最近のアルコール系現場はストロング系

仰天の救急現場

当サイトで数々紹介しているアルコールに関わるトラブルを抱えた人たちの話。アルコール中毒、アルコール依存症、酩酊などお酒を起因とした事案の数々、このような人たちに最近感じる傾向です。


出場指令

そろそろ正午になろうかと言う温かい日差しの中、消防署に出場指令が鳴り響きました。

「救急隊出場、〇町〇丁目…コンビニエンスストアの前、男性は倒れており頭部からの出血、通報は通行人女性から」


出場途上

出場途上の救急車内、救急隊員が119番通報があった電話に連絡します。

(119コールバック)

隊員「もしもし、119番通報を頂いた方ですね、そちらに向かっている救急隊です、状況を教えてください」
通行人「はい、お願いします、男性の方なのですが、私の目の前で転倒してしばらく立ち上がれなくて…、頭に出血しているし救急車を呼んだのですが…、今は自分で立ち上がって大丈夫だからと歩いています」
隊員「歩いている?今は要請した場所から離れてしまっているのですか?」
通行人「ええ、でも、何かヨロヨロとしていて離れたといっても20mくらいです、コンビニに来てくれればまだ分かるところにいます」
隊員「分かりました、あともう少しで着きますからそこを離れないようにお願いします、私たちが到着するまでもう少しそこにいていただけますか?」
通行人「分かりました」

聴取した内容を隊長と機関員に報告します。

隊長「自分で立ち上がって歩き始めたって?」
隊員「はい、大丈夫と言って立ち去ろうとしているみたいです、通報者の方にはもう少しで到着するから案内してほしいと依頼しました」
隊長「了解」


現場到着

現場のコンビニエンスストアに到着すると、少し先に手を振る女性の姿が見えました。彼女が通報者でしょう。その横にはヨロヨロと歩いている男性が…

隊長「ああ…あの人が傷病者だな…なるほど…」
機関員「酒ですね…」

ベテランの隊長と機関員、パッっと見た時に感じるものはだいたい当たっているものです。 ただの酔っぱらいではありません、なんとなく汚れているあの姿…、アルコールにどっぷり浸かっている人の雰囲気が漂っていました。


傷病者接触

目標のコンビニエンスストアから少し離れた路上に停車、手を振る女性に話しかけます。

隊長「どうも、ご通報頂いた方でしょうか?」
通報者「はい、お願いします、あの人なのですけど…」

傷病者は初老の男性、片手にビニール袋を持ちヨロヨロと歩いていました。

隊長「お知り合いではないのですか?」
通報者「はい、たまたま通りかかったら急に倒れ込んで…額に血が出ているし、少しの間立てなかったから…、でも、119番通報してから大丈夫だって立ち上がって…何かすみません」
隊長「いいえ、お気になさらないで大丈夫ですよ、それではそれ以上のことは分かりませんね?」
通報者「はい」
隊長「分かりました、あとは私たちが対応しますから、ありがとうございました」
通報者「すみません、よろしくお願いします」

隊長が通報者から情報を確認している間に、隊員が傷病者に声をかけます。

隊員「こんにちは、救急隊の者です、額にお怪我をされていますね?手当をさせてもらいます」
傷病者「大丈夫だよ、こんなもん、ちょっと転んだだけだ」

声をかけた救急隊員の問いかけにこのように応答した傷病者、自身で歩けしっかりと応答している、緊急性はなさそうです。しかしこの顔色…尋常じゃないぞ…。

隊長「旦那さん、こんにちは、あなたが転倒して怪我をしていると要請を受けて駆け付けました、額に血がにじんでいますよ、手当をしますからひとまず救急車に行きましょう、ね?」
傷病者「はあ、そうか…分かった、でも大丈夫だぞ、オレは家に帰りたいんだ」
隊長「まあそう言わずに、ともかく手当させてください、病院に行かなければならないかどうか創を見せてもらって、それからにしましょう」
傷病者「ああ…そうか…」

傷病者は明らかに酔っぱらっておりヨロヨロとしていますが、言動が荒いこともありません。隊長の説得に素直に応じて、自ら歩いて救急車の後部座席から乗り込みました。機関員が救急車後部のハッチドアを閉めました。

機関員「ふぅ…、アル中?アルコール依存?いや、さらにその先だな…肝臓がぶっ壊れているぞ…」
隊員「黄疸がすごいですね…まっ黄色…」
機関員「見たかい?あのビニール袋」
隊員「ええ、御用達のやつですね…」


車内収容

傷病者は60代の男性でTさん、前額部に打撲痕と挫創、血がにじんでいました。創はアスファルトに打ち付けたと思われるもので汚れており、縫合の必要がありそうな大きさでした。ただ、生命に関わるような怪我ではないでしょう。問題は…

隊員「額の創を洗ってガーゼを当てますからね」
Tさん「ああ、痛たた…、病院に行くほどじゃないだろ?」
隊長「Tさん、創は診てもらった方が良いよ、それから肝臓が悪いって言われたことはないですか?」
Tさん「ない、オレに病気なんてない」
隊長「そうですか、ずいぶんとお酒の臭いがしますが、今日は大分飲んでいますか?
Tさん「うん、まあ」

