救急救命士のため息 パラメディック119〜すべては救命のために〜
パラメディック119ためいき現場未成年だからやっちゃいけないこともあるんだ Last up 2005.12.28

救急救命士のため息現場 case20

未成年だからやっちゃいけないこともあるんだ

 12月も後半になると忘年会の急性アルコール中毒がたいへんたいへん多くなります。これが管内に歓楽街を抱える救急隊になるとなおさらで、出場の度に飲みすぎたゲロまみれの人たちを扱うことともなります。急性アルコール中毒だって重傷度が高くなれば死亡にいたることもある怖いものですが、そのほとんどが一晩休めば治ってしまうようなものばかりです。そもそもついさっきまでドンチャン騒ぎで飲んでいた人たちですから基本的には不眠不休で働いている救急隊たちなんかよりずっと元気な方々なんです。

 今回のお話はちょっとため息現場ってタイトルからはずれているかもしれません。いつもいつも理不尽な救急要請をする困った方たちに振り回されてため息をつく私たち救急隊のお話をしています。怒るに怒れないもどかしさ、しかし今回の話は隊長がいつもとは違ったんです、ため息の出る活動でしたが、私はなかなか痛快でした。朝方5時を回った時間でした。消防署に救急指令が流れました。「救急出場、○町交差点路上、17歳男性の方は倒れているもの、友人Oさんからの通報」との指令でした。この日もほとんど不眠不休で働いていた私たち救急隊、横になれたのは3時過ぎ、1時間横になれたかどうか…。目を真っ赤にしているベテラン救急隊長、もうぐったりしている救急機関員、足取りの重い救急隊員が早朝の町に飛び出します。

 出場途上。通報電話番号、通報者Oさんの携帯電話に電話をかけた。
救急隊員「もしもし、Oさんですか?救急隊です。今そちらに向かっています。倒れている方の様子を教えていただけますか?」
友人O「はい、僕の友達なんですけど、ちょっと飲みすぎちゃったみたいで寝ちゃっているんです。」
救急隊員「…。お酒を飲みすぎたんですね、ちゃんと呼吸はしていますね?」
友人O「はい、息はしています。」
救急隊員「分かりました。もう少しで到着しますよ。救急車が見えたら案内してくださいね」
状況を隊長と機関員に説明する。
救急機関員「17の小僧が飲み方も知らないくせに飲むからだよ…」
救急隊長「…」

 現場到着。傷病者は17歳の高校生のFくん、路上に寒そうにまるまって側臥位になって倒れていました?…寝ていました。それを心配そうに見守っている通報者友人のOくんとどちらかの彼女か何かなにかなのかやっぱり高校生であろう女の子がいました。町はうっすらと明るくなってきており実に寒い。こんな中アスファルトの上に寝ているんだからどれだけ飲んだのでしょうか?
救急隊員「救急隊です。どうされましたか?」
友人O「すみません、お願いします。こいつちょっと飲みすぎちゃって…」
私たち救急隊はうんざりするほどこの手の事案を扱います。パっと見てだいたいの重傷度が分かります。このFくんの場合、「アルコールで酩酊し倒れた」という表現よりは、「普段飲みなれないお酒を仲間たちと調子にのって飲んでいたら呑まれちゃってどこでもいいから眠たくなった」というのが正しい表現だと思います。隊長と機関員は傷病者の観察を隊員の私にまかせてストレッチャーに汚れ防止のカバーをかけています。
救急隊員「Fくん!Fくん!こんなところで寝込んじゃダメだよ!ねえ、大丈夫?」
傷病者F「う〜…。」
呼吸も脈拍もしっかりしている。脈をとるのに腕に触ると非常に冷たい。こんな中で寝ているんだから当たり前です。
救急隊長「寒いからとにかく車内収容しよう」

