救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119~すべては救命のために~
救急救命士のため息現場報告 case34

パラメディック119ため息現場死ぬって言って電話を切って up data 2007.7.13

死ぬって言って電話を切って

 もう少しで日付けが変わろうとしていた時間です。事務処理もやっと片付き仮眠しようかと思っていたところに出場要請が入りました。ああ、今日も今日のうちに休むことはできなかったか…。
「救急隊及び消防隊出場、○町○丁目…  少しお待ちください…  え~…  急病人…  …詳細不明なるも怪我人がいる模様   …救急隊には付加する情報があります。指令台の前でお待ちください」
何だこの指令、また何やらいわく付の内容である雰囲気が漂ってます。指令台が鳴った。
司令室「ただ今の救急出場の付加情報です」
救急隊員「はい、出場する救急隊員です」
指令室「本件は○町にいる男性からの通報(出場指令先から10キロ以上ある町)です、詳細は分からないのですが、指令先住所に住む女性が大変だから救急車を向かわせてくれとのことです」
救急隊員「よく分かりません?どういうことなのでしょうか?」
司令室「詳細は不明です、消防隊と活動しこちらにも常時情報を一報してください、活動には充分気をつけてください」
救急隊員「…?了解しました、出場します」
車庫では出場準備のできている消防隊長、救急隊長が待ち構えています。
救急隊長「なんだって?」
救急隊員「何だかよく分からないから気を付けろって」
消防隊長「何だそりゃ…」

 出場途上
出場指令先の電話番号に電話をかけてみるも応答なし。119番通報したと言う男性の電話番号にかけてみるも応答なし。大変な女性がいるから気をつけて活動しろとの情報のみで現場に向かうこととなりました。

 現場到着
現場はマンションの一室です。
救急隊長「あった、ここだ○号室Sさん方」
ピンポー~ン!ピンポーン!
救急隊長「こんばんは、Sさん、救急隊です、失礼しますよ」
ドアを開けようとするも鍵がかかっている。
ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!ドンドンドン!ドアを叩く
救急隊長「Sさ~ん!ここを開けてください、救急隊です!大丈夫ですか?Sさ~ん」
ドアは開かない。
救急隊長「どうしようか?消防隊長どうする?」
消防隊長「どうしましょうか?中に人がいてドアを開けられないほどの状況って言うならドアを壊すけど…分からないよね?情報がなさすぎる」
救急隊員「ともかく一度本部に状況入れましょうか?」
救急隊長「そうだな、本部に連絡入れて」
消防隊長「消防隊は一応破壊器具の準備と他にこの部屋への進入方法がないか調べよう」
各隊長の下命の下、消防隊、救急隊がそれぞれ活動を始めました。救急隊長と消防隊長はドアの前で再び呼びかける。
救急隊長「もしも~し!Sさん、開けてください」
救急隊員「○町の現場から救急隊です、現在、ドア施錠中、呼びかけるも応答ありません、救急隊はまだドア越に呼びかけています。消防隊は破壊器具の準備中です」
本部「了解、破壊は少し待ってください。本件はですね…、通報者の男性はそちらにいる女性の恋人だそうで、なんでも電話で話している最中にケンカになったそうです。それで彼女は「死ぬ」と言って電話を切り、それからまったく電話が繋がらないとのことで、だから救急隊を向かわせてくれと言うものです、通報者の男性も今そちらに向かっているとのことです」
救急隊員「それって…ではその彼女が電話に出ないだけで自殺を図っているなんて事実自体がない可能性がありますよね?」
本部「充分ありますね…」
救急隊員「ドアの破壊は…しない方が良いですね?」
本部「…そうですね。ただ…必要であれば」
救急隊長「いくらドアを叩いてもまったく応答がありません。その内容では出かけてしまった可能性だってありますよね、破壊すべきかどうかの判断は難しいですよ」
本部「そうですね、…現場で判断してもらって…」
救急隊員「その通報者の彼はここに到着するまでまだ相当かかりますよね」
本部「ええ、○町からの通報ですからまだかかるはずです」
救急隊員「…そうですね、了解、また後ほど状況を一報します」
司令室「了解しました」
ちぇ、結局現場に投げるのか…、でも現場にいない人に判断できる訳もないよな。内容を両隊長に報告した。
救急隊長「そんなんだろうと思ったんだよな」
消防隊長「そもそもここに居るのかね?その彼女、とてもじゃないけどそれじゃドアを壊すって訳にはいかないよな?」
救急隊長「Sさん、Sさん!もしも~し開けてください、救急隊です。このドア壊しますよ、開けられるなら開けてください!」
応答なし。本当に困りました。隊長たちも困っていました。右に行っても左に行ってもトラブルが見え隠れしています。

予測できる事態
1.指令を受けた以上、人命救助が最優先なのだから迅速にドアを破壊し内部を確認する、内部に本当に自殺を図りドアを開けられない状況にある傷病者がいたのなら正しい判断、そんな事実がなかったら→「何で壊したんだ、私は壊してくれなんて頼んでいない、消防署の責任だ」

2.情報も内容も不十分なので破壊に至るまでは慎重に行動する。この事案の場合、通報者の彼氏が到着して同意、立会いの下でドアを破壊するのがベターな活動だと思います。自殺を図った事実がなかった場合、通報者の同意、立会いの下で行ったので消防署の責任だなどと言われる可能性は低い。本当に自殺を図った事実があり、内部に傷病者がいた場合→「だから早く通報したんじゃないか、救出と病院への搬送に時間がかかったのは消防署の責任だ」

 どちらの展開も見えてきます。どうする?どうする??現場到着からもう10分近く経ちました。
救急隊長「仕方ないね、壊そう、管理人さんか誰か立ち会ってくれる人探してさ」
消防隊長「そうですね、破壊器具の準備と管理人さんか誰か探してきてくれ」
消防隊員「了解しました」
隊長たちは最悪の事態を想定して決断しました。
救急隊長「Sさ~ん、これからドアを壊して中に入ります、もし開けることができるのなら開けてください!これからこのドアを壊します」
ガタガタ、中で物音がしました。やっぱりね…。ドアを壊されるのは嫌ですものね。ガチャ…、ドアが開いた。

 傷病者接触
救急隊長「こんばんは、Sさんですね」
Sさんは20代の女性、寝巻き姿で顔はぐしゃぐしゃ、泣いていました。
Sさん「はい…」
救急隊長「怪我も病気もしていない?大丈夫ですか?」
Sさん「はい…」
救急隊長「そう…それじゃあ私たちは必要ないですか?病院に行かなくて大丈夫ですか?」
Sさん「はい、ひっくひっく…」
救急隊長「そう、分かりました、それでは私たちはこれで引き揚げますから」
Sさん「はい、すみませんでした」
救急隊長「いいえ、お大事に」
何をお大事に?傷病者がいる事実なく現場引き揚げとなりました。救急車、消防車、各車両に戻ります。
消防隊員「はぁぁ…お疲れ様でした」
救急隊員「はぁぁ…お疲れ様でした」
現場の状況、傷病者がいた事実なく引き揚げる旨を本部に連絡しました。

 帰署してからの消防署
 後輩のまだ若い消防隊員がこんなことを言い出しました。
消防隊員「お疲れ様でした、本当大変でしたね、まったく…」
救急隊員「本当、夫婦喧嘩は犬も食わないって言うけど、オレたちは思いっきり関わらされちゃったね…」
消防隊員「ああいう女性ってやっぱりいるんですよね、オレも昔、あんな感じのと付き合ってて大変な目にあったことがあるんですよ」
救急隊員「死ぬって?」
消防隊員「そう、ちょっとケンカすればすぐそれ!別れ話なんてしたらまさに今日のパターンですよ、「死ぬ」って言って電話に出なくなって俺だけじゃなくって友達とかも巻き込んで…もう本当大変だったんですよ」
救急隊員「ふふ…そりゃ大変だったね、色男は大変だね」
消防隊員「本当、今だから言えますけど俺が死にたくなっちゃいましたよ、でも救急車呼ぼうなんて全く思わなかったですよ。あんなことしても嫌われるだけで何にも良いことないのに分からないもんですかね…」

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