救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119-すべては救命のために-
救急救命士のため息現場報告 case39

パラメディック119ため息現場とりあえず一服させてくんない? up data 2008.6.25

とりあえず一服させてくんない?

 生涯に1度使うか使わないかの救急車、そんな救急車におけるルールなんて一般のみなさんが知らないのは当たり前のことです。ただ、いくら救急車がみなさんの共有財産とはいえ郷に入らずんれば郷に従えです。従ってもらわなければならないルールがあります。

 かつては帰署途上に喫煙することもあったという救急車ですが、現在、私の勤務する消防署では救急車内は禁煙です。救急車には酸素ボンベが積載されており、車内での喫煙は危険である等の理由もありますが、健康増進法成立など喫煙者が適切に節度を持った喫煙が推進されているこのご時世、具合の悪い方が乗る救急車での喫煙が好ましいことでないのは明らかです。

 「救急出場、乗用車同士の交通事故、怪我人が1名いる模様、なお警察官扱い中」との指令に私たち救急隊は出場しました。
救急隊長「警察官からの通報か…、また事故発生からずいぶんと経っているんじゃないのかね?」
救急機関員「どうでしょうね?」
警察官からの救急要請が事故から1時間も経ってから行われる事が多いのはあなたの家族でも同じようにする?でもお話させて頂いたとおりです。

 現場到着
パトカーが停車しており、交通事故処理に当たるのであろう警察官が作業に当たっていました。事故を起こしたのであろう乗用車も停車してありますが、大破しているような様子はありませんでした。
救急隊長「救急隊です、到着しました、患者さんはどちらですか?」
警察官「お疲れ様です。怪我人はこちらです」
警察官と歩道で立って話をしていた男性が傷病者でした。この男性は20代前半のJさん、派手な服装、金髪、簡単に言うとチャラい感じの若者でした。立って警察官の事情聴取を受けていたくらいですからもちろん自力歩行可能、救急隊員の案内で救急車内に乗り込みました。救急隊長が警察官からの申し送りを受け、救急隊員は救急車内で怪我の部位や処置、バイタル測定などに当たることとなりました。

 車内収容
救急隊員「そうですか、それじゃあJさんはこの交差点で後ろから追突されたってことですね?」
Jさん「そうなんスよね~、まったくツイてないよ」
救急隊員「首が痛いと言う訳ではないんですね?」
Jさん「痛くはないんだけど、なんか重いっていうか、ダルいっつうか…」
救急隊員「それではちょっと窮屈かもしれないけど固定させてくださいね」
Jさんが訴えるのは頸部の違和感、ネックカラーで固定して処置は終わり。他に怪我もないしバイタルにも特に問題はありませんでした。警察官から話を聞いてきた救急隊長が救急車内に戻ってきました。観察結果を報告する。
救急隊長「Jさん、救急隊で近くの病院から選定しますから、それで大丈夫ですね?」
Jさん「ええ、それでいいっスよ、オレ全然大丈夫なんスけどね、なんか警察が病院に行けとか言うからマジで大丈夫だって言ってんのにさ」
なんともこのJさん、この軽い感じです…。救急機関員が運転席から病院への搬送連絡を始めました。救急車に乗り込んでから数分、Jさんがこんなことを言いはじめました。
Jさん「あのさ、火貸してくんない?」
救急隊員「は?ひ?」
Jさん「火だよ、ライター、タバコ吸いたいんだけど、とりあえず一服させてくんない?」
救急隊員「あのね、Jさん、救急車は具合の悪い人の乗る車ですから禁煙なんですよ」
Jさん「外で吸うからさ」
救急隊長「Jさん、あなた事故に遭って病院に行かなくちゃならないんだよ、救急車降りてタバコ吸っている場合じゃないでしょ」
Jさん「だから全然大丈夫だって、もう1時間も吸ってないからマジで辛いんだって」
そう言うとJさんは救急車のリアドアを開けようとしました。
救急隊員「あああ!待って待って!!そこを開けないで!」
救急車のリアドアは中から開けると後ろに人がいたりした場合、たいへん危険です。さらにここは公道、そんなことされたらたまりません。
救急隊長「分かったから、ちょっと待って!今、後ろを開けるから」
仕方がないので救急車のリアドアを開けた。ぴょんと救急車から降りたJさん、警察官に声を掛けてライターを借りたのか?路上で一服を始めました。さらにこんな事を言い出しました。
Jさん「これもいいや、大丈夫だから」
そう言うとネックカラーをはずし始める。
救急隊員「あああ!待って待って!そんな風にしたら壊れちゃうから、Jさん、事故に遭ったんだからそれは一応つけておいた方がいいって!」
Jさん「だから大丈夫だって!なんか苦しいから嫌なんだよ」
もうとても話になる感じではなかったのでネックカラーもはずすハメになりました。なんてバカバカしいのでしょうか…。
救急機関員「○病院受入れOKだって」
救急隊長「了解、それじゃあ出発しよう」
警察官「○病院ですね、了解しました」
救急隊員「Jさん、○病院に行きますよ」
Jさん「分かった、ちょっと待って、この一服終わったら行くから」
救急隊員(お前いい加減にしろよ!)「…」
警察官「Jさん、治療が終わったら警察署に連絡してね、さっき話した通りだから」
Jさん「はいはい、さっきの電話番号にかければいいでしょ」
Jさんは吸い終わったタバコを路上に捨てて踏み消しました。
救急隊員(おまわりさん、路上にポイ捨てですよ、現行犯で逮捕してください…)
Jさんを救急車に乗せてリアドアを閉めた。や~れやれやれやれ…と。
救急隊員「それでは○病院に行きますから」
警察官「はい、よろしくお願いします」
警察官も口には出しませんが、お互い大変だね、そんな感じでした。

 病院到着
「頸部打撲 軽症」

 帰署途上
救急機関員「救急車内で一服させろって?ナメてるよな?」
救急隊長「案の定、事故が起きてからずいぶん経ってからの救急要請だったみたいだな、でもだからって一服はないよな」
救急隊員「そんなに我慢できないもんですかね?」
救急機関員「あのお兄ちゃんは知らないんだって我慢なんてこと」
救急隊長「愛煙家としては気持ちは分からないでもないんだけどね、今の病院も敷地内全面禁煙だってさ」
救急隊員「それじゃ署に戻るまで我慢ですね」
救急機関員「隊長もやめればいいんだよ、タバコなんて何にも良いことないんだから」
救急隊長「分かっちゃいるけどやめられないんだって」
救急機関員「それじゃあ帰ろう、隊長も一服しなくちゃいけないし」
救急隊員「そうですね、でもまた周りの救急隊いないみたいだし、署まで辿り着けなかったりしてね」
救急隊長「そんな事言うなよ、帰って少し休憩しよう」
消防署に戻る道中、やっぱり鳴り響いた救急車の無線機…。
救急隊3人「はぁぁ…」
本部「○町で救急入電です、受信体制を取ってください」
救急隊長「了解しました、今停車しますから少しお待ち下さい」
救急機関員「お前が変なこと言うからだぞ」
救急隊員「オレのせいじゃないですよ!」
ここ最近の禁煙志向で喫煙できる病院はめっきりと減りました。おかげで愛煙家の救急隊員たちは我慢を強いられ喫煙本数もめっきり減ってきたようです。
救急隊長「仕方がないね、救急隊は我慢の仕事だから」

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