 車内収容。通報者のOくんが同乗することとなりました。身体が冷え切っているFくんのために救急車内の暖房を最高にしました。さらに換気扇を回した、いやいやそれにしても酒臭いな…。Fくんは別に嘔吐がある訳でもなく眠り込んでいたのもアスファルトの上だったので衣服も汚れていません。服装はこの寒い中にしてはかなり薄着でズボンは腰履き、というかもうすっかり腰より下まで落ちていてトランクスもお腹も丸出しでした。これってまだ流行っているんだっけ?この腰履き、やっぱり年配のおじさんたちには感に触るようでベテラン救急隊長がこの活動、車内収容後に一番最初にした下命は、
救急隊長「おい、とりあえずこのパンツをどうにかしろ」
でした。救急隊員がちゃんとズボンを履かせる。
救急隊員「Fくん、寒いだろ?ズボンちゃんと履こうな」
とりあえずズボンを履かせてから血圧だの脈拍だのサチュレーションなどのバイタルサインを測る。まったく異常なし。
救急隊員「それで、どうしてこのようになったのかいきさつを教えてくれますか?」
友人O「はい。昨日の夜8時くらいから仲間と飲み始めてさっきまでカラオケにいたんです。帰ろうと思って解散したんですけど、こいつがここで休みたいって言い出してそのままあのように倒れちゃったんです。」
救急隊員「昨日の夜の8時からずっと?じゃあ6,7時間ずっと飲んで遊んでいたの?」
友人O「はい…そうです。」
救急隊員「それじゃあ飲みすぎだね、だからこんなことになっちゃうんだよ」
友人O「はい、すみません」
救急隊員「それじゃね、Oくん、ここにFくんの名前や住所を書いてください。病院に連絡しますから」
友人O「はい分かりました。」
救急隊員と友人Oとのやりとりをここまで黙って見ていた救急隊長が口を開いた。
救急隊長「ところでOくんよ、君、いくつからお酒を飲んでいいのか知っているのか?」
友人O「はい!…いや…その…20歳からです。」
救急隊長「そうだよな、君たち高校生だろ、飲んだらいけないのになんでこんな事になっているんだよ」
友人O「はい、それは…その…。」
救急隊長「そこにFくんの名前や住所とそれから君の名前も学校の電話番号も書いとけ!未成年だから許されることもあるけど未成年だからやっちゃいけないことだってあるんだよ!」
友人O「…はい。すみません」
隊長に怒られすっかりしゅんとしたOくん、友達を心配した上に学校への連絡まで臭わされすっかりびびって固まっています。そんなOくんの前には暖かくなった救急車内で毛布に包まってすっかりスヤスヤと寝息を立てているFくん。やれやれ。

 病院到着。Fくんは病院のベッドに移され医師の診察が始まりました。待合室ですっかり硬直しているOくん。きっとOくんの頭の中には「たいへんなことになっちゃった」って反省と後悔が渦巻いていたことでしょう。活動記録表を書きながら隊長がOくんに諭すように話しかけた。
救急隊長「なあOくんさ、さっきも言ったけど20歳までお酒を飲んだらいけないことになっているんだから飲んだらいけないんだよ」
友人O「はい…。すみませんでした。」
救急隊長「高校生でもう身体も大人になっているしたまにお酒を飲んでみたいって気持ちも分かるけどな、これは未成年だろうが大人だろうが同じなんだけど、誰かに迷惑を掛けちゃダメなんだよ。お酒を飲んで騒いで遊んだら誰にも迷惑かけないで自分で自分の家に帰らなくちゃダメなんだよ」
友人O「…はい。すみませんでした。」
救急隊長「そうか、分かったな。大分反省したみたいだから学校になんて連絡しないから。これからはもう絶対こんなことにならないようにね。学校に知れたら停学とか退学になっちゃうんだろ?」
友人O「は、はい!ありがとうございます!」
さっきまでどんよりと暗かったOくんの顔がパァっと明るくなった。診察室から先生が出てきた。
医師「ちょっとお酒飲みすぎただけだね、とにかく帰れないから目が覚めるまで病室で寝かせます。後で親御さんに迎に来てもらおう」
友人O「ありがとうございました。」
先生が救急隊の活動記録表にサインした。傷病名「急性アルコール中毒 軽症」
救急隊長「それじゃOくん、救急隊はこれで帰るからね、Fくんが目を覚まして親御さんが迎に来るまでちゃんと付き添っているんだよ」
友人O「はい!本当にすみませんでした。ありがとうございました」
私たち救急隊はこれで引き揚げます。
医師「じゃあFくんの友達、病室に連れて行くから一緒に来て」
友人O「はい、分かりました」
医師「ところで君、お酒はいくつから飲んでいいのか知っているのか?」
友人O「…え…」
あ〜あ、隊長からは許してもらって一安心していたOくん、またこんどは先生から怒られちゃうのかな?

 帰署途上。
救急隊員「隊長に怒られてOくんすっかりびびってましたね」
救急隊長「ああやって反省させなくちゃあの子のためにもならないだろ。大人が怒ってやらなくちゃいけないんだよ」
救急機関員「世の中、分かってない大人ばっかりなんだけどな」
救急隊員「お酒を飲んだら誰にも迷惑かけないで自分で家に帰るって、うちの消防署にも全然分かってない人たくさんいますもんね」
消防署の忘年会、「これで何件目でしたっけ?」「うひぃ〜?な・何件目?分かんないぃ。もう一軒いこうぜ!」何件目かの飲み屋で吐き倒す先輩、消防職員も偉そうなとても言えませんね…。

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