救急救命士のため息 パラメディック119〜すべては救命のために〜
パラメディック119ためいき現場使いっぱしりじゃないんだよ Last up 2006.2.6

救急救命士のため息現場 case21

使いっぱしりじゃないんだよ

 年末、町は忘年会に沸き立ちます。歓楽街ではお酒にまつわる出場がたいへん増える。都心部では12月がもっとも救急出場が増える季節となります。21〜深夜の1,2時くらいまでの間、急性アルコール中毒、酔っ払い同士のケンカなどでひっかきまわされる救急隊、この時間日本の都心部で緊急を要する怪我や急病になってしまった場合、救急車が迅速に駆けつけることはかなりマレになり本当に緊急の方はよっぽどついてないと助かりません。

 お酒を飲みすぎたおじさんにゲロをかけられ、病院では「騒がれると困るから家族が迎えに来てくれるまで救急隊は帰らないで下さい」と言われる。だから一件の活動時間が長くなってさらに救急車が足りなくなります。この季節悪循環が悪循環を呼びます。食事も摂れず連続連続の出場先に向かう「またこんなに遠くまで出場するの?いったい何キロあるんだろう?どうせまた酔っ払い?タクシーのかわりかな?」十数分かけて到着してみれば重傷度の高い傷病者…。迅速に駆けつけることができず、家族はやっと来てくれたと不安な表情を救急隊に見せる。ごめんなさいすぐに駆けつける事ができなくて…。一番近くの病院に連絡を取れば「今、○救急隊が来ているから診れない」その次の病院は「さっき○救急隊が運んできた酔っ払いが騒いでいるから診れない」なかなか病院が決まらない。家族が不安と心配、そしてあなたたち救急隊だろ?プロだろ?迅速に病院に運ぶのが仕事じゃないのか?と不満をぶつけてきます。
家族「まだ病院は決まらないんですか?」
救急隊「今、連絡中ですもう少しお待ちください」
ごめんなさい…。急いで病院にお連れしなくちゃいけない患者さんなのは私たちが一番よく知っています。家族の心配する気持ちも急いでほしい気持ちも私たちを頼りにしてくれている気持ちも分かる。迅速な救護が必要な方が迅速な救護が受けられない町、それがこの町です。俺たちが悪いんじゃない!「こんなことするために救急隊員になったんじゃないのに…」この季節、疑問と不満が特につのります…。

 今回のお話は12月、師走に沸く町で酔っ払い同士のケンカに出場した時のお話です。普段、どんなに理不尽なことを言われても、どんなに悔しくても我慢我慢の私たち救急隊ですが、この時ばかりはちょっと声を高らかにしてしまった事案です。「救急出場、○町○丁目、アルコールを飲まれている方、ケンカにより顔面を受傷したもの、なお通報は警察官より扱い中」との指令に私たち救急隊は出場していきました。

