続・ヒントは現場に落ちている

ケーススタディ

この記事はヒントは現場に落ちているの回答編です。

車内収容

隊長「Bさん、分かりますね?お返事できます?」
Bさん「…?」

Bさんの様子は変わらない。バイタルサインにも変化はありませんでした。

機関員「搬送先は○病院救命センターで受入可能、出発します」
隊長「了解」

搬送途上

隊長「Bさん、Bさん、分かりますか?」
Bさん「ええ、あれ?分かります、あれ?」
隊長「救急車ですよ、私たちは救急隊です」
Bさん「救急隊、ああそうですか」

急に我に返ったBさん、しっかりとした口調で話しができるようになりました。

隊員「脈拍が90まで上がっています」
隊長「ああ、本当だな、さっきより覚醒している」

かと思えば…Bさんは再びうつろな表情になる。容態変化かと冷や冷やする救急隊、AEDのモニター音が救急車に響いている。

ピ・・・・・・・・・・ピ・・・・ピ・・・・・・・・・・・・・・・・・ピ・・・

とにかく遅い…。

隊員「隊長、脈拍が20くらいです」
隊長「分かってる、総頸動脈でしっかり触れている、大丈夫だ…」

いつ容態変化するだろう?いつ心停止に陥ってしまうのだろう?冷や冷やしながらの搬送途上でした。Bさんの脈拍数はずっと不安定で脈拍数が上がれば我に返り、下がればもうろうとするのです。脈拍数がこれだけ遅くなれば循環に異常をきたします、つまり脳血流量も落ちてしまう。だから意識状態が悪くなってしまう。この症状はやはりアダム・ストークスで間違いなさそうです。

病院到着

Bさんはどうにか容態変化することもなく、病院到着時にはむしろ意識レベルは良くなっていました。医師からの質問に応えています。

救命医「意識はしっかりしているんだね」
隊長「今は…です、搬送途上も良くなったり悪くなったりを繰り返していました、とにかく不整脈が著明で、脈拍と同期して意識レベルも変化しました」
救命医「状況は聴いているけど高カリウム血症を疑ったからうちだよね?」
隊長「はい、そうです」

隊長はこれまでの経過、そして現場に落ちていた様々なヒントについて説明しました。

救命医「なるほど確かに高カリが濃厚だね」
看護師「血ガスでました、カリウム7.8です!」
救命医「7.8!すぐに透析の準備!」
隊長「先生、カリウムが7.8と言うとやはり危険なのでしょうか?3次選定で良かったですか?」
救命医「ええ、相当に危ないです状態です」

「高カリウム血症 重症」

帰署途上

隊員「やっぱり高カリでしたね、現場にヒントはあったけど、果物を食べたってよく分かりましたね?」
隊長「テーブルの籠にみかんとバナナが見えたのだよ、腎不全患者にカリウムは危ないからな、もしかしたらって思ったんだ」
機関員「さすがの洞察力、気がついたか?」
隊員「いいえ…全然気が付かなかった…カリウムのリスクなんて思いつきもしなかった」
機関員「ところでみかんもバナナもカリウムって多いの?」
隊長「さあ?どの果物がどのくらいのカリウムが含まれているかまでは知らないよ…」
隊員「ちょっと調べてみます、救急隊の現場では生かせない知識だろうけど」
機関員「学びがあるな〜こう言うのを現場力って言うんだよな?できる救命士への道は遠いな?」
隊員「はい、果てしなく…」
隊長「ヒントは現場に落ちていることがあるんだ、緊迫している現場こそ立ち止まって周りをよく見てみると良いぞ」
隊員「はい、勉強になりました」
機関員「足下のヒントが見えていないようじゃ果てしない先なんて見えないぜ?毎日が勉強だな?」
隊員「はい…頑張ります…」
機関員「うむ」

うむじゃねえよ、偉そうに…。あんたも気が付いていなかっただろうが!



この事案では、意識状態が悪く傷病者からは情報が取れませんでした。慢性腎不全で人工透析を行っているという現病歴があった。観察から著明な不整脈、心電図ではP波消失、幅広のQRS、T波増高など特徴的な症状が出現していた。決め手となったのは昨日の行動、孫と共に果物を食べているかもしれないと言うこと。現場には様々なヒントが落ちていたのでした。

ただ、これらヒントに気が付き拾い集め、確信を持つまでに高めたのは隊長の現場力です。悔しいけど機関員の言う通り、足下すら見えていないようでは果てしない先なんて見える訳がない。できる救命士への道は果てしなく遠い。


119番通報する前に1秒だけ考えてほしい、 大切な人がすぐ近くで倒れていないだろうか?今、本当に救急車が必要だろうか?と。
すべては救命のために
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