「もしもし?もしも〜し!!?起きて?起きてよ?ねえねえってばさ??」
傷病者「ん?んん??」
目を覚ましたのは30代の男性、見た目は25,6くらいに見えるようなちょっとヤンキーっぽいような感じの方でした。表には救急車と消防車、で目の前には救急隊員と消防隊員、さぞびっくりしたのでしょうね。
傷病者「え!ええぇ!何ですか?」
救急隊長「救急隊ですよ、大丈夫ですか?」
傷病者「…?大丈夫…ですけど。」
救急隊長「でしょうね…。ちょっと飲みすぎちゃったの?ずいぶんとお酒の臭いがしますよ」
傷病者「…はい。」
救急隊長「あなたがここで眠りこんじゃったから店員さんが病気じゃないかと心配して私たちが呼ばれたんですよ、大丈夫なんですね?」
傷病者「…大丈夫です。」
救急隊長「じゃあさ、帰ろう。もう電車も動いているしこんなところで寝ていても仕方がないしさ、ね」
傷病者「はい。なんか…すみませんでした。」
救急隊長「いいえ、あなたが病気じゃなければそれでいいんですよ」(そんなことは思っていなくてもそれが仕事です)
消防隊長「それじゃあ、私たちは引き揚げますからね」
救急隊長「ああ、お疲れ様でした。」
消防隊が引き揚げていく。消防隊員が私たち救急隊員に「何なの?あ〜あ…」って目で訴えていった。私たちも「やれやれだよホント…」と目で訴え返す。
救急隊長「お会計はしたの?」
店員F「いいえ、まだです」
この酔っ払い男性に聞いたんだけどな。お金払ってもらえるかどうかよっぽど心配だったんでしょうか?
救急隊長「お金払って帰りましょう、ね」
男性はお店にお金を払って駅に向かって歩いて帰りました。
傷病者?「…なんかすみませんでした。歩いて帰れますから大丈夫です。ありがとうございました」
救急隊長「いいえ。これからはあんまり飲みすぎないようにね」
傷病者?「はい。どうもすみませんでした」
見た目からは意外な腰の低さでした。
救急隊長「Fさん、ご覧のようにあの方は病人じゃなくて意識もあのようにハッキリして歩いて帰りました。私たちは引き揚げますからね」
店員F「はい。ありがとうございました。」
店員Fには安堵の表情が見える。…救急隊の仕事じゃないって!!

 この手のケース、たまにあります。飲食店で眠り込んでしまったお客さんを追っ払いたい。でも「帰ってくださいよ」なんて言ったら相手は酔っ払いだし「なんだとこの野郎!」となるかもしれない。警察を呼んだらやっぱり角が立つ「なんで警察なんて呼んでるんだよこの野郎〜!」、そこで救急車な訳です。「お客さんが心配で救急車を呼びました」って言えば、この野郎とはなりませんよね?そういうことです。歓楽街などでは多いケースで、お店の前で寝ちゃった酔っ払いを追い払うのに救急車を呼ぶ飲食店の方はけっこういるんです…。それはお店の先で酔っ払いが眠り込んでしまえばお客さんは入ってこないしお店の人はさぞ困るでしょう。でも救急車の出る幕じゃない。どう考えても救急車の使い方を間違えています…。私たちは救急隊、救命のためにいつでもどこでも駆けつけます。酔っ払いばらいは私たちの仕事じゃありません…。

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