救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119-すべては救命のために-
救急救命士のため息現場報告 case48

パラメディック119救急救命士のため息現場家まで連れて帰ってくれ up data 2009.8.6

家まで連れて帰ってくれ

 救急車は緊急車両、緊急事態にサイレンを鳴らして駆けつけ、緊急性のある人を急いで医療機関に搬送するためにあります。でも中には、この救急救命士のため息現場でたくさん紹介してきたように、緊急性に疑問を感じるケースや、ただの搬送手段に使われる方もいます。今回紹介する男性の場合、緊急性うんぬんの問題など通り越していました。自ら救急車を呼ぶよう依頼したにも関わらず、そもそも医療機関に搬送されることを嫌がっていました、彼の目的は…

 21時を回った時間帯、いつものように消防署に出場指令が鳴り響きました。「救急出場、○町○丁目店舗○の前に急病人、男性は歩けないもの、通報は店舗○の男性従業員」との指令に私たち救急隊は出場しました。

 現場到着
指令先の店舗の駐車場に停車、お店の前には通報者の男性従業員が待っていました。
隊長「こんばんは、ご通報いただいた方ですね?」
従業員「はい、こっちです」
通報者の従業員はお店の裏へと私たちを案内しました。お店の裏にある倉庫に行こうとしたところ、男性が座り込んでおり歩けないから救急車を呼んでほしいと言われたとの事でした。

 傷病者接触
お店の裏には壁に横たわるように男性が座り込んでいました。傷病者は60代男性でYさん、お話はしっかりとしていました。
隊長「こんばんは、歩けないのはあなたですか?どうされましたか?」
Yさん「ええ、何かね、足に力が入らなくてね」
隊長「足に力が入らない?ここまではご自分で歩いてきた訳ですよね?突然力が入らなくなってしまいましたか?」
Yさん「ええ、そうなんですよ」
隊長「Yさん、これは触っているの分かりますか?ちょっと足を動かしてみてください」
Yさん「はい」
Yさんの身体を観察するも麻痺などもありません。Yさんの主訴は立ち上がると下半身に力が入りずらくふらふらと倒れてしまうとの事でした。
隊長「Yさんずいぶんお酒の臭いがするね、大分飲まれていますか?」
Yさん「うん、少し飲みすぎちゃったかな?」
隊長と隊員がYさんの様子をみている間に機関員は通報者の男性従業員から通報に至った経過を聴取していました。
機関員「隊長、お店の方からのお話だと、こちらのお店でお酒も購入しているそうですよ」
隊長「Yさん、このお店でお酒を買ったの?」
Yさん「ああ」
隊員「これが買ったお酒ですね?あれ??Yさんこれ蓋が開いているじゃない、ここで飲んでいたの?」
Yさん「ああ、ちょっと飲み足らなくてね」
隊長「それではYさん、先ほどまでお酒を飲んで、飲み足らないから帰り道にこのお店に寄ってお酒を買って、またここで飲んでいたってこと?」
Yさん「そう、その通りだ」
隊長「それで立ち上がれなくなっちゃったってことだね?」
隊員(はぁぁ…そりゃあんた千鳥足って言うんだよ…)
Yさん「そうなんだ、家まで連れて帰ってくれよ」
隊長「救急隊は家までは送れないんだ、とにかくYさん、救急車の中でお体の様子をもう少し詳しくみせてくださいよ、詳しいお話は救急車でしよう」
Yさん「ええ、分かりました」
照明が照らしてはいますが、薄暗いお店の裏では詳細な観察はできないからとひとまず車内収容することにしました。メインストレッチャーを用意しYさんを収容することとしました。
隊員「Yさん、私が肩を貸すからこのベッドに座ってください」
Yさん「ああ悪いね」
隊員に肩を借りて立ち上がるYさん、確かにちょっと足元がおぼつかない感じ、ただこれはまさに酔っ払いと言って相応しいふらつき加減でした。

