みんな人殺し~救急隊員の出場状況~

救命士のこぼれ話

増え続けている救急出場

救急隊の出場状況は全国的にうなぎ登りです。救急隊の隊数は基準が設けられており、それは人口に対して決まっています。地方自治体の人口によって多少違いますが、一例として人口15万人を超える区域では概ね6万人に対して1台の救急隊が必要とされています。

つまり大都市部は人口が多いので救急車の数も多いのです。大都市部の救急隊も地方の救急隊もカバーする人口には大差がないので、出場件数はそこまで変わらないはずなのです。

ところが特に大都市部の救急隊の出場件数は伸びている。大都市部は人口密度が高いので、怪我する人や事故なども多い。歓楽街などではトラブルなども多く出場件数も増える。そういった要因はありますが、それにしてもそれだけではとても測りきれないほどの出場件数を大都市部の救急隊はこなしています。

出ずっぱりの救急隊

当サイトで紹介しているとおり、大都市部を管轄する救急隊の出場件数は多く、特に繁華街を抱えている隊は24時間で、酷いときには20時間以上もの時間で稼働することがあります。

消防官の勤務サイクルは朝の交替から翌朝の交替までの24時間勤務です。10件以上の出場をこなす際には一睡もしないで救急車に乗りっぱなしになることもあります。明らかに疲労を感じており、集中力を保って迅速な活動ができなくなることがあります…。

深夜の救急隊員たちは、休憩がまったくない中で18時間以上も稼働しっぱなし、出ずっぱり、そんなことがあるのです。これは特殊な状況ではなく、年末など救急要請が増える時期や歓楽街周辺の場所ではいつものことであったりするのです…。

増え続けているもの

何故こんな事になるのか?統計にも原因はハッキリしています。特に大都市部での救急要請はうなぎのぼりですが、毎年あまり変わっていないものがあります。中等症以上の重症、重篤、死亡の占める割合はあまり変わっていないのです。伸び続けているのは入院の必要がない「軽症の数」です。

地方都市では救急車を呼べば近所総出の騒ぎになる。ご近所の目、ご近所に迷惑をかけたくない。それでもそんなこと気にしていられない状況だから救急車を呼ぶ。

しかし、大都市部の場合はお隣さん自体を知らない。隣の人が誰なのか?顔も知らない。救急車呼んでも別に関係ない。現場で活動していて大都市部のこういったところをとても感じます。大都市部の風土なのでしょう。

近くの隊が全部出場しているからと20分以上をかけて駆けつけたら、今にも片足が落ちそうな血の海の交通事故だったことがありました。20分以上かけて駆けつけた傷病者は心肺停止だったこともありました。5分で駆けつけたら助かった、30分だから助からなかった。それは結果論、そんな事は誰にも分からない。でも間違いありません…。迅速な救護を受けられれば助かったかもしれない方がたくさん死んでいるのです、まさに今も…。

悪いのは誰?

決定的対策をとらない国が悪いのか?どうにかしない消防が悪いのか?助けられない救急隊員たちが悪いのか?簡単にタクシー代わりに救急車を呼ぶ人たちが悪いのか?こういう状況を伝えないマスコミが悪いのか?こういう状況を知らないひとりひとりが悪いのか?みんながみんな少しずつ人殺しなのではないか…?

人を助けたくて救急隊員になったのに、助けられたかもしれない現場に行く…、そして助けられないで死んでいく。大都市部に勤める救急隊員のこの苦しみを少しでも分かってもらいたい。救急車を呼ぶ時、少しで良いから考えてほしい。

いつだって救急隊が命の危機に瀕している傷病者の下に駆けつけ、迅速な処置で救命する。そんな当たり前だと思われていたことは、実はまったく当たり前ではないのです。当たり前のことを当たり前にさせてほしい。

119番通報する前に1秒だけ考えてほしい、 大切な人がすぐ近くで倒れていないだろうか?今、本当に救急車が必要だろうか?と。
すべては救命のために
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