消防官の父親に求められているもの

救命士のこぼれ話

今日は私がまだ救急車に乗ることもできない新人消防士の頃の懐かしいお話です。

交替制勤務の消防署員は24時間、消防署に待機し出場に備えています。待機している時間には、事務仕事をしたり食事や仮眠など仕事と共に生活があります。そこには訓練や体力練成も含まれています。

消防署の仕事は地域を守る地域密着の職業です。繁華街を管内に持っている消防署では深夜がむしろ出場の中心になり、オフィス街では夜は人がすっかりいなくなって出場も少なくなる。

この時、私が勤務していた消防署は担当地域に繁華街などない住宅街、夜は割と静かでいつもだいたい体力練成ができていました。21時頃には事務処理も片付いて、若い消防士を中心に体力練成をやっていました。この頃の私はまだ20前半の消防士、事務処理や雑用を済ませて、いつものように体力練成のできる部屋に向かいました。

体力錬成室

部屋ではすでに小隊長と機関員が体力練成をしていました。ポンプ隊の小隊長は30代、細マッチョでまさに消防官っていう感じの体形、カッコいいです。

小隊長「ふぅ~、ふぅ~…」
隊員「今日はまた、いつもに増してずいぶんと熱心にやっているんですね?」
小隊長「ああ、今週末に子供の運動会があるんだよ」
隊員「はぁ…運動会ですか、でも父兄が参加する競技なんてたいしたものがある訳ではないですよね?」
小隊長「分かってねえなぁ…消防官の父親に子供たちは何を期待しているか分かるか?」
隊員「そうですね…やっぱり身体を鍛えているし、体力があるところを見せてほしいってことでしょうか?」
小隊長「まあそうだな、子供たちだけじゃないんだぜ?周りの父兄だってあそこのお父さんは消防官をしているらしいって、そういう目で見ている訳だ」
隊員「なるほど、運動会とはいえやっぱり消防官の親父は勝たないといけない訳ですね」
小隊長「違う!消防官の親父に求められているのはただの勝ちじゃないんだ!」
隊員「はぁ…何ですか?」
小隊長「圧勝だよ!」
隊員「あっしょう…スか…」
小隊長「そうだ、ぶっちぎりで勝たないといけないんだよ、それでこそあそこのお父さんはやっぱりすごい!町の安全を守る消防官はさすがって、そうなるんだ」
隊員「はぁ…なるほど」
小隊長「お前もいずれ結婚して子供ができても、ぶっちぎりで圧勝できる体力をつけてなくちゃダメだぞ」
隊員「はい…頑張ります」
小隊長「ふぅ~ふぅ~…」

まだ続けるんだ…とても付き合っていられないや…そ~っと切り上げようっと…

この小隊長は水がのった重いホースを軽々と引っ張り火勢に突っ込む抜群の体力、消防官たるものいつも体調を整え、体力練成に励むものといつも身体を鍛えていました。


翌週…。

隊員「お子さんの運動会どうでした?やっぱり圧勝ですか?」
小隊長「当ったり前だ!今年もぶっちぎりだったぜ!」
隊員「そうでしょうねぇ…」
小隊長「でも、どこかのお父さんがおもいっきり転倒していたよ、張り切りすぎは要注意だよな?」
隊員「そうですね、普段からあまり身体を使っていない人が急にやれば怪我をしますよね?」
小隊長「そうそう、でも学校のトラックなんて走ると昔の感覚が蘇ってくるんだよな~、学生時代にスポーツに励んだ人ほど危ないな、気持ちは先に行くから上半身は前に行くんだけど、下半身が全然ついて行ってない人がいっぱいいた、あれは危ないよな?」


まだ残暑が続きますが少しずつ秋に向かって肌寒い季節になってきました。あれから大分経ちました、子供の運動会で怪我をしたお父さんを搬送したこともあります。そんなに本気になることはないと思っていながらも…競争、学校のトラック、蘇ってしまう記憶、ついつい本気になってしまいがちなもの。しかも普段運動不足ならなおさら、怪我には要注意です。この記事をご覧のみなさんもほどほどに頑張るようにしてくださいね。

119番通報する前に1秒だけ考えてほしい、 大切な人がすぐ近くで倒れていないだろうか?今、本当に救急車が必要だろうか?と。
すべては救命のために
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