救急救命士のため息現場 case19
病気じゃないから大丈夫です
12月も20日を過ぎて街はクリスマスムード一色、街のあちらこちらでイルミネーションが街を様々な色に染めて実にキレイです。デパートなどに出場していくと家族連れや恋人たちがプレゼントやケーキが入っているのかな?大きな紙袋を下げて実に楽しそう。歓楽街に行けばみんなほろ酔いでやっぱり楽しそう。そんな中を飲みすぎたゲロまみれのおじさんをストレッチャーに乗せて運ぶ私たち救急隊、
野次馬の酔っ払い「おいおい、この年末の楽しいときにちっとも楽しくないヤツがいるぜ、ギャハハハハハァ〜!」
救急隊「…」
病院で、
救急隊員「ホント、ちっとも楽しくないですね、なんか街が明るいと余計に救急隊って情けない商売ですよね…」
救急機関員「はぁぁ…オレも家帰って家族と飯が食べたいよ…。」
救急車内「はぁぁ…」
救急隊なんてちっともいいことないじゃねえか…。師走、救急車内は街とはうらはらにどんより暗いムードです。
12月、特に夜は都心部の救急車はありません。み〜んな酔っ払いや酔っ払いたちのケンカなどに出場しているからです。こんな時に命に関わる事故や急病になったら絶望的です。救急車が迅速に現場に駆けつけることがマレだからです。それが都心部の救急車を取り巻く現実です。この日も夕食も摂れず出場しっぱなしでした。周辺救急隊はみんな出場中なので帰署途上に無線で呼び出されとんでもないところまで出場していくことの連続でした。現場到着まで10分は軽くかかる現場ばかりでした。「これじゃ本当に救急車じゃないと助からない人なんて誰ひとり助かるわけないや…」と思いつつも迅速に駆けつけなくちゃいけないような事案なんてちっともありません。師走はこれが日常です。ここをご覧のみなさん、師走の都心部で事故に逢わないように、本当に助かりませんよ。
22時を回った頃でしょうか?消防署に帰ってまたすぐに出場がかかりました。「救急出場、○町2丁目…○アパート前、男性は倒れているもの、通報者はKさん男性の方」との指令に私たちは出場しました。町はクリスマスオレは急いでマスって感じです。
出場途上の車内、救急隊員が通報電話番号に電話をかけました。
救急隊員「もしもし、Kさんですか?救急車を要請されていますね?そちらに向かっている救急隊の者です」
通報者K「ああ、すみませんお願いします」
救急隊員「今、急いでそちらに向かっています。今の患者さんの状態を教えていただけますか?男性が倒れられているんですね?出血とかはありませんか?」
通報者K「倒れているというか、酔っ払いです。寝ているだけなんです。」
救急隊員「え?病気とかじゃないんですか?寝ているだけ?」
通報者K「そうです。こいつ飲みすぎてこの寒いっていうのにアパートの前で寝ちゃったんです。俺一人じゃ困ったんで救急車にお願いしようと思って」
救急隊員「…そうですか、もうちょっとで救急車そちらに着きますからお待ちください」
通報者K「はい。大丈夫ですからサイレンと赤色灯止めて来て下さい」
救急隊員「(大丈夫なら救急車なんて呼ぶんじゃねえよ!)Kさん、救急車は緊急車両です。サイレン鳴らして赤色灯回して救急車ですからそんなことはできません。そのまま患者さんの様子を見守っていてくださいね」ガチャ!もうこれ以上何を聞いても仕方がないので切った。…。サイレンを鳴らし急いでいる救急機関員、隊長に今の話を説明する。
救急車内「…はぁぁぁ。」
救急車に道を譲ってくれる一般車両、いいですよ、無理しないでね、道が詰まったらいくらでも待ちますから。
現場到着。アパートと言っても高層住宅の入り口で傷病者Hは倒れて?仰臥位となり寝ていました。通報者のKさんがこちらに向かって手を振っています。傷病者Hも通報者Kも40歳代の男性でついさっきまで仲間たちといっしょに飲んでいたということでした。
通報者K「こっちですこっちです。こいつです。」
救急隊員「はい、分かりました。Hさん、Hさん!どうしたんですか?」
傷病者H「…うるさい、寝たい」
救急隊長「Kさんはこの方のお友達なんですか?」
通報者K「そうです。さっきまでこいつと飲んでいたんですけどここまで来てここで寝ちゃったんですよ。病院なんて行かなくて大丈夫ですから家まで運んでください」
救急隊長「あのね、Kさん救急車は緊急の患者さんを病院に連れて行くためにあるんですよ」
通報者K「でもただ飲みすぎただけですよ。怪我でも病気でもないのに病院に連れていったって仕方ないでしょ?」
救急隊3人「…」(ぶっとばしたい…)
救急隊長「Hさんの家はどこなんですか?」
通報者K「このアパートです、あと部屋に上がればいいだけなのにここで寝ちゃったんですよ」
救急隊員としては隊長に「ふざけんなよ!」って怒ってもらいたかったんですが、通報者のKも酔っ払いで言動がやや荒かったんですね。もめて面倒な思いをするのは結局、私たち救急隊なんです。
救急隊長「…分かりました。Hさんの家にはどなたか家族がいるんですか?」
通報者K「ええ、こいつの両親がいますよ」
救急隊員「ねえ!Hさん、病院行かなくて大丈夫だよね?おうちに帰って寝よう!ねえ!Hさん!!」
傷病者H「あぁ〜!うるせえ!オレは眠たいんだ!」
そう言ってまた寝込んだ。
救急隊長「…連れて帰ろう」
通報者K「こいつ重いですからストレッチャー使わないとダメですよ」
救急隊3人「…」(すごくぶっとばしたい!)
