あの…どちら様ですか?
救急車の不適切な利用、最近ではマスコミでも大分伝えられるようになってきました。救急車を私物化し不適切に利用する人たちに怒りを覚える方も増えてきていることだと思います。みなさんは今回の救急車の使い方、どう思われるでしょうか?
確か21時頃の出場であったと思います。いつものように消防署に出場指令が鳴り響きました。「救急出場、○町○丁目○通り、目標建物で○前付近に詳細不明なるも男性の急病人がいる模様、通報はSさん女性」との指令に私たち救急隊は出場しました。
出場途上
後部座席より119番通報した携帯電話に連絡を入れます。
救急隊員「もしもし、こちらはSさんの携帯電話でよろしいですか?」
通報者Sさん「そうです」
救急隊員「そちらに向かっている救急隊の者です、どうされましたか?」
Sさん「救急隊!?いいから早く来てよ!早く~!」
救急隊員「そちらに到着できるまで少しかかります、患者さんの様子を教えていただけますか?」
Sさん「嫌だって言っているじゃない!渡さないわよ、何だって言うのよ!」
救急隊員「ちょっと、Sさん?どうされました?Sさ~ん!」
Sさん「とにかく来てください、ガチャ…」
電話が切れた。まったく状況がつかめません。ただ、電話の向こうでは何やら口論をしているような様子がありました。いや~な予感…。
現場到着
救急機関員「えっと、○通りの…建物は○…、隊長、ここですよ」
救急隊長「そうだな…、いないよな?それらしき人」
救急機関員「ひとまず停車しますからね」
救急隊長「そうだな…」
指令番地、目標建物、間違いありません。救急車は目的地に到着、ひとまず停車しました。救急車を降りる隊長と隊員
救急隊員「いませんよね?それらしき人」
救急隊長「だよな?」
救急隊員「もう一度通報電話にかけてみますね」
もう一度Sさんの電話に連絡しようとすると、遠くから声が聞こえてきました。
Sさん「こっちです!こっち~~!」
数百m先から女性が何やら大騒ぎして救急隊を呼んでいる。
救急隊員「あっ!隊長、多分あの人がSさんですよ」
救急隊長「何か…様子がおかしいな」
救急隊員「ですね…」
救急隊長「資器材はいいや、救急車に残してオレたち二人で行ってみよう、機関員は距離を置いて救急車で近づいてきて」
救急機関員「了解、本部にも一報入れておきますね」
救急隊長「うん、そうしてくれ」
資器材を救急車に残すのは私たち自身が身軽になるため、資器材を携行していてはとんでもないトラブルが生じている現場であった際、迅速にその場を離れることができません。指令番地から○通りに沿って進むこと約200mと言うところでしょうか、通報者のSさんがいました。
傷病者?接触
Sさん「だから嫌だって言っているでしょ?何なのよあなた!」
傷病者?「うるうせえな!いいからよこせって言っているんだよ!それはオレのだ!」
Sさん「何よ、ふざけないでよ!」
救急隊長「…」
通報者のSさんであろう女性は40~50歳くらいの方、傷病者なのであろう男性もやっぱり40~50歳くらいの方でした。夫婦なのか?二人は携帯をよこせだとか私のだとか言いながら激しく口論していました。女性は多分、あの携帯で119番通報したのでしょう。それを獲ろうとする男性、嫌よと逃げる女性、○通りに沿ってどんどん進んでいきます。指令先から離れているはずです。女性は靴を履いていませんでした。さてこの現場、一筋縄ではいきそうにないぞ…。
救急隊長「あの~、通報いただいたSさんはあなた?」
Sさん「そうです」
救急隊長「患者さんはどなた?」
Sさん「この人です!早くどっかに連れて行ってください!」
男性「バカ野郎!ふざけるな!勝手に救急車なんて呼んでいるんじゃねえよ!はやく携帯よこせ!」
Sさん「だから嫌だって言っているじゃない!」
救急隊長「…」
このふたり明らかにかなり酔っ払っています。女性が逃げては男性が追いかけどんどん進んでいくふたり、それを少し離れたところから追いかける救急隊長、その一歩後ろに続く隊員、さらにそのずっと後ろに赤色回転灯を切ってついてくる救急車、何でしょうかこの現場…、訳が分かりません。おや?さらにもうひとり、さっきから私たちのそばにいるこの男性は?
救急隊員「あの…あなたはどちら様ですか?」
通行人「いや、ただの通行人です」
救急隊員「あちらの方たちのお知り合いではないですか?」
通行人「いや、全然関係ないです、関係ないない!」
救急隊員「そうですか…」
興味津々、大騒ぎしているふたり、やってきた救急車、野次馬には最高なのでしょう。ずんずんと進む二人、それに続く救急隊長と救急隊員、そして興味深々の野次馬のおじさん…。はぁぁ、この酔っ払い二人はもちろんのこと、この野次馬…。なんてバカバカしい、なんてわずらわしい現場なのでしょうか。
救急隊長「ねえ、Sさん、具合が悪い方がいるから救急要請したんじゃないの!?」
Sさん「この人です!この人がおかしいんです!どっかに連れていって!」
傷病者?「おかしいだと!ふざけるな!いいから携帯をよこせ!」
Sさん「だから渡さないって言っているじゃない!」
救急隊長「…はぁぁ、ねえ、あなた!どこの具合いが悪いってことないね!?」
傷病者「具合いなんて悪くねえよ!こら!お前どこまで行くつもりだ!早くそれよこせ!」
Sさん「ねえ!早くどこかに連れて行ってよ~~!」
活動終了
救急隊長「やめやめ、ここで止めよう」
救急隊長が隊員にささやきました。二人についていくのを止めた救急隊長と救急隊員、さらにやっぱり私たちの横で二人を見ているおじさん。
救急隊長「…。あの?あなたは?あの二人のお知り合いですか?」
男性「いや、全然関係ない!ただの通行人です」
救急隊長「はぁ、そうですか」
大騒ぎを続けたまま二人はどこかに消えていきました。とてもじゃないけど状況をとって、観察処置をして、医療機関に搬送する人たちとは思えませんでした。何をどうしたくて救急車を要請したのか?それすら良く分かりませんでした…。「不搬送 傷病者立ち去り」
帰署途上
救急機関員「はぁぁ、訳も分からないしバカバカしいのなんのってな…」
救急隊長「何が何だか分からなかったけど、あの要請者は救急車が来れば、あの男をどっかに連れて行くと思ったんじゃないのかな?」
救急隊員「ですね、きっと。警察沙汰にはしたくないから119って思ったんですかね?」
救急隊長「さあ?何が何だか??」
救急機関員「不適切な救急要請だったのは間違いないでしょ」
救急隊長「ああ、それだけは間違いないよ」
救急隊員「あの野次馬のおじさんもわずらわしかったですね~」
救急機関員「あのおじさん、あれ野次馬だったの?関係者じゃなくて?」
救急隊員「オレは関係ないって言っていましたよ、興味津々な様子でした」
救急隊長「裸足の女が大騒ぎして救急車がやって来たんだ、野次馬としては面白いだろうさ」
救急機関員「はぁぁ、わずらわしいったらありゃしねえな」
救急隊員「本当、何しているんでしょうねオレたち…」
要請者は喧嘩の相手をどっかに連れて行けと救急要請をしたようでした。男性は「救急車、ふざけるな!」と大騒ぎ、ふたりは喧嘩を続けどこかに行ってしまう。何が何だか…。消防署に戻る救急車内はどんよりと暗く、隊員たちのため息がこぼれました…。
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