ヒントは現場に落ちている

ケーススタディ

救急隊が駆けつける先では緊急事態が起こっています。現場は混乱しており、重要な情報が取れないことは想定される事態です。

救急隊は傷病者の状況や病態が分からない時、それを導くヒントを探します。それは観察から導けることであったり、家族の話からであったり、時に現場に落ちていたりするのです。それをどのように探し出すか、救急隊には知識はもちろん冷静な判断、広い視野、経験など様々なものが必要です。

出場指令

消防署に出場指令が鳴り響きました。

「救急隊出場、○町○丁目…Bさん方急病人、男性は意識もうろう、通報は妻から」

との指令に救急車は消防署を飛び出しました。

現場到着

指令先のBさんのお宅は住宅街の一軒家、私たちの受け持ち区域であったためすぐに到着できました。案内に出てきたのは60歳くらいの奥さんでした。

隊長「救急隊です、ご通報を頂いた奥さんですか?」
奥さん「はい」
隊長「どうされましたか?ご主人の様子はいかがですか?」
奥さん「今は話ができるようになりました、通報した時は何かもうろうとしていて様子がおかしかったです」
隊長「そうですか、どちらにいますか?」
奥さん「こっちです、お願いします」

傷病者接触

傷病者は60代の男性でBさん、部屋のリビングの椅子に座っていました。坐位を保つことができる、こっちを見ている、意識はあると判断できる。

隊長「おはようございます、救急隊です、分かりますか?」
Bさん「?」
隊長「Bさん、おはようございます、救急隊です、どうされましたか?」
Bさん「救急隊?え…ああ…どうも…」
隊長「奥さんがご様子がおかしいからと私たちを要請されたのですよ、分かりますか?」
Bさん「はあ…?」
隊長「Bさん、お名前を教えていただけますか?」
Bさん「…?」

Bさんはキョトンとした表情で質問の意味が分かっていませんでした。隊長がBさんに話しかけている間に隊員は身体に触れ状態を観察していました。

隊員「除脈です、それに不整もあります、モニターしますよ」
隊長「ああ、意識レベルも悪いし酸素投与、バイタル測定と搬送準備を進めてくれ」
隊員・機関員「了解」
隊長「ご主人の日常はどうなのでしょうか?私の質問に答えられないような事はありますか?」
奥さん「そんな事はありません、やっぱり様子がおかしいです、さっきまではもっともうろうとしていて酷かったです、今は少し良くなっています」
隊長「そうですか…ご主人は何かご病気をお持ちでしょうか?」
奥さん「慢性腎不全で人工透析をしています、それから糖尿病があります」
隊長「それは糖尿病を起因としての腎不全ですか?」
奥さん「はい、糖尿病を患って、それから腎も悪くなりました」

奥さんの話によるとBさんは40代の時に糖尿病を患い次第に腎臓も悪化、数年前から人工透析を導入するようになった。他には特に病気はないとのことでした。

隊長「人工透析はいつ実施していますか?」
奥さん「月・水・金です」
隊長「今日は日曜日だから一昨日に実施したのが最後ですね」

バイタルサインは意識レベルJCS3、呼吸は18回/分程度、血圧は収縮期で100mmHg程度、脈拍は40~50回/分程度で明らかな不整がある、酸素飽和度は90%程度、酸素投与ですぐに99%となりました。

隊員「この波形、それからこの除脈、血圧も低い、意識レベルが落ちたのもこれが原因かもしれませんよ」
隊長「アダム・ストークスか…でもブロックではなさそうだな?」
隊員「いや…どうだろう?この波形ではP波が分からないです」

心電図で特徴的でだったのはP波が不鮮明…と言うより欠落していたこと。QRSが幅広であったこと、T波がR波より増高していたことでした。さらにこの現場にはヒントが落ちていました。

隊長「そのテーブルに果物がありますが、ご主人はそれを召し上がってはいませんよね?」
奥さん「いや…実は少し食べています」
隊長「食べている?果物は気をつけるように言われていませんか?」
奥さん「ええ…医師にもそう言われているのですが、実は昨日、孫が遊びに来たものですから…」

奥さんによると、昨日は孫が遊びに来たのでケーキを用意していた。ケーキにはたくさんのフルーツがのっており、さらにテーブルにも果物があった。詳細な量は分からないがBさんも食べているはずとのことでした。家族から得られた情報からのヒント、傷病者観察から得られたヒント、そして現場に落ちていたヒントが答えを導き出してくれました。

隊長「これは間違いないな、バイタルも良くないし3次選定しよう、AEDはパッドに張り替えてから搬送するぞ」
隊員「了解です」

隊長は緊急度が高いと判断し3次高度救命救急センターへの搬送を判断しました。パッドとは除細動を打つことのできるAEDのパッドです。これから搬送に際してBさんは容態変化し電気ショックを打つかもしれないほど危険な状態であるとの判断です。



クエスチョン編はここまでです。搬送先の医師からも3次選定で間違いないと評価してもらいました。ズバリBさんの傷病名は何だったでしょうか?典型的なヒントがいくつもあります。現役の救急隊の方、救急救命士の卵や学生さんなど皆さまからのコメントをお待ちしています。

続・ヒントは現場に落ちているに続く



119番通報する前に1秒だけ考えてほしい、 大切な人がすぐ近くで倒れていないだろうか?今、本当に救急車が必要だろうか?と。
すべては救命のために
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