 現着。現場はまさに歓楽街のど真ん中、周辺は飲食店、居酒屋、風俗などなどまさに夜の街です。千鳥足のおじさんたちがワイワイと野次馬になっていました。パトカーが3台赤色灯を回している。
救急機関員「あそこだ!あそこ、パトカーがずいぶんいるなぁ、隊長、酔っ払いばっかりだからパトカーのすぐ近くに停車しますよ」
救急隊長「そうしよう。傷病者はどこだ?それらしい人いないよな?」
こういった歓楽街に出動していく場合、思いもよらない事に巻き込まれる可能性があります。例えば救急車が止まっているのが気に入らないと救急車をガンガン蹴る酔っ払いとか、救急車にダイブしてくる酔っ払いとか、もちろん酔っ払いとはいえやっていいことと悪いことがある訳で、そんなことで救急車が壊れたり私たちの活動が妨げられれば、公務執行妨害、器物破損などなど警察官を要請して断固とした態度でのぞめばいいのですが、巻き込まれないのが一番いいのに決まっている。そのためにも警察官が一番集まっているパトカーのすぐそばに停車しました。
救急隊員「救急隊到着しました。顔をお怪我した方がいるとの要請ですが、おまわりさん患者さんはどちらですか?」
若い巡査「ああ、どうもお疲れ様です。20代の男性同士のケンカです。殴った方はもう警察署に連れて行きました。殴られた方もこのパトカーに収容しました、警察署で事情を聞くことになってますから救急隊は警察署まで一緒に来てください。」
救急隊員「は?」
あまりに寝ぼけたことをいうこの若い巡査に思わず救急隊員も絶句…。
若い巡査「警察署で事情聴取が終わってから病院に連れて行ってもらえますか」
救急隊員「そんなことできる訳ないでしょ!何言っているんですか!(怒)」
いきなり声高らかに救急隊員にこう言われた若い巡査は驚いた表情を浮かべていました。他の警察官から事情を聞いていた救急隊長が何事かとこちらを向いた。
救急隊員「隊長、傷病者はこちらのパトカーに収容済みだそうです。警察署まで並走して事情聴取が終わったら病院へ搬送してくれって言っていますけど」
救急隊長「そんなことできる訳ないだろ!(怒)」
隊長までも声高らかに怒っている。若い巡査が何でダメなの?なんて表情でキョトンとしている。
若い巡査「か・係長っ〜、救急隊いっしょには行けないって言っていますよ」
こちらにやってきた警察の係長さんが隊長と話し始めた。救急隊員がこの若い巡査に話しかける。
救急隊員「あのね、おまわりさん、救急隊は緊急の方を緊急に病院に搬送するためにあるんですよ。怪我している方がいて緊急だから救急車を要請したんでしょ?事情聴取の後に病院じゃ緊急じゃないじゃない。事情を聞くのが大切なのは分かりますよ、でもね、怪我の処置が先でしょ?」
若い巡査「それは分かりますよ、では救急隊に見ていただいて軽症のようなら…」
救急隊員「私たちは医師じゃありません。軽症か重症かの判断なんてできる訳ないでしょ、そもそもお怪我しているご本人は病院は事情聴取の後でいいって言っているんですか?」
若い巡査「いえ、それは聞いていません。」
救急隊員「ご本人が怪我の処置を受けたいって言うのなら私たちは病院に連れて行きますよ」
事情聴取が大切なのは分かりますけど怪我している人が処置を希望しているのにそれを無視したら人権問題です。このおまわりさん分かっているのかな?
若い巡査「分かりました、今ドア開けますから」
この若い巡査がパトカーの後部座席のドアを開けた。

 傷病者接触。パトカーの後部座席に乗っていたのは20代の男性、顔面が血だらけになっており泣いていました。(おいおい大人だろ泣くなよ…)まあどうみても軽症、かすり傷です。
救急隊員「こんばんは、救急隊です。お顔をお怪我されたんですね、おまわりさんが事情を聞きたいそうなんですが、治療はその後でいいですか?」
傷病者「う・うぅ…びょ、病院に行きたいです…。」
救急隊員「治療を受けたいんですね?病院に行きたいんですね?」
傷病者「うぅ、は・はい…うううぅ」
救急隊員「おまわりさん、ご本人は治療してほしいって言っていますよ、事情聴取は治療の後でいいですね、救急隊は病院に搬送しますからね」
若い巡査「え、ええ…」
困った表情を浮けばるこのおまわりさん。
救急隊長「それではそのように、では治療の後にそちらにということで」
警察の係長「はい、ではうちの者をひとり同乗させていただきますのでよろしくお願いします」
もうとっくに隊長と係長さんとの間で話がついていました。警察の方も係長辺りでこの若い巡査みたいな事をいう人はいません。警察官がひとり同乗して病院に搬送しました。

 病院到着。医師の診察の結果は「顔面打撲 軽症」でした。診察の後、パトカーが迎えに来てこの方は警察署に事情聴取のために向かいました。

 帰署途上。
救急隊員「さっきのあの若い警察官、あんまりナメてること言うからついつい怒ってしまいましたよ。でもよくあんなこと言いましたね」
救急隊長「ホントだよな、でもまだ新人さんでしょ?係長さんがすみませんでしたって言っていたよ、うちにも訳分からないのいるじゃない」
救急機関員「うちなんて係長でも訳分からないこというのいるじゃない」
救急隊員「そうですね、だったらお互い様ですけどね」

 警察と消防は同じ公安職、町を守る大切な仲間ですが、たまにはこんないざこざもあるんですね。救急隊は警察官の使いっぱいしりじゃないんだよ。お互い町を守る大切な仕事、お互いがお互いを尊重して協力しないとね。

 警察官と消防官がぶつかる時、めったにない事案ですけど、事件現場ではよく聞く話です。私は経験したことありませんがそんな話もまた今度に。

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