今回のお話、ハッキリ言いまして、救急隊としても恥ずかしい活動です。こんなの救急隊がすべきことじゃない。こうしている間にも本当に救急車を必要としている人がいたのならその方が助からなくなってしまう。中には、そんなふざけたヤツは一括して救急車は帰ればいいんじゃないかと思う方もいるかと思いますが、ここで救急隊が通報者と口論して時間を要するよりは「はいはい」言ってとっとと家に運んでやってさよならした方がずっと時間もかからないんですね。けっしていいこととは言えませんが、これも本当に救急車を必要とする人のためなんです。って自分に言い聞かせて言い聞かせて傷病者、じゃないですね酔っ払いHを部屋まで運びました。酔っ払いHのお家には老夫婦がおり、その老夫婦は私たち救急隊に平謝り。
老夫婦「すみません、すみなせん。このバカが!本当にもう、本当に申し訳ありません。」
救急隊「はあはあ、いえいいんですよ、はぁはあ」
この酔っ払いHの重いのなんのって。
通報者K「すみません、お母さん、オレがちょっと飲ませすぎちゃったもんで、オレだけじゃ連れて来れないから救急車頼んだんですよ」
ともかく酔っ払いHは部屋の布団に寝かせました。こんなの救急隊の活動じゃありませんけど。ともかく活動終了、バカバカしい…。はぁはぁはぁ重かった…。
さあ帰ろう。
救急隊長「Kさんね、先ほども言いましたけど救急車は本来、緊急の方を病院に運ぶためにあります。こういった使い方はもうしないで下さい。でね、本体の活動、病院にはお連れしなかった訳ですから、病院にはもう行かなくていいということでここに一筆いただけますか」
通報者K「はいはい。ここに名前書けばいいんでしょ」
なんて手馴れているんでしょうか。この通報者K間違いなく救急車をこうやって何度か使っています…。
救急隊長「それでは救急隊はこれで帰ります」
通報者K「本当助かりました。ありがとうございました。」
老夫婦「本当、申し訳ありませんでした。」
救急隊「…いいえ」
帰署途上。
救急機関員「このクリスマスの時期に40男どもでクリスマスパーティーかね」
救急隊長「モテないバカヤロウどもの成れの果てでしょ」
救急隊員「本当情けない連中ですね」
救急機関員「…でもさ、オレたちが一番情けないよね」
救急車内「…」
ピ〜ピ〜ピ〜!無線機が鳴る。
救急隊3人「はぁぁ」
無線機「救急隊、連続出場で申し訳ありません。○町に出場が入ります、受信体制を取ってください」
今度はどこにいけばいいの?また酔っ払い?
救急車を利用する方の中にはこうした間違った使い方をする方がたくさんいます。ここをご覧の方はよく分かっているでしょうが、こんな使い方していい訳ないんです。でもこういった使い方をしてもペナルティがある訳でもなんでもありません。モラルさえなければなんだってアリです。私は救急隊は人命を助ける誇り高い職業だと思っています。が、そんな仕事はほんの一握りでそのほとんどが忍耐、我慢の仕事です。「私たちがあんな酔っ払いたちに関わっている間にすぐそばで死にそうになっていた人はいなかっただろうか?私たちがあんな連中に振り回されていたせいで人知れず迅速な救護を受けられなかった人が死んでいるんじゃないだろうか?」私がそんなことを考えたところで現実は何も変わらないです…。
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