続・酩酊者に対する正しい活動とは?

溜息の現場

この記事は酩酊者に対する正しい活動とは?の続きです。


消防署に帰署

約4時間もの間、留守にすることになってしまった消防署に戻ってきました。車庫では後輩の消防士があくせくと資器材の手入れをしていました。

消防士「お疲れ様でした、ずいぶんとかかりましたね?連続出場ですか?」

連続出場とは帰署途上に無線で呼び出され消防署に待機することなく次の現場に出場することを言います。あまりに帰ってこない救急隊に、彼は2、3件連続で出場してきたのではないかと思ったようです。

隊員「いや、それが酔っ払いで…受け入れ先は決まらないし、その後もいろいろゴタゴタあってね…1件にこんなに時間がかかったんだ」
消防士「そうですか、それはたいへんでしたね、お疲れ様でした」
隊員「消防隊も出場したの?その資器材を準備しているってことはPA連携?」

PA連携とは消防隊と救急隊が同時に出場する現場のことです。彼が手入れしていた資器材はバックマスクなどCPAに活用するものでした。

消防士「ええ、僕らもさっき帰ってきたところです、救急隊が出場している間に2回も出場しましたよ、しかもどっちも重症で…」

私たちがSさんにかかりきりになっている頃、私たちが守るべき受け持ち区域で救急要請が入っていました。共に通報時に重症であると判断できる内容から待機していた消防隊が出場したのでした。

私たちが消防署を留守にしている訳ですから連携した救急隊は次に遠い消防署から、そこにも救急隊が待機していなかったら、さらに遠い消防署からやって来ることになります。どちらの連携活動も当然、消防隊が先着する活動になりました。

1件目は高齢の男性、呼吸困難の状態で誰の目にも明らかな重症な傷病者であったそうです。

2件目はCPAの男性、先着した消防隊がCPRを実施している中、救急隊に引き継ぐ活動になりました。共に5分ほど消防隊が早く現場に到着した事案となりました。


消防署の事務室

隊長「いつものことだけど…心が痛むね」
隊員「ええ、重症の人のところに早く駆けつけるためにオレたちはいるって言うのに、その頃、酔っ払いの相手をした訳ですからね」
機関員「あのSさんはそんな事は夢にも思っちゃいないさ、今頃、家で高イビキかいている頃だろうぜ」
隊長「本当、罪深いよな、直近のオレたちが待機していたら助かったなんて言えないけど、少なくとも助かったかもしれない可能性を奪っているのは間違いないだろうからな」
隊員「なかなか救急車がやってこない訳ですからね、家族にも辛い時間ですよね」
機関員「消防隊にも…だよな?」
消防士「ええ、消防隊にできる事なんて限られているし、僕らも救急隊がなかなか到着しないのは本当に辛いです」
隊長「そうだよな…、それにしてもいつもほとんどの事案が緊急性の乏しい事案ばかりだって言うのに、オレたちが待機していない時に限って緊急性のある事案が受け持ち区域にあるって言うのだからな、この町の人には本当に気の毒だ…」
隊員「そうですね…、でもこの町に限ったことじゃないですよ、オレたちだって緊急走行して20分もかかるような所まで出場しているのだから、どこの町でも同じことですよ」
機関員「それで?扱った傷病者はどうだったの?」
消防士「ええ、1件目の方は○病院に搬送されて心不全の重篤だったそうです、2件目の方は○病院で…亡くなったそうですよ…」
隊長「そうか…」



事後検証

酩酊者に対する活動では受け入れ先が決まらないことが日常茶飯事です。ここまででも触れた通り、酩酊者の中には気が大きくなり暴言を吐いたり、暴力を振るうなど問題行動を起こす方がたいへん多いのがその要因です。

特に手薄な夜中にはそんな方は受け入れられないと断られることがたいへん多いのです。断る医療機関の言い分も分からないでもありません。確かに病院によっては医師1名、看護師数名程度で当直体制をとっているところもあります。暴れられたり騒いだりされれば他の患者さんの対応がまったくできなくなってしまう。

救急隊がひとりの傷病者にかかりきりになる訳にいかないのと同様に、医療機関もひとりの酔っ払いのために他の患者の診察をストップする訳にはいかないのです。

それは非常に良く分かるのですが、受け入れ先の救急指定の医療機関が酔っ払いは診ないと断ってしまう、断れてしまう、これはどうなのでしょうか?仮にこの病院に酩酊した方が転倒して怪我をしたから診てほしいと自らやってきたのなら「酔っ払いは診ない」と断るのでしょうか?

119番があれば何があっても駆けつける救急隊、しかしその先は断れてしまう、それはどうなのでしょう?救急隊が扱っている方を断っても救急隊は必ずどこかの病院に搬送する、救急隊だから断わられてしまうそんなおかしな現実があります…。

断らざる得ない医療機関に配慮なくこんな事を書いる訳ではないことをご理解いただきたいと思います。暴言を吐き、時に暴力を振るうような酩酊者を扱うと救急隊は本来の使命を果たなくなります。

今回の事案のように守るべき受け持ち区域に緊急の方がいたにも関わらず、その頃に私たちは酩酊者に四苦八苦していました。こんな方を受け入れては、医療機関としての使命を果たせなってしまう、それはまったく同じことだ、それは本当に良く分かっているつもりです。

ただ、それでも受け入れてくれている医療機関もあるのです。どうにか見つけた受け入れ先の医療機関の医師や看護師にだって言い分はあるようで…

看護師「何で○町の救急隊がこんなところまで搬送してくるの?」
隊員「いや…受け入れ先がなかなか決まらなかったもので…」
看護師「うちで何件目ですか?」
隊員「えっと…どうでしょう?10件以上選定しているものですから…」
医師「ふぅ…どこも酔っ払いは診られないって?」
隊員「どこもストレートには言いませんけど、まあそういうことだと思います」
医師「そんなのうちだってまったく一緒、うちだって他の病院と何にも変わりませんよ!」
隊員「はあ…そうでしょうね…助かりました、ありがとうございました」
隊長「申し訳ないですが、またお願いします」
医師、看護師「…」

必ずどこかにツケが回っているのです。

酩酊し怪我をした方を搬送しなければ救急隊が悪い、それはそうでしょう。そんな方を受け入れない医療機関が悪い、それもそうかもしれない。

ただ、ちょっと待ってほしい。大人だからこそ楽しめるお酒、飲み過ぎて自分の足で無事に帰れなくなる、そもそもそれってどうなのでしょうか?何か当たり前の事が忘れられているような気がしてしまいます。

…なんて、私も警察官や救急隊の世話になるようなことはありませんが、お酒を飲み過ぎて友人に多大な迷惑をかけたことはあります。偉そうな事はとても言えませんね、すみません。さて…、酩酊者に対する正しい活動とは?

この記事に対するご意見・ご感想をお寄せ下さい。私たちのSさんに対する活動はどうでしょうか?救急隊のみなさん、酩酊した方を受け入れている医療従事者のみなさんの本音の部分をお聞かせください。酔っ払って失敗してしまった方からのご意見も待っています。TwitterなどSNSにて、みなさまからのたくさんのコメントをお待ちしています。

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