 車内収容
測定したバイタルも特に問題なし、Yさんから話を聞いてみると、夕方からついさっきまでかなりの酒を飲んでいるとのことでした。現在治療中の病気はないが、何かあると近所の○病院にかかるのだと言うことでした。
隊長「そう、Yさん○病院はここから一番近い病院だし救急病院になっているんだ、○病院に連絡してみようか」
Yさん「病院には行きたくないんだよな」
隊長「あのね、Yさん、ふらふらして立ち上がれないからと救急車を呼ぶように頼んだのでしょ?救急車は医療機関に搬送するのが仕事なのですよ」
Yさん「いや、それは分かっているんだどけな、病気ではないから」
隊長「…ふぅ、それじゃあYさん、あなたはお酒を飲みすぎてしまって歩けなくなってしまったのですね、だから家まで送ってほしくて救急車を呼んだってこと?」
Yさん「うん…まあそうだな」
隊長「それではそれはできませんよ、先ほどから言っている通り救急車は患者さんを医療機関に搬送することが仕事です、家まで送るなんて事はできません」
Yさん「それは分かっているんだよ、ただオレの家はすぐそこだから」
隊長「すぐそこだろうとできないものはできない、どうしても帰れないと言うのなら警察官を呼ぶよ」
Yさん「何で警察なんだ!」
隊長「怪我や病気の方を病院にお連れするのは私たちの仕事です、お酒を飲んで酩酊状態になっている人を保護するのは警察官の仕事です、あなたがお酒を飲み過ぎて家に帰れないと言うなら警察官を要請しますよ」
Yさん「だったらいい!帰るよ!」
警察官を要請すると言われたYさんはストレッチャーから降りようとしました。
隊員「ああぁぁ…Yさん、危ないから私が手を貸しますよ」

 救急車外へ
病院に搬送されることも、警察官から保護されることも嫌だと言うYさんは結局自分で帰ることになりました。
隊長「Yさん、気をつけて帰ってくださいよ、途中で転んだり怪我なんてしないでね」
Yさん「ああ分かった、でも本当にオレの家はすぐそこなんだけどなぁ」
すぐそこなんだから救急車でちょっと送ってくれてもいいじゃないか、そんな恨めしそうな目で私たちを見ているYさん
隊長「…、ゆっくり気をつけて帰ってください」
Yさん「悪かったね、どうも」
諦めたYさんはふらふらと千鳥足で帰って行きました。
傷病者搬送辞退、不救護

 帰署途上
機関員「ったく…救急車を何だと思ってるんだ」
隊長「あの人だって救急車が病院に行くものだってのはよく分かっているんだよな、家はすぐそばだし上手くしたら送ってもらえるって思ったんだろう…」
隊員「何があってもそんなことをしたらいけませんね、断固とした態度で対応しないと、一度特別になんてしたら何度でも要求してくる人ですね」
隊長「ああ間違いないね、それにしてもひどい事案だったな」

 この事案、救急車の要請内容としては不適切でしょう。しかし、仮にYさんが自宅に帰る途中で転倒し怪我をしたのなら、それを未然に防げなかった救急隊の責任なんてことになるのでしょうか?ただ、絶対に家に送るなんてことはできません。大人だからこそ飲めるお酒、楽しく飲む自由があります。だからこそ、自分で自分家に帰る、そんな当たり前のことは義務なのではないでしょうか。

 この記事へのご意見・ご感想、追加、修正などなどをお寄せください。パラメディック119ブログ版・救急救命士の待機室にコメントを残すことができます。

 この記事に対しての感想やご意見をtwitterはてなブックマークでつぶやいてください、みなさまからのたくさんのコメントをお待ちしています。

最近の記事

コーナー

ソーシャルブックマーク

パラメディック119救急救命士のため息現場家まで連れて帰ってくれ

This site is intended for the life