救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119-すべては救命のために-
ありがとうの救急現場 vol.1

パラメディック119ありがとうの救急現場嬉しいけどそれは困ります 2006.2.18

嬉しいけどそれは困ります

 いつもいつもため息の出る現場のお話をしています。みなさんにお話したい現場の話がため息現場中心になってしまうのは、救急車をこんな風に使う人がいて本当に困っているのですとみなさんに知ってもらいたいからです。救急車をモラルなく使うと本当に必要な人が必要な時に使えなくなってしまう。本当に必要な人の所に迅速に駆けつけることができないもどかしさがあるのです。

 そんな反面、ため息が出るような現場や理不尽な事をいう傷病者、その家族、友人、むちゃくちゃな酔っ払い、常習のホームレス、そういう方たちを相手にするのは本当にたいへんでしんどい事もありますが、これも仕事です。やりたくないことも歯を食いしばって、下げたくない頭も下げて、「ぶざけんなよ!」と叫びたい気持ちもぐっとこらえて、救急隊員も労働を切り売りして賃金を貰って生活している。どこのお父さんもお母さんも同じです。みんなそうやってたいへんな思いをして家族を養っている。救急隊員も職業であり賃金を貰っている以上やりたくないことばっかりだってそれは当たり前の事です。

 でもそんな中でもキラリと光るやりがいがある。これもどんな職業でも同じことでしょう。たいへんな思いをして活動をしている中、「ああもう救急隊なんてバカバカしいな」「救急隊員は飯も食べさせてもらえないのか…」「こんなことするために救急隊員になったんじゃないのにな」なんて思うことはたくさんあります。でもそんな中にも「ああやっぱり救急隊員になってよかったな!」って思うこともあるのです。ここではこのキラリと光る現場のお話、それはやっぱり傷病者やその家族に「どうもありがとう」と言ってもらえる瞬間です。救急隊員になってよかったと思えた現場のお話をさせてもらいます。

 「救急出場、○町○丁目…、20代男性は発熱、嘔吐、動けないもの」との指令に私たち救急隊は出場しました。

 現着、傷病者接触。20代男性のKさんは38℃代の発熱、寝室に置かれた洗面器にはほとんど固形物の混じっていない嘔吐物が50~100ccほど、ここ2日、具合が悪くてほとんど食べ物を口にできず飲み物だけだったそうです。たいへん具合が悪そうでしたが意識ははっきりしておりこれまでの経過をしっかりと説明してくれました。3日前から近所のクリニックにかかっていてインフルエンザだと診察され薬も処方されていました。Kさんは大学に通う学生で一人暮らし、息子の看病にと田舎からお母さんが出てきて看病していました。
Kさんのお母さん「近所のクリニックにかかっているのにいっこうによくならないんです。もっといい病院に連れて行ってください。」
救急隊「もっといい病院と言われましても困りましたね…。Kさん?近所のクリニックにずっと通院しているんですよね?そこの先生が診てくれるならそこがいいですかね?」
Kさん「…はい。とにかくゲホぉ、ゲホォ…、診てもらえれば…」
救急隊長「それではこれまで診てもらっているからカルテもあるし、この時間なら診察もできる時間でしょうから、救急病院ではありませんけどそのご近所のクリニックに連絡してみましょう」

 車内収容。KさんとKさんのお母さんを車内収容してKさんをずっと診察している近所のクリニックに連絡しました。Kさんを担当している医師が電話に出て私たち救急隊がこれまでの経過、バイタル等を伝えました。
クリニックの医師「…そうですか。昨日診察した段階でも大分悪かったんですよね、その症状だと入院治療の必要性があるかもしれませんね。うちは入院施設のないクリニックだから救急隊で入院施設のある病院に搬送してください。搬送先が決まったら連絡を下さい。私の方からこれまでの経過を搬送先の先生に説明しますから」
との回答でした。で、ここからが大変だったんです。搬送先病院が決まらない。というのもインフルエンザの検査で陽性、入院治療の必要性がある可能性が大と昨日診察した医師が判断している患者さんです。救急隊も科目、男性のベッドの確保のある病院を選定しているのですが、個室ベッドがあるかどうかまで調べることはできないのです。インフルエンザの患者を大部屋に入れるわけにはいかず個室管理できる病院じゃないといけない。片っ端から病院に当たったんですが、
看護師「インフルエンザ…ちょっと待ってね、今、個室開いているか調べますから…(調べる間に数分待たされて)ごめんなさい。個室はありません」
この繰り返し。何件当たったでしょうか…KさんにもKさんのお母さんにも事情を説明して分かってはもらっていたのですが、Kさんはストレッチャーでゲホゲホ言っているし、お母さんはまだ決まらないの…?って不安そうな表情を浮かべている。あまりに気の毒なので私たちは救急隊の電話と自分たちの携帯電話も使って病院連絡しました。(もちろん通話料金は自腹ですよ)30分くらいは搬送先病院決定にかかったと思います。

 病院到着、医師引継ぎ。Kさんは結局、入院治療の必要があるということで個室に入院することとなりました。
救急隊員「本当なかなか病院決まらなかったですね」
救急機関員「個室の病室があるかどうかまで情報があるわけじゃないから仕方ないよな、ひとつひとつ電話するしかないもんな」
引き揚げる準備をしていた私たちのところにKさんのお母さんがやってきました。
Kさんのお母さん「本当にありがとうございました!本当に助かりました。あの子結局、扁桃腺が腫れ上がっちゃってて食事ができないようで入院になりました。本当にありがとうございました。」
ひたすらお礼を言って頭を下げるお母さん。
救急隊員「そうですか。入院して治療すればKさんは若いですからすぐによくなりますよ」
救急機関員「お大事にしてくださいね」
Kさんのお母さん「本当にありがとうございました。私だけじゃどうしていいか分からなくて本当に助かりました。はい、これ」
そういうとこのお母さん救急隊員に千円札を渡したのです。
救急隊員「ちょ、ちょっと、困りますよ!こんなの受け取れません」
Kさんのお母さん「いいのよ。みなさんでジュースでも飲んでください」
救急隊員「そういう問題じゃないんです。こんなの受け取れません!」
救急機関員「本当に困るんです!」
隊員と機関員のあまりの勢いにお母さんも少しビックリしていました。
Kさんのお母さん「…でも携帯電話も使ってもらっていたみたいだし」
救急隊員「そんなことはどうでもいいんです。私たちはみなさんの税金で勤務しています。こんなものは絶対に受け取れません!お気持ちだけ頂きます。」
Kさんのお母さん「…そう。それでは。」
Kさんのお母さんに千円札を返しました。病院の入り口で「奥様今日は私が、いえ私が」みたいなやり取り。気持ちはありがたいのですが本当に困りました。このお母さんには絶対に受け取らないという救急隊に簡単に引き下がってくれましたが、中には「オレの感謝の気持ちだから絶対に受け取ってもらう」とどうしても救急隊に現金を握らせようとする頑固なおじいさんなどもいます。ほんと~~に困ります。もちろんケンカになってもなんでも絶対に絶対に受け取ったりしませんからね。

 千円札を渡されるのは本当に困りましたが、私一人で不安だったんです。本当に助かりました。どうもありがとう。こういう言葉をかけてもらえる時には救急隊員としてのやりがいを感じることができます。よし!今日も寝てないし飯もろくに食べられてないけどいっちょ頑張るか!結構単純なんですね。過酷な労働の中にキラリと光る一部分、救急隊員にはありがとうと言ってもらえる瞬間があります。小さなことかもしれませんけど私には大きなやりがいです。

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