救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119-すべては救命のために-
救急救命士のため息現場報告 case40

パラメディック119ため息現場ため息キーワード4連発 up data 2008.7.8

ため息キーワード4連発

 長いこと救急隊員なんて職業にいると、パッっと見て、第一印象で分かることと言うのもたくさんあります。例えばよく言うのが、玄関です。家が立派だとか新しい古いに関係なく、お客さんが第一歩を踏み入れる玄関、そこをどのように整頓しているかその家の住民の生活レベルがある程度見えてきます。ウソのようなホントの話ですが、私が一度出場したお宅には玄関にうんこが落ちていました…。玄関にうんこが落ちている家です。生活のレベルも何もあったものじゃない状況でした…。

 真に救急隊を必要とする緊迫の現場では現場の雰囲気が違います。要請した方たちの慌てぶりを見ればただ事ではないことは一目瞭然、同じようにため息現場でも不適切な救急要請であろうことがうかがい知れる事もある訳です。今回紹介するお話は不適切な救急事案であろうとうかがい知れてしまう、救急隊員たちにため息をつかせてくれるキーワードです。このキーワードが飛び出した時、少なくとも私のこれまでのキャリアでは救急車が必要なのか疑問に思ってしまう事案ばかりでした。だいたいこのキーワード、1つか2つ飛び出す現場と言うのはけっこうあるものですが、今回はそのオンパレードでした。ため息も3倍4倍でした。

 深夜の消防署、出場指令が響き渡りました。「○町Eさん方、女性は腹痛、ご主人からの通報」との指令に私たち救急隊は出場しました。

 出場途上
現場までは少し距離があり救急隊員が通報電話番号に連絡を入れました。
救急隊員「救急隊です、Eさんのお宅ですね、通報していただいたご主人ですね?今そちらに急いで向かっている最中です。どうされましたか?」
通報者の旦那「ああ、すみません。よろしくお願いします。」
救急隊員「奥さまが腹痛を訴えていると通報を頂いたのですが患者さんの様子を教えていただけますか?」
旦那さん「あの、サイレン止めて来てもらえますか?」

ため息キーワード①『サイレンを止めて来て下さい』
救急車は緊急車両です。緊急車両の用件を満たす条件としてサイレンの吹鳴、赤色回転等を使用しての走行があります。サイレンを止めてしまえば緊急車両である用件が満たされません。みなさんの家族が緊急の状態となり一刻も早く医療機関に搬送しなくてはならないと119番した際に、サイレンは止めて来てほしいと言うでしょうか?

救急隊員「救急車は緊急車両ですからそれはできませんよ、患者さんの様子を教えていただけますか?」
旦那さん「え…ああそうなんですか…。妻なんですけどお腹が痛いと言っています。」
救急隊員「意識はしっかりしていますね?お話はしっかりとすることができる状態ですね」
旦那さん「ええ、大丈夫です」
救急隊員「もう少しで到着でます、お待ち下さい」

 現場到着
指令先のEさんのお宅はアパートの一室でした。部屋の呼び鈴を鳴らすと要請者の旦那さんがすぐに出てきました。
旦那さん「お願いします」
救急隊長「はい、患者さんは奥にいらっしゃいますか?」
旦那さん「ええ、どこの病院に行くんですか?」

ため息キーワード②『どこの病院に行くんですか?』
これはまあ仕方がないのですが、まだ傷病者と接触すらしていない救急隊員にぶつけられる言葉です。まだ分かりません…、だって患者さんの状態がまったく分からないですもの…。出場途上の電話情報が得られていればまだ、ある程度科目を推定して近くのどの病院が対応可能か調べられますが、傷病者がいくつの方かのか男性なのか女性なのかも分からない状態で聞かれる事もあります。まあでもこれは仕方がないですけどね…。エスパーじゃありませんから分かりません。この救急隊はこの病院に搬送することになっていて、この病院も必ず受け入れることになっているのなら「すぐに○病院に行きますよ!」そんな風に即答できて素晴らしいのですが…。

救急隊員「患者さんの様子を見せていただいてから選定させていただきます。お話を聞かせていただけないと搬送すべき科目が分かりません」
旦那さん「ああ、そうですか」

 傷病者接触
傷病者のEさんは50代の女性でした。昼間からお腹が痛く下痢も続いていたそうです。それでも仕事だったので1日頑張って仕事を終え家に帰りました。そこで病院に行こうかとも思ったのですが、もう夜だしどの病院がやっているかも分からなかったので我慢をして寝てしまったとの事でした。この深夜になってやっぱり腹痛で眠れないからと救急要請に至ったとの事でした。Eさんは自宅の玄関先に出てきており、きちんとした服装で出かける準備ができていました。
救急隊長「こんばんは、Eさんどうされましたか?」
Eさん「すみません、お腹が痛くて…」
さっきまでは寝巻きだったのでしょう、出かけるために着替えて自分で玄関まで出てきて今、靴を履こうとしているのです。車内収容してからお話を聞くことにしました。
救急隊長「すぐそこに救急車が来ていますからそちらまで行きましょうか?救急車で詳しいお話やどこが痛いのかよく見せてください」
Eさん「はい、分かりました」
救急隊員「旦那さん、ご自宅はお留守になりますか?旦那さんの方で戸締りや火の元は確認してください」
旦那さん「分かりました」
救急隊員「奥さんのお荷物も旦那さんが管理してください、このハンドバッグと…この大きなカバンもお荷物なんですか?」
Eさん「着替えとかタオルとかが入っています」

ため息キーワード③『入院セット準備完了』
緊急事態だから要請するはずの救急車なのですが、この方のように身支度を整え、下手すれば軽く化粧までして救急要請する場合があります。そういった方の中にもうすっかり入院すると決めていて入院セットまで準備万端で待っていることがあります。救急車で病院に行けば入院できると思っている場合が多いです。入院治療が必要かどうかは医師が診察し判断する訳ですから患者が一方的に決め付けることなんてできません。

 車内収容
Eさんを車内収容し救急隊長が観察を始めます。
救急隊員「それでは旦那さん、こちらから乗ってください」
旦那さん「ああ、私は車で行きますから」
救急隊員「同乗はしていただけませんか?」
旦那さん「病院には行きます、私は車で後で行きますから」
救急隊員「…そうですか、どちらにしても病院が決まるまで少しかかりますから、ひとまず乗っていただけますか?」
旦那さん「はい」
救急隊員「後ろのドアが閉まりますよ」
バタン…。はぁぁ。

ため息キーワード④『私は車で行きます』
救急車は要請されれば傷病者を緊急走行で病院へとお連れします。それは緊急性があるから、又はその可能性があるからそれが許されている訳です。傷病者が軽症であり診察後帰って良い場合、当然自分で家に帰ってもらわないといけません。同乗者に至ってももちろん同じことです。この深夜、同乗者の旦那さんは帰り道の心配をして自家用車で病院へと向かうと言うのです。帰り道、この深夜ではタクシー代もバカにならないですからね。救急車が来る前から帰りの心配ができるくらいの現場、かなりの余裕があります。それにしても自家用車があり、傷病者の奥さんは救急車が来るまでに着替えて入院できる身支度までして、自ら救急車に乗り込んだ方です。「その車で行けばいいじゃない?なんで救急車なの??」どうしても思ってしまいます。

 病院決定
搬送先病院はすぐに決まりました。一番近くの内科で診察可能な病院です。ここから緊急走行すれば5分と言うところでしょうか。
救急隊長「旦那さん、○病院で診察していただけるようになりましたから」
旦那さん「分かりました、お願いします」
救急隊長「病院の方にもご主人は後から病院に駆けつける旨を伝えてありますから」
旦那さん「分かりました」
救急隊員が救急車のリアドアを開けました。
救急隊員「旦那さん、それではこちらから降りてください」
旦那さん「はい」
救急隊員「それでは○病院に向かいますね、私たちは緊急走行して先に行きますから旦那さんは安全運転で来てくださいね、慌てて来る必要はありませんからね」
旦那さん「はい、分かりました、お願いします」
救急隊員「はい、救急隊は出発しますね」

お出かけ先で友人が怪我をした場合など、同乗者を乗せた上で他の友人も乗用車で病院に駆けつけるなんて場合があります。そんな時、緊急走行する救急車に併走してくる困った方がいるのです。そういう場合にはすぐに救急車を止めて後ろの仲間に注意してやめてもらうのですが、
仲間「え!?付いて行っちゃダメなんですか?」
なんて言われることもあります。ダメに決まっているじゃない!信号しっかり守ってもらわないとダメ…。こんなことがたまにありますから救急車は緊急走行で先に病院に向かう旨、あとから乗用車で来る方には安全走行で交通ルールをしっかり守って来るようにと念を押しておきます。ここまで、ここまで気を使っていたのにこの旦那さん…

 現場出発
救急隊員助手席から拡声器を握ります。
救急隊員「救急車が走行中です、交差点、赤信号に入ります、ご注意ください」
最初の赤信号を通り抜けると…
救急機関員「あっ!後ろの車!ダメだ今、赤信号突っ切ったぞ!あれ旦那さんの車だろ?」
救急隊員「…そうです」
救急機関員「隊長!ちょっと停車しますから」
救急隊長「…了解」
救急機関員「旦那さんにちゃんと言った?」
救急隊員「言いましたよ!」
救急車を安全なところに寄せて停車しました。すぐ後ろを走行していた旦那さんの乗用車も救急車の後ろに停車しました。救急隊員が救急車を降りる。
救急隊員「旦那さん!ダメですよ!今、赤信号を突っ切ったでしょ?旦那さんの車は緊急車両ではないんですから交通ルールをしっかり守ってください。先ほど言いましたよね!?」
旦那さん「いやぁ、分かった分かったアハハ」
救急隊員(アハハじゃないよ!いい加減にしてよ!)「…」

 病院到着
Eさんは「腹痛 軽症」でした。

 帰署途上
救急隊員「本当にしっかり説明したんですよ!くれぐれも交通ルールを守って来るようにって」
救急機関員「深夜で他の車も走ってなかったから別にいいやって感じだったんだろうなぁ」
救急隊員「注意しに行ったら、ばれちゃった?アハハってそんな感じですよ」
救急隊長「今のEさん夫婦、最初から最後まで緊迫感ゼロだったな?」
救急隊員「救急車を呼ぶ前から入院支度、帰りの心配ですもんね、余裕ですよね」

 緊急性がないのであろうとうかがい知れるため息キーワードは他にもありますが、この日はこの4連発、このコンビネーションは効きました。さらにとどめの照れ笑いアハハって…。深夜も深夜、ノックアウト寸前の救急隊でした。トホホ…。

 この記事へのご意見・ご感想、追加、修正などなどをお寄せください。パラメディック119ブログ版・救急救命士の待機室にコメントを残すことができます。

最近の記事

コーナー

ソーシャルブックマーク
パラメディック119ため息現場ため息キーワード4連発