Tさんの呼気からはかなり強いアルコール臭が漂っており、持ち物のビニール袋にはアルコール分9%のストロング系チューハイのロング缶が数本入っていました。顔色は黄土色、眼球は真っ黄色と言ってふさわしい黄染です。

隊長「そうですか、Tさん、病院に行きましょう、その創も縫わないといけないかもしれない、診てもらわないとダメですよ」
Tさん「そうか?たいしたことはないと思うけどな」
隊長「創もですけど…、一度病院にかかった方が良いと思いますよ、行きましょう」
Tさん「まあ、そこまで言うなら…でも、消毒されて終わりだろ?」
隊長「それを病院で判断してもらうんですよ、他にも怪我がないか体をよく見せてください 」
Tさん「そうか、分かった」
隊長「しっかり全身観察、特によく腹部をな」
隊員「はい、了解です、Tさん、全身を触らせてもらいますよ」

頭から足先まで他に怪我がないか全身観察を実施、バイタルサインは問題なし、創もガーゼで被覆するだけで止血状態、他に怪我はありませんでした。隊長がよく見るようにと指示した腹部はやはりまっ黄色、そして…

隊員「隊長、腹部も黄疸が著明、それから… メズサの頭
隊長「ああ、そうだろうな…、Tさん、このお腹、ずいぶんと血管が浮き出ています、それから肌の色も随分と黄色いのが気になるのですが、これはいつからですか?」
Tさん「さあ?腹はよく分からないけど何か黄色いなと思ったのはずいぶんと前からだな」
隊長「ずいぶんとは?」
Tさん「う~ん、分らないな、何か月も前からだと思う」
機関員「隊長、脳外は必要として…内科も?」
隊長「ああ…、頭の怪我がメインだけど黄疸とメズサの頭の件はよく伝えて、この時間ならどこも大丈夫だろ?」
機関員「ええ、では〇病院から選定します」


医療機関選定

機関員は救急車の運転席から医療機関に選定を始めました。隊長と隊員は後部でTさんの継続観察に当たります。

隊長「Tさん、この時間から飲んでいるというと、毎日かなりお飲みになるのでしょ?今も大分ふらついていましたけど」
Tさん「ああ、まあ、それなりに飲むわな」
隊長「いつもこの強いチューハイですか?」
Tさん「 ビールも飲むけど 最近はいつもこれだな、安いしこれが効くんだよ」
隊長「なるほど…」

Tさんは昨夜から朝にかけて酒を飲み、昼頃に目が覚め、再び飲酒したそうです。すぐに家の酒は飲みつくしてしまったので指令先のコンビニエンスストアに買いに出かけてきたとのことでした。いつも購入しているこのストロング系チューハイを買い、自宅に帰るところでふらつき転倒してしまったとのことでした。

機関員「隊長、〇病院はまず創を診るって、黄疸の件は創の手当てが終わったら、外来にかかるようにって」
隊長「了解、 Tさん、〇病院に行きますよ、まず創を診てもらおう、この顔色の件は創の手当てが終わったら外来にかかってください、この時間なら普通に受診できますから」
Tさん「はぁ、いやぁ、創だけ消毒してもらえばそれで良いよ、顔色とか別にどうでも…」
隊長「まあ、そう言わずに、とにかくまずは病院で診てもらいましょう」


医療機関到着

医師「Tさん、少し痛いですよ、消毒しますから、創は縫合しますよ」
Tさん「縫わないとダメかい?」
医師「ええ、縫った方が良いですね、それから一応CT検査も受けてもらいます、でね、Tさん、あなたの顔色、黄疸が出ていますよ、この後、内科を受診してください」
Tさん「いや、いいよ、オレは創だけ診てもらえばそれで大丈夫だ」
医師「あなたの顔色は普通じゃないですよ、肝臓が悪い可能性が非常に高いです、受診をお薦めします」
Tさん「はあ…そうですか…」

医師の説得にも乗り気でないTさん、果たしてこの後、外来にかかるのかどうか?

「頭部挫創 軽傷」


帰署途上

隊長「最近のアルコール系現場はストロング系だな?」
機関員「言えてますね、もはやアルコール依存症の御用達って感じだ、ほらこの前のあのアパートの現場なんてビールじゃもう酔えないなんて言ってたじゃないですか」
隊長「ああ、あのアパートな…、そう言えば部屋中にストロング系の空き缶だらけだったな」
機関員「酒が弱いオレには強すぎますよ、あんなの一本とても飲めない」
隊員「甘いし炭酸だから意外と飲めちゃうんですよ、でも実際効きます、オレもとても何本も飲めないです」

お酒に関わるトラブルを抱えた方たちが最近よく好んでいるのがこのストロング系チューハイです。ビールの倍近いアルコール濃度があり、価格もビールや発泡酒よりも安価、安くてよく効く、そんなことを言う方が多いです。

アルコール中毒になる人も飲んでいることが多く、いつもよりハイペースで飲んだつもりはないと仲間が言うなんてことも多いです。いつもと同じペースで飲んでも濃度が倍ならアルコール摂取量も倍なのですが…。

安価で高濃度、コスパに優れる、救急運用に医療費、それに溺れる人たち、結果、実は高コスパかも?そんなことを考えてしまう今日この頃です。

緊迫の現場
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