救急救命士のため息現場 case26
救急車がレッカーしてくれるの!?
先日ため息というより怒り心頭の救急現場に出かけました。怒りの矛先は警察官、同じ市民の安全のために働く公安職の公務員、仲良くやりたいと思っている私ですが、このおまわりさんとはとてもとても仲良くできそうにありません。怒りをぐっとこらえて心の中では「おい!お前のツラ絶対忘れねえからな」なんて思っていました。
「救急出場、○通り交差点、乗用車とトラックの交通事故、怪我人が1名ある模様」との指令に私たち救急隊は出場しました。
現場到着、現場にはすでに警察官が到着していて交通整理をしていました。事故車両の2tくらいのトラックと乗用車は通りの隅に移動してありました。乗用車を運転していた30代の女性が怪我をしていてシートベルトはしっかりしていたとの事でした。事故の際に頭をぶつけたということで頭からの出血がありました。頭部は血流がいいのでたいした怪我じゃなくても血だらけになって驚いてしまうというケースはよくあります。頭部からの出血は派手に見えがちなんですね。この女性も頭部からの出血で顔は血まみれ、着ていた薄手のシャツも血だらけになっており一見大きな怪我をしているように見えます。事故現場には割れたフロントガラスが散乱しており数十人の野次馬がいました。
傷病者接触。
救急隊長「お怪我したのはあなたですね?お話はできますか?」
傷病者の30代の女性はHさん、意識もはっきりとしている方でした。
Hさん「はい、分かります。頭を怪我したみたいで」
救急隊員「お怪我しているところをよく見せてくださいね」
Hさん「はい、怪我したのは頭だけみたいです」
救急隊長が傷病者からの聴取、これには意識の覚醒度をみたり事故の事を覚えているか、記憶が飛んでいないかなどいろいろな意味があります。救急隊員は出血部位の確認と止血処置などなどの応急処置を行います。
救急機関員「おまわりさん、事故の状況を教えてください。お怪我している方はこちらの方だけで間違いないですか?トラックの運転手さんは怪我していませんか?」
救急機関員は警察官からの情報収集や他にけが人がいないかなどの情報収集全般に当たりました。私たちの隊ではいちいち隊長が下命しなくても意識がはっきりしているHさんのような交通事故の場合はこのような任務分担で活動します。
救急隊員「側頭部に3センチほどの挫創がありますね、出血はもうほとんど止まっていますよ。ガーゼで創傷処置をさせてもらいますからね」
Hさん「はいお願いします」
Hさんの頭部の処置を行い私たちはストレッチャーに収容、救急車に向かいました。Hさんのそばでなにやらうろうろ落ち着かない様子の男性が。
救急隊員「あの…Hさんのお知り合いの方ですか?」
うろうろしていた男性「…あの夫です」
救急隊員「ご主人さんですか、あれ乗用車は奥さん一人で運転していたって聞きましたけど」
ご主人「妻から連絡を受けて駆けつけたんです。家がすぐそこなんですよ」
救急隊員「そうですか、それはよかった、一緒に病院に行ってくださいますよね?」
ご主人「はい!もちろんです」
ご主人はやはり30代くらいの男性でした。事故にあったとの奥さんからの電話を受け、駆けつけてみれば奥さんは血まみれで救急隊に処置されていたのでびっくりしてしまったみたいでした。心配で何をどうしたらいいのか分からなかったようです。
車内収容。Hさんは頭しか怪我をしていないと言いますがどんな怪我が隠れているか分かりません。全身観察を行い頭部に挫創があるだけと分かりました。私たち救急隊は脳外科のある病院の選定を始めました。同乗すると言ったご主人が何やら警察官と話をしていてなかなか救急車に乗り込みません。病院への連絡を機関員に任せて隊員は救急車の外へ、ご主人を呼びに行くことにしました。
救急隊員「ご主人、今、○病院に連絡しています。同乗していただけますよね?」
Hさんのご主人にこう声をかけた救急隊員にそばにいた警察官が怒りの形相で詰め寄ってきました。
警察官「なんで同乗しなくちゃいけないの!」
救急隊員「??…いえ、お怪我した方のご主人ですから同乗していただいた方がいいんですけど。」
警察官「だったら救急車がレッカーでもなんでもしてくれるって言うの!?」
意味が分かりません。明らかに怒りの形相のこの警察官、何を怒っているのか何を言っているのかさっぱり分かりません。
救急隊員「何の話ですか?私はご主人に同乗してくれるかどうか聞いただけですけど」
警察官「だからそんなの病院決まったらご主人に伝えて、後でゆっくり病院に来てもらえばそれでいいでしょ」
救急隊員「それってご主人さんがそう言っているんですか?同乗するかどうかは私たちが決めることでもおまわりさんが決めることでもないと思いますけど」
警察官「だったらあの車どうするの?駐車監視員の制度ができたの知っているでしょ?持っていかれたら私たち責任取れませんよ!そういうこと少しは考えてもの言ってよ!」
ああなるほどね、それで怒っているのね。このご主人、奥さんから事故にあったと連絡を受けて家を飛び出したそうなのです。家にもう1台ある車に飛び乗ってとにかく駆けつけたようなんですね。そのご主人が乗ってきた車が路上駐車してありました。
救急隊員「はぁ…そうですか。ただご主人はなんて言っているんですか?ご主人が同乗されると言うなら私たちは乗るなとは言えませんけど。」
警察官「それはそうなのかもしれないけどさ、じゃあ救急車がレッカーしてあの車も一緒に病院まで連れて行ってくれるっていうの!?」
救急隊員(おまわりさんそれ本気で言ってないよね?あんたバカ?)
もう口もききたくなくなったのでご主人に聞くことにしました。
救急隊員「ご主人、なんか車でこちらに来られたってお話なんですけど、どうされます?一緒に行かれますか?救急隊は病院決まってから出発するんで向かう病院はお知らせできますけど」
ご主人「行きます!一緒に行きます」
救急隊員「そうですか。お車は大丈夫ですか?」
ご主人「大丈夫です、後で知人が取りに来てくれるようにしますから」
救急隊員「そうですかそれでは行きましょう」
救急車のリアを開けてご主人に同乗してもらった。
救急隊員「隊長、ご主人同乗してくれますって」
救急隊長「了解、病院も○病院に決まったよ」
救急隊員「分かりました。ご主人気をつけてください、救急車の後ろのドア閉まりますよ」
ご主人に救急車に乗り込んでもらいリアのドアを閉めた。
救急隊員「ってことでおまわりさん、ご主人は同乗していただきますから。車は友人の方が取りに来ますって」
警察官「分かりました。救急隊さんもさなんでもかんでも同乗じゃないでしょ、これからは少しは配慮してください、ね、頼みますよ」
諭すように救急隊員にこのように言いました。私よりずっと年上であろうこの警察官、だからこんな感じで最後は声をかけたのでしょう。
救急隊員(あんたに諭される筋合いないよ、ねえ、おまわりさん、私たちは救急隊ですよ、いろんなことに配慮しなくちゃいけないのは分かりますけど、一番配慮すべきは患者さんです。事故にあって怪我をして不安な気持ちになっている患者さんの不安な気持ちをサポートするのも私たちの仕事なんですよ、ご主人が同乗してくれた方が患者さんにとっては心強いに決まっているでしょ?ねえ、おまわりさん立場は分かりますけど「責任取れない」とかね、あなたさっきから言っているの全部自分たちの都合じゃないですか、少しは患者さんのこと気遣ってものを言ってもらえませんか?私たちもあなたたちも住民のためにいるのは同じなんですよ)くぅぅ言いてえなぁ…。でも言うとまた面倒くさくなりそうだし止めとこう。病院も決まったし早く出発した方が患者さんのためだ。自分の都合じゃなくて患者の都合で仕事をしようじゃないか、誇り高い救急隊員として!…くぅぅ。言いたいことをぐっとぐっとこらえてこらえて現場出発しました。あの警察官、絶対ツラ忘れないからな!
病院到着。Hさんは頭部挫傷の軽症、たいした怪我ではありませんでした。Hさんからもご主人からも「本当に助かりました、ありがとうございました」と感謝の言葉をいただきました。
帰署途上。
救急隊長「あの警察官そんなこと言ったの!」
救急隊員「そうなんですよ!もう本当あったまきちゃいましたよ」
救急機関員「この前の酔っ払いの時なんて半ば強引に同乗させたくせにな」
救急隊員「本当ですよ、今度は熱烈に同乗させたくないってんですから勝手ですよね」
消防間も警察官も町の平和のために働いているもの同士、本当仲良くやりたいものなんですがね。
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