救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119~すべては救命のために~
救急救命士のため息現場報告 case35

パラメディック119ため息現場その辺にいるはずなんだけど up data 2007.8.11

その辺にいるはずなんだけど

 どの町に勤務しても同じことですが、いつでも私たち救急隊を悩ませる酔っ払い。歓楽街を持つ救急隊はその頻度がなおさらです。今回もまた酔っ払いにまつわるお話です。今は本当に嫌気が差すほどの蒸し暑さですが、この時は真冬でした。季節外れのお話です。

 「救急隊出場、○丁路上、20代の男性は倒れているもの」との指令に私たち救急隊は出場しました。指令先は私たちが管内に抱える歓楽街、朝になるまで飲食店がお酒を振舞い続ける眠らない街です。

 出場途上で通報電話番号であった携帯電話に電話をするも通報者は出ない、情報は取れませんでした。
救急隊長「○丁か…この時間じゃ酔っ払いばっかりだなぁ」
救急機関員「20代の男性が倒れているって…酔っ払いの可能性高いですよね」
救急隊員「そうでしょうね」
こういった会話をしていても、それでも酔っ払いと決め付けてはいけません。救急の現場は行ってみないと本当に分かりません。119番通報してくれる方が冷静沈着に現場のありのままを的確に通報してくれるなんてことの方がマレだからです。若い方が歓楽街で倒れていればお酒が入っていて酔っている可能性が非常に高い。でもひょっとしたらナイフで刺されて倒れているのかもしれない。ひょっとして心臓の持病を持っている方で倒れているのかもしれない。あらゆる可能性に備え活動するのがプロの救急隊の仕事です!って思ってはいるけど…でも多分…酔っ払いなんだろうなぁ。

 現場到着
指令番地の前に停車するもそれらしき人はいない。
救急機関員「○丁…○番…○号の前だなぁ、いないよそれらしき人」
救急隊長「だよなぁ…とりあえず停車しよう」
停車して救急機関員は再度地図と番地を確認、救急隊長と救急機関員は現場を確認しました。いない、やっぱり指令番地にそれらしき人はいない。
救急隊長「もう一度救急車でこの番地を一回りしてみよう、隊員は本部に現場の状況と付加する情報がないか連絡を入れて」
救急隊員「了解」
救急車は再び動き出し現場周辺を一回り。やっぱりいない。本部に状況を入れるも、119番通報が再度あった事実や指令番地が間違っているなどのこともありませんでした。
本部「状況は分かりました。救急隊はもう少し現場を検索して傷病者がいないようでしたら引き揚げてください」
救急隊「了解しました」
誤報か?いたずらか?もし酩酊者だったのならこの寒さです、目を覚まして帰ったのかもしれない。救急車を停車して救急隊3人でもう一度周辺を探してみることにしました。
救急隊員「隊長、もう一度指令電話番号に電話してみますね」
救急隊長「そうだね、そうしてみようか」
懐中電灯を片手に歓楽街をウロウロする救急隊3人、救急隊員は携帯電話を片手に通報先電話番号に再び電話をしました。
通報者「はい」
あ!出た!通報者が電話に出た!
救急隊員「夜分に申し訳ありません、私、○救急隊の者なのですが、119番通報されてますよね?」
通報者「ええ、しましたよ」
救急隊員「お待たせして申し訳ありません。今、通報先の○丁に来ているのですが患者さんがどこにいるのか分からないのです、今どちらにいらっしゃいますか?」
通報者「おかしいなぁ、その辺にいるはずなんだけど。え~っと、ほらそこにKって飲み屋あるでしょ?その目の前にいるはずです」
救急隊員「Kと言う飲み屋…あ!あります!居酒屋ですね、そちらの前にいるんですか?」
通報者「はい、そこにいるはずなんですよ」
救急隊員(いるはず??)「…ちょっと見当たらないんですよ、救急隊もすぐ目の前に停車しています、分からないはずはないのですが、恐れ入りますけどあなたが案内に出ていただけませんか?」
通報者「それは無理です、オレ今J駅にいますから」
救急隊員「え!あなたは患者さんとご一緒ではないのですか?」
通報者「ええ」
救急隊員「ちょっとお待ちください、隊長、あのKって店の前にいるって」
救急隊長、救急機関員、そして携帯片手に救急隊員がそれに続く。
救急隊員「ちょっとお話がよく分からないのですが、どのようにして救急車を要請することになったか教えていただけますか?」
通報者「ええ、○町でさっきまで飲んでたんですけど、友達が飲みつぶれちゃってそのKって店の前の植え込みで寝ちゃって、ほっとこうと思ったんですけどこの寒さだしやっぱり救急車呼んでおいた方がいいかなぁって思って…」
救急隊長「いた!いたいた!」
あ!ホントだ!いた!…これは見つからない。傷病者の男性はこの寒さの中、小さくうずくまり歩道の植え込みの中にスッポリと納まって寝ていました。
救急隊員「いました、分かりました」
通報者「そうですか、よかった!じゃあお願いします」
救急隊員「ちょ、ちょっと待ってください!見たところお友達は大分お飲みになっているみたいですね。お名前などご本人から聞くのは難しそうですからこのまま教えてもらえますか」
通報者「そうですか、分かりました」
…電話越し、通報者の彼からいろいろ事情を聞きました。救急隊長と救急機関員がメインストレッチャーにこの彼を収容しました。

