救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119~すべては救命のために~
救急救命士のため息報告 case32

パラメディック119ため息現場とっとと他の病院に連れて行け! up data 2007.6.16

とっとと他の病院に連れて行け!

 救急隊の仕事は緊急の傷病者を病院に搬送し医師に引き継いで完結します。救急隊の仕事は病院に搬送することです。それが原則ですが、例外的活動に転院搬送と呼ばれるものがあります。救急病院に駆け込んで来た患者さんがその病院の科目外や重傷度が高すぎて対応できない、もっと大きな高度な処置のできる病院に搬送してほしいなど、医師が判断し救急隊を要請するものです。この時、私の勤務していた救急隊は3次まで持つ大きな病院を管内に抱えており、その病院からの転院搬送で出動する機会はかなりのものでした。

 転院搬送においても出動は出動、サイレンを鳴らして赤色回転灯を回して緊急走行して病院に向かいます。それでもいつもの緊急出場とは少し気持ちに余裕があります。なんと言っても待っているのはすでに医師の管理下にある患者さんです。そこには救急隊よりずっと上位の医療従事者が多数いて、救急車よりずっと整った設備があるのです。判断に迫られることも少ない、医師が診察し判断し転院となる患者さんを扱う訳です。転院搬送の指令がかかれば正直、いつもより緊迫することない出動になる訳です。ところがこの日は…

出動指令「救急出場~…○町○番○号(病院の住所)…」
救急隊員「おっとA病院ですね、転院搬送だ」
出動指令「A病院の公衆電話からの通報、男性は腹痛…、なお出動救急隊は指令台の前でお待ちください。付加する指令があります。」
救急隊長「A病院の公衆電話からの救急要請?転院搬送じゃない?」
救急機関員「付加指令ありですって…いわく付の現場ですね…」
ビリビリビリビリ~!(指令台が鳴る)
救急隊員「はい、出動する救急隊員です」
司令室「お疲れ様です。ただ今の指令の付加情報です。本件はA病院正面玄関の公衆電話からの通報となります。Hと名乗る男性は腹部の痛みを訴えています。こちらからもA病院にかかるよう伝えたのですが待ち時間が長いから救急車を呼んだとかなり強い口調でとにかく来るよう訴えています。大分言動が荒いので活動には充分に注意してください」
救急隊員「(なんだって~冗談じゃないよ!)ちょっと待ってください、A病院にかかろうとすでに病院にいる方なんですよね?救急隊はその方をどうすればいいんですか?他の病院に搬送するってことですか?」
司令室「申し訳ありません、ともかく現場に行ってもらって対応してください」
救急隊員「…了解しました、出動します」
転院搬送だと思ったら大間違い、トラブルの臭いのぷんぷんするいわくの現場です。

 救急出動。
司令室との内容を隊長、機関員に伝える。
救急機関員「ったく冗談じゃないよ、そんなの救急隊の業務じゃないじゃないよ」
救急隊員「…気をつけて活動しよう、わざわざトラブルの中に行くような現場だぞ」
救急隊員「…了解」

 現場到着
救急病院の正面玄関に救急車が緊急走行してやってきたものだから何事かと警備員さんたちがやってきました。
警備員「どうしたんですか?救急の入り口は建物の裏ですよ」
救急隊長「いえ、病院の正面にある公衆電話からの要請なんですよ」
警備員「ええ!」
女性「こっちです、お願いします」
中年の女性から声がかかった、手を振って案内をしています。
救急隊員「はい!分かりました、今そちらに行きます」
警備員「分かりました…」
警備員さんが病院の中へ走っていった。

 傷病者接触
傷病者は40代の男性Hさん、病院前のベンチに横になっていました。案内をしてくれた中年の女性はHさんの奥さんでした。
奥さん「本当に申し訳ありません。私がトイレに行っている間に主人が119番したって言うから…本当に申し訳ありません」
救急隊長「患者さんはご主人様ですか?」
奥さん「そうなんですけど…」
Hさん「どこか他の病院に連れてってくれよ」
奥さん「何言っているのよ!ここが病院じゃない!」
Hさん「うるせえな!オレは腹が痛てえんだよ!とても待ってられないんだよ!はじめから救急車で来ればこんなに待たされることなんてなかったんだ!お前が救急車を呼ばないからこんなに待たされてるんじゃねえか!」
奥さん「もう大きな声出さないでよ、あなたの言っていることは無茶苦茶よ!本当に申し訳ありません」
私たちにひたすらペコペコ謝る奥さん、Hさんは強い剣幕で他の病院に連れて行けと訴え奥さんに罵声を浴びせています。
救急隊員(それだけ大騒ぎできるくらい元気じゃないか…)
救急隊長「それではこちらの病院で一度は受け付けはされているってことですか?」
奥さん「そうです」
Hさん「だから待ってられねえんだよ!とにかく腹が痛いんだよ!とっとと他の病院に連れてってくれよ!」
救急隊長「Hさんね、救急車は緊急の方を病院へ搬送するためにあるんです、ここはこの辺りでも一番大きな救急病院なんですよ」
Hさん「だから待ってられないって言っているだろ!腹が痛いんだよ!」
救急隊員(話にならない…)
警備員さんに連れられてこの騒ぎを聞きつけた医師と看護師がやってきました。救急隊長、医師、看護師がHさんから話を聞いています。救急隊員と救急機関員はそれをやや遠巻きに見守ることとしました。少し落ち着いたHさんと医師が話しをすること3,4分、結局このA病院で診ることとなり看護師が持ってきたストレッチャーにHさんは移されました。
Hさん「ほらみろ!救急車を呼べばすぐに診てもらえることになるじゃないか!最初から救急車を呼べば済んだんだよ!」
奥さん「…」
Hさんは看護師さんが引くストレッチャー上でも奥さんをののしり病院の中に消えていきました。
医師「悪かったね、うちで診るから…」
救急隊長「いえ、先生よろしくお願いします」
医師「はい…」
「不搬送 本人辞退?」

 帰署途上
本部に報告して帰ることとしました。
司令室「そうですか、了解しました、お疲れ様でした」
救急隊長「…ったく、通報を受けた段階で断らなくちゃいけない事案だよ」
救急機関員「ホント…これじゃ救急車が足りなくなっちゃうはずだよ」
救急隊員「それにしてもわがまま放題でしたねあの人」
救急隊長「みっともないよな、大人のすることじゃないよ」
救急機関員「これであの人思うんじゃないの、救急車を呼ばないと損だって」
救急隊員「救急車なら待たないで診てもらえるって思ったでしょうからね」
本当は何の解決にも繋がらないのですが、病院だって正面玄関であんな騒ぎを起こされたらたまらない、だからとりあえず処置室に入れたのでしょう。わがまま放題やりたい放題…。そんなことを許しちゃいけないのですが、やったもん勝ち。まじめに順番を守って診察してもらっている患者さんたちは?モラルは?ルールは?守っている人が損をしている…。何かが奥歯につかえているような気持ちの悪い胸くそ悪い気持ちになって消防署に帰りました。許せないなあの人…。

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