インフルエンザのやせ型男性、実は…

ケーススタディ

救急車の適正利用が課題である大きな要因は、全国的にも年々増え続けている救急出場件数、その中でも安定して推移しているのは搬送者に占める軽症者の割合です。

軽傷とは入院の必要がないと判断される傷病者のこと。この割合はずっと50%程度で推移しています。10件の出場で5~6人はその日のうちに自宅に帰ることができるということです。

総務省 救急出動件数等参照)

こういう傷病者の場合、自宅の前で身支度を整えて待っていたり、自身でしっかりと歩くことができることも多いです。救急車でなければいけないのか?そんな疑問を抱くことは多いですが、いつだって油断は禁物で…。


出場指令

「救急出場、〇町〇丁目…F方、インフルエンザと診断されている方、喉の痛み、息苦しいもの、通報は男性」

との指令に救急車は消防署を飛び出しました。 真冬の晴れた日 、緊急走行する救急車内から隊員が通報電話に連絡を取ります。
(119コールバック)

隊員「もしもし、Fさんですね、そちらに向かっている救急隊の者です」
Fさん「すみません、僕です、よろしくお願いします」
隊員「ご本人ですか?喉の痛みと呼吸苦とのことですが間違いありませんか?」
Fさん「はい、実は3日前から体調が悪くてインフルエンザと診断されています、薬も飲んでいて大分良くなってきたんですけど…今朝から急に喉の痛みがひどくなってきてしまって、あと何か息苦しくて…」
隊員「そうですか、インフルエンザの治療はまだ続けているのですね?薬は飲んでいますか?」
Fさん「はい、近所のクリニックでもらった薬を飲んでいます、熱も下がったし大分良くなってきたのですけど、今朝から急にひどくなってしまって」
隊員「近所のクリニックには連絡したのですか?」
Fさん「いや、それが今日は休診日で…」
隊員「分かりました、間もなく到着しますから病院に行く準備をお願いします」
Fさん「もう家の前で待っています」
隊員「はあ、そうですか、分かりました、もう少しお待ちください」

前の座席にいる隊長、機関員に聴取できた状況を伝えます。

機関員「で、もう家の前で待っているって?」
隊員「はい、インフルエンザと診断されていて、近所のクリニックから薬ももらっているそうです、クリニックは休診日だそうです」
機関員「やれやれ、それで救急車ってわけか?」
隊員「そうは言いませんが、今朝になって急にひどくなったからと」
隊長「了解、受け答えもしっかりしているし、自宅前に出てこられるってことだな」
隊員「ええ、そうです」

意識はしっかりしており、受け答えも問題なし、自身で身支度を整え自宅前で待つことができる、重症の雰囲気はありません。…というか、軽傷の感じしかしない。指令先に到着すると大きく手を振る男性が見えてきました。


傷病者接触

傷病者のFさんは20代男性で家の前で待っていました。自宅の戸締りも保険証やもらっている薬も携行しており準備は万端、すぐに車内収容し救急車内で観察に入りました。

隊長「お話は先ほど簡単に伺いました。インフルエンザなんですってね」
Fさん「ええ、薬も飲んでいるし大分良くなってきたのですけど、今朝から急にひどくなってしまって、何か息苦しくもなってきちゃって…」
隊長「そうですか…これまで何か大きな病気はありませんか?」
Fさん「特に大きな病気はないですけど、高校の時に気胸っていうのになって数日入院したことがあるくらいです」
隊長「その時はどんな治療を?手術しました?」
Fさん「いいえ、そこまでではないって手術にはなりませんでした」

Fさんは 長身でやせ型 、 ひとり暮らしの大学生でした。このように意識状態にはまったく問題なく、血圧や脈拍、体温も正常値、ただ、確かに少し苦しそうにやや早い呼吸をしているのでした。SPO2の数値は94~95%でした。 インフルエンザと診断を受けており治療中、息苦しさと喉の痛み、バイタルサインも問題はありませんでした。

隊長「サチュレーションがちょっと低いな…」
隊員「そうですね…、呼吸音を確認します、それからモニターも」
隊長「ああ、Fさん、これから心電図の波形を確認します、ゆっくり呼吸をしてください、それから呼吸の音も確認しますよ、胸が苦しいことはないですか?」
Fさん「はい、胸が苦しいわけではないですけど…なんか息苦しいんですよね…」
隊員「Fさん、大きく吸ってください、はいて~」

心電図波形に異常はなし、ただ呼吸音がどうも…左肺が聞こえずらい…。聞こえるのだけど…、う~ん…やっぱり右より弱い…。

隊員「隊長、左の方が…何か聞こえずらいです」
隊長「どれ?私にも聞かせてください」
Fさん「はい…」
隊長「…そうだな、左の方が少し聞こえずらいな…」
機関員「隊長、呼吸器だと〇病院、それから〇病院」
隊長「あぁ、うん、呼吸器か…、酸素投与の準備して」
隊員「はい、了解です」

何やら歯切れの悪い隊長、何かが引っ掛かっている様子です。

隊長「Fさん、その喉の痛みって3日前からあるのですよね?良くなってきたのに今朝から急にまた悪くなった?」
Fさん「ええ、そうなんです、熱も昨夜には下がって、喉の痛みも大分楽になったんです、それなのにまた喉が痛くて」
隊長「熱があった時と同じような痛み?」
Fさん「いや、それが何かちょっと違うんですよね、一昨日は唾を飲んでも痛かったんですけど、そういう痛さじゃないんです、なんか変なんですよね」
隊長「分かりました、病院は私たちが近くから探しますから」
Fさん「はい、お願いします」
隊長「3次選定するぞ!隊員は酸素投与」
隊員「えっ!3次、はい…」
機関員「了解、3次選定…ですか?」
隊長「そう、3次、急げ!」

隊員も機関員も想定していなかった3次医療機関選定の判断、隊長はFさんを重症と判断し、生命の危険があると判断しているのです。この現場、隊長をサポートすべき隊員と機関員は隊長と同じイメージをまったく描けていないのです。

結果、ベテラン救急隊長の洞察力と経験に脱帽…。 ズバリ病名は何でしょうか?ヒントがかなり散らばっています。現場経験の救急救命士の卵の学生さんにも易しいかもしれません。救急隊の方には似たような経験をされている方がけっこういるのではないでしょうか?

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