 車内収容
救急隊長「で、なんだって」
…隊長、あまりのバカバカしさに怒っています。彼のお話を要約すると…。通報者と傷病者の彼は20もそこそこの大学生、この深夜まで散々飲み明かし、もう終電だ言う時間に店を出ると傷病者の彼は植え込みの中に倒れこみそのまま寝てしまったとのこと。友人数人とどうにか起こして帰るように声をかけたが起きる気配もなかったので、帰れなくなってしまうと自分もみんなも帰ることにしたそうです。帰り道、この町から遠く離れた駅でふと、「あのままにしておいたらやっぱりヤバイかなぁ」と思ったから救急車を呼ぶことにしたとのこと。
救急隊員「…と言うことだそうですよ」
「じゃあお願いします」じゃねえだろう。学生とは言え君は大人だろ?一緒に飲んでつぶれた仲間を街に捨てて、救急車におまかせってそんなの社会じゃ通用しないんだよ!って言いたくってもここにいるのは完全につぶれた傷病者だけ…。これが通用する世の中なんだから何かが違う気がしてしまう…。
救急隊長「はぁぁ…、診てくれるところ探そうか」
傷病者は20代の男性でGさん、大学生、相当のアルコール臭がありましたが外傷などはなし。とは言えこの真冬の時期、歓楽街で人の往来も激しい街ですが、さすがに植え込みの中で倒れていたら凍死するまで誰も見つけてくれなくれもおかしくありません。私たちが見つけられずに引き揚げていたなら、あるいは最悪の事態になっていたのかもしれない。
看護師「そんなに酔っ払っているのならどなたか付き添いの方がいないとうちでは診れませんね、ごめんなさいね」
…やっぱり病院はなかなか決まらない。(涙)救急隊って本当かわいそう…。どうにか決まった病院に搬送して、この活動は終了しました。2時間ほどかかってしまいました。「酩酊 軽症」

 帰署途上
救急機関員「…ひどい事案でしたね」
救急隊長「酒を飲める大人だけどやっていることは子ども以下だよな」
救急隊員「本当ですよ!大学生だし一喝したいところですけど119番する前に現場にいないって言うんだから恐れ入っちゃいますよね…」
救急機関員「現場立ち去りはよくあるけど、立ち去ってから119だもんな」
救急隊長「バカにしているよな、世の中を」
救急隊員「でも見つかったからいいですけど、あのまま見つけられずに救急隊が帰っていたらどうなったんでしょうね?」
救急機関員「そんなの決まっているじゃない?オレたちのせいだよ」
救急隊長「そうそう」
救急隊員「そんなのひどくありませんか?一緒に飲んだ人にも責任はあると思うんですけどね」
救急隊長「通報した彼からしてみれば、何かあったときのための保険みたいなもんなんだろ救急車が…見つけられないで何かあったら救急車が悪いって言うよきっと」
救急機関員「うちらの上司も現場をよく探さなかったお前たちが悪いって言うよきっと」
救急隊員「…そうでしょうね、きっと」
救急隊って本当にかわいそう…。

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パラメディック119ため息現場死ぬって言って電話を切って