突然の背部痛、足背触れず

ケーススタディ

今回のお話は緊急度・重症度を判断する上でいくつか重要な所見がでており、救急隊としては適切な医療機関に早期に搬送できた事案でした。

出場指令

「救急出場、○町○丁目T方、男性は背部痛、通報は妻から」

との指令に救急隊は出場しました。現場は受け持ち区域、数分で到着できる距離でした。

現場到着

Tさん宅は住宅街の一戸建て、家の前には手を振る女性の姿がありました。

隊長「ご通報いただいた奥さんですね?」
奥さん「はい、こっちにいます、お願いします」

奥さんは玄関には入らず家の脇から庭先へと案内しました。

奥さん「夫が庭でゴルフの練習をしていたら急に背中が痛いと言い出して、あまりに痛そうで動けないようなので119番しました」
隊長「それは突然にですか?」
奥さん「はい、私が洗濯物を干そうとしたら急にそんなことを言い出して…」

傷病者接触

傷病者のTさんは50代の男性、庭でうずくまっていました。

隊長「救急隊です、お待たせしました、どうされましたか?」
Tさん「お願いします…スイングしたら…急に背中に痛みが走って…」
隊長「痛くてとても動けないですか?」
Tさん「ええ…何だろう、痛くて堪らない…」

Tさんは50代に多い中年体型、よく運動している方には見えませんでした。

隊長「ゴルフはよくやるのですか?」
Tさん「いや、実は久しぶりに行くことになって、倉庫の奥からクラブを出してきました、これから打ちっぱなしに行こうと思っていました」
隊長「筋肉痛とか、肉離れとか、そう言う類の痛みとは違いますか?」
Tさん「ええ、私もそうかと思ったのですけど、それがどうも…何か違うみたいで…」

自宅の庭でゴルフの練習をしていたところ急に背中に痛みが走り、激痛で動けなくなってしまったとのことでした。パっと見て顔色は優れない、ただ蒼白と言うほどではありませんでした。隊長が傷病者に問いかけている間に隊員はTさんの身体に触れ脈を取っていました。

脈拍は…ん?触れないぞ…いや触れている、でもとてもとりずらい、頻脈だな、それに…

隊員「Tさん、ゴルフの練習はどのくらいされたのですか?ずいぶんと汗をかいていますが?」
Tさん「いや…5分やったかやらないか、本当に少しクラブを振っただけです」
隊員「隊長、脈拍はずいぶんととりずらいです、それから冷汗があります」
隊長「分かった、このままじゃモニターも取れないからまず車内収容しよう、ストレッチャーはここまで入るか?」
機関員「ひとりじゃ無理です、隊員と二人で持ち上げながらならここまで持ってこれますよ」
隊長「それなら二人でここまで持ってきてくれ」
隊員・機関員「了解です」

Tさんはうずくまり背部の激痛で動けないと訴えていました。このままでは詳細な観察はできないし、傷病者にも負担になるだろうと隊員と機関員は玄関前に置いてきたストレチャーを取りに向かいました。

隊長「Tさん、今あなたを搬送するストレッチャーをここまで持ってきます、そのままご自分が一番楽な姿勢を保っていてください、これから酸素マスクをさせてもらいます」
Tさん「はい…」

測定していたサチュレーションは90~93%程度を示していました。酸素投与ですぐに98%程度に改善しました。

車内収容

Tさんをメインストレチャー上に坐位とし車内収容しました。

隊員「Tさん、血圧や心電図をとらせていただきます」
Tさん「はい」
隊長「これまでに大きなご病気はないと言うことですね?」
奥さん「ええ、手術も入院もいっさいありません、とにかく元気な人で病院になんて何年もかかっていません」
隊長「そうですか、分かりました」

心電図は特にこれといった不整脈はありませんでした。ただ、脈拍は130回/分程度、血圧は収縮期が100mmHgでした。

隊長「血圧は反対側でも測定しろよ」
隊長「了解です」
隊長「Tさん、普段の血圧はどのくらいですか?特に問題はありませんか?」
Tさん「ええ、会社の健康診断でも指摘されたことはありません、いつも120か130程度です」
隊長「分かりました、痛みの位置はどうですか?先