なんか…診察とかもういいかも
傷病者にとっては一大事、そうかもしれないけどそれって一般的に言っても救急車なの?今日はそんな事案のお話です。私はあまりないのでその辛さが分からないからなのかもしれませんが…救急車なの?やっぱり思ってしまいます。
いつものように消防署に指令が鳴り響きました。「救急出場、○町○丁目、Y方急病人、70代の男性は便秘」との要請でした。
救急隊員「はぁぁ…、出た!便秘…」
救急機関員「よく呼ぶよなぁ、便秘で…」
便秘での救急要請、実は珍しくありません。これまで数え切れないくらい便秘での救急要請現場を経験しました。そしてまたこのお話と同じ結末になったことも何度かあります。私がこれまで経験してきたケースではすべてのケースで自力歩行可能、どれも救急車でなくても問題なかったと思われる事案でした。やれやれと思えど、救急要請の現場は行ってみないと本当に分からないものです。本人が便秘と思っているだけで、実は重要な疾患が隠されているのかもしれない。いつものように私たち救急隊は現場へ急行しました。
現場到着
やっぱり傷病者は歩行可能、自宅玄関で救急車を待っていました。傷病者は70代の男性Yさん、腹部の張りと痛みを訴えていました。
Yさん「おとといから便が出なくて…腹が張って痛いんだ」
救急隊長「そうですか、ひとまず救急車に乗れますか?救急車の中で詳しいお話とお体をよく見せてくださいよ」
救急隊長の案内のままにYさんは自分の足で救急車に乗り込みました。Yさんの奥さんが同乗しました。
車内収容
Yさんのお話によると便秘による腹痛は過去にも何度かあり、その度にH病院で診察してもらっているとのことでした。
Yさん「前もH病院で浣腸をしてもらって楽になったんだ」
救急隊長「そうですか、その腹痛はいつからですか?他に何か訴えたいことはありませんか?」
Yさん「ないない!とにかく腹が痛いんだ、はやくH病院に連れて行ってよ」
救急隊長「Yさん、その腹痛が便秘からくるものだとは限らないから、症状を聞かせてもらって、血圧とか測らせてもらわないと」
Yさん「間違いない!自分が一番分かっているって、もう何度もやっているんだから、便秘だよ便秘、はやくH病院に…」
Hさんは救急隊の観察なんていいからとにかく早くH病院に連れて行ってくれと訴えます。バイタルも測定しないで救急隊も病院に搬送連絡なんてできません。一通りのバイタルを測定してH病院に連絡することになりました。間違いなく便秘だと訴える傷病者、そして自力歩行可能…救急車でなくちゃダメなの?連絡したH病院は受入れ可能、すぐに搬送することができました。
搬送途上
奥さん「すみませんね、こんなことで来てもらって」
救急隊長「いいえ」
Yさん「とにかくもう腹が張って痛くって仕方がないんだ」
確かにYさんは痛みからなのでしょう、うっすらと発汗があり、苦悶の表情です。
奥さん「私も便秘がちだから私の下剤を飲ませたんだけどちっとも出ないんですって」
救急隊長「下剤?それは奥さんのもの?」
奥さん「そうなの、私も便秘がちでね、近所の医院で貰ったやつなのよ」
Yさん「それ飲んだけど全然ダメなんだ」
救急隊長「そうですか…」
奥さんが持っていた下剤を飲んだけどちっとも出ない。こんな会話を聞いていや~な予感がしていたのです。
病院到着
自らの足で救急車に乗り込んだ方です。自らの足で救急車を降りて救急診察室に向かいました。すると…
Yさん「あの…トイレに行きたい」
救急隊長「え?トイレ?」
Yさん「うん、なんか出そうなんだ」
看護師「それではYさん先にトイレに行ってきて下さい、まだ医師もこちらに来てないですから」
看護師の案内で診察が始まる前にトイレに直行したYさん…。やっぱりさっき飲んだ下剤が効いてきたのでしょう。…と言うことは。。
ジャジャ~~(トイレの水を流す音)ガチャ(トイレのドアが開く音)Yさんがトイレから出てきました。先ほどまでの前かがみだった姿勢もピンと伸びて、苦悶の表情はすっかりなくなり、まさにこの表現がぴったりです「すっきり」の表情、そしてこう言いました。
Yさん「出たよ、なんか…診察とかもういいかもしれない」
はぁぁぁぁ…ァァ…。。。いつもより心のため息も長くなりました…。ガックリ…。呆れ顔の救急隊員をよそに救急隊長は焦りました。
救急隊長「ちょっとYさん、診察しないで帰るなんて言わないでよ、私たちも先生に連絡して診てもらうようお願いしてこちらにお連れしているんだから」
Yさん「うん、それは分かっているんだけど、もう出ちゃったからなぁ」
便秘と確信してそれをどうにかしてほしいと要請したYさん、確かに出てしまえばそれでしまい。
救急隊長「でもさっきまではどうにもならないくらいの腹痛だったんでしょ!」
Yさん「分かってる、分かっているって診察は受けるよ」
もう分かったから、診察は受けてやるから心配するなって、そんな感じのYさんのこの言動…。Yさんは「便秘 軽症」でした。
帰署途上
救急隊長「診察は受けてやるから心配するなってさ…」
救急機関員「ったく困ったもんだ」
救急隊員「自分でも便秘と確信していて、さらに歩けるってのに救急要請ですもんね」
救急機関員「あのじいさん、タイミングによっては俺たちが到着したら、もう出たからやっぱりいいやってこともあり得たよな」
救急隊員「あり得るあり得る!」
救急隊長「昔、実際あったよ、そんな現場…」
救急機関員「オレもですよ、便秘の要請ってけっこうあるからな」
救急隊長「先生も、『出た?出たなら治療の必要はないね』って、Yさんも『そうですね』ってそれで診察はおしまいだよ」
救急隊3人「はぁぁ…」
便秘で救急要請される方はやっぱりまた同じことを繰り返すことが多いようで、今回のYさんのように「またいつもの便秘」と何度も救急車を利用する方もいます。実際、このYさんも過去、同症状でこのH病院に救急搬送されたことのある方でした。いつもの便秘と分かっている救急要請、それって救急車?でもひょっとしたら本人が便秘と思っているだけでもっと重要な一大事なのかもしれない。それはそうなのかもしれないけど…、何か出したくても出したくても出ないこの感じ、はぁぁ…どうすればよいのでしょう?私も心の便秘でしょうか…、すっきりしたいなぁ。
この記事へのご意見・ご感想、追加、修正などなどをお寄せください。パラメディック119ブログ版・救急救命士の待機室にコメントを残すことができます。
この記事に対しての感想やご意見をtwitterやはてなブックマークでつぶやいてください、みなさまからのたくさんのコメントをお待ちしています。
|