救急救命士のため息現場 case27
それで救急車、きりがないでしょ?
今回のため息のお話は現場で思わずため息、病院に連絡したら先生に怒られさらにため息…って思ったら、この先生が素晴らしい先生で本当助かっちゃったってお話です。よく分かりませんね…。交代前、かなり朝も早い時間の出場でした。「救急出場、50代女性は肩の痛み」との指令に私たち救急隊は出場しました。
出場途上。119番通報電話番号に連絡を入れた。
救急隊員「もしもしAさんのお宅ですね、そちらに向かっている救急隊です。」
Aさん「ああ、どうもご苦労さまです。よろしくお願いします。」
救急隊員「肩の痛みを訴えている患者さんがいるとの事ですが様子を教えていただけますか?」
Aさん「患者は私です。なんか肩が重いっていうか…、痛くはないんですけどなんか上がらないんです。」
救急隊員「上がらない?肩を上げることができないから救急車を呼ばれたんですか?痛くはないですか?」
Aさん「…そうですねぇ、痛くはないです。手を上げられないから困っちゃって」
救急隊員「…そうですか分かりました、今急いでそちらに向かっていますからもう少しお待ちください。(あんたそりゃ五十肩ってんだよ!)」
Aさん「はい。あの、サイレン停めてきてもらえますか?」
救急隊員「救急車は緊急車両ですからそれはできませんよ、もう少しで到着できますからね」
Aさん「はい、家の前に出て待っています」
はぁぁ…。この内容を隊長と機関員にも伝える。
救急機関員「んなもんオレだって上がらねえよ!五十肩じゃねえか!」
現場到着。Aさんは家の前で待っており救急車を見ると小さく手を振りました。そうだね、肩が上がらないものね…。Aさんは自力歩行で救急車内へ。
車内収容。Aさんは50代の女性で主訴は肩が上がらないこと。痛みはないとのことでした。
救急隊員「それでは今一番辛いことは痛いとかそういうことじゃなくて肩が上がらないってことですね」
Aさん「そうなんです、これじゃ仕事もやりずらくって仕方がないんで」
救急隊長「Aさん、肩が上がらなくなっちゃったのはいつからですか?」
Aさん「昨日のお昼くらいからなんか肩がおかしくて様子をみていたんですね、でも夕方からもう上がらなくなっちゃって、昨日はとりあえず仕事を終えて病院に行こうと思ったんですけどもう夜だったんで病院も閉まっちゃってたんで帰って寝たんです。でも今朝になってもやっぱり肩が上がらないからこれじゃ仕事にならないなって思って病院に行こうって思ったんです」
救急隊長「…そうですか(自分で普通に外来にかかればいいじゃない…)」
救急隊員「隊長、整形外科で探しますよ」
救急隊長「うん、まかせた」
救急隊員が一番近い整形外科での診察可能な病院に電話をかけました。
病院連絡。
救急隊員「先生…という患者さんなんですが、診察していただけますでしょうか?」
医師「肩がなんだっていうの?痛いの?」
救急隊員「いいえ、患者さんは痛みは訴えておりません。主訴としましては…上がらなくて困るとのことなのですが」
医師「痛くて我慢できないからってんじゃないの?ただ上がらないだけ?」
救急隊員「そうです」
医師「あのさ、救急隊さんさ、今出場件数がうなぎ登りで困っているんでしょ?」
救急隊員「はい、そうです…」
医師「こんな風に痛くもなんともない人をいちいち救急車で運んでいたらきりがないじゃない、こんなことしていたら本当に必要な人が使えなくなっちゃうでしょ」
救急隊員「はい、おっしゃる通りです(先生!お言葉ですけど、そんなことは先生に言われなくたって私たちが一番嫌ってほど知っていますよ!)」
私たちだって緊急性のある救急車で運ぶべき患者さんのために働きたい。連絡先の医師にまでこんなことを言われ、それでも相手は診察してもらわなくちゃいけないお医者さん、ムっとしても我慢我慢です。いつもならここまでで泣く泣く医師に「先生、そこをなんとか診てください!」ってお願いするところなのですが、この先生、こんなことを言い出しました。
医師「ねえ、救急隊さん、ちょっとその患者さんに代わりなさいよ。私が話ししてあげるから」
救急隊員「え、先生がですか?」
医師「うん。患者さんを出してよ」
救急隊員「はい。少しお待ちください。」「Aさん先生が何かお話したいことがあるそうなんですけど」
電話をAさんに代わった。
Aさん「はい… はい… はい… その方がよろしいですか? はい… 先生がそう言うならそうします それじゃタクシーでそちらに伺えばいいんですか? はい… 分かりました」
タクシーでそちらに伺う?ちょっと〜先生〜、それってとってもいいんじゃない〜!
Aさん「あの、先生がタクシーで来いと言うので救急車はけっこうです、すみませんでした」
そう言ってAさんは救急隊員に電話を渡した。
救急隊員「先生、Aさんはタクシーでそちらに向かわれるんですか?」
医師「うん。今そうするように話した。肩が上がらないだけならタクシーで来ればいいでしょ。そんなことで救急車使っていたらきりがないよ。Aさんにはタクシーで来たら私がちゃんと診るって話したから救急隊はAさんを降ろして帰りなさい。」
救急隊員「分かりました。先生お世話になりました、ありがとうございました。」
医師「はいはい」
ああなんて素晴らしい先生なのでしょうか!私たちが救急車で搬送すべきかそうでないかを判断することはできません。要請者本人が救急車じゃないといけないと判断したから救急車なのです。しかし、医師が救急車じゃなくてよし、タクシーで来なさいと言っている、で患者さんもそれに納得している。私たちはもう出る幕がありません。Aさんは救急車を降りてタクシーでこの先生の下へと向かうこととなりました。
帰署途上。
救急隊長「いやぁ〜助かっちゃったね〜、これからあの病院に連絡して先生にご指導お願いしようかね?」
救急隊員「本当ですね、あんな風に救急に理解の深い先生ばかりだと助かるんですけどね」
救急機関員「肩が上がらなくて救急車なんてふざけてるよな!オレなんて肩上がらなくても救急車運転してるんだっての!」
うちの機関員、シップだのゲルマニウムのネックレスだのをいろいろ試しています。
救急隊員「あのおばちゃんにゲルマニウムのネックレスでも教えてあげればよかったですね」
救急機関員「あ〜だめだめ!全然効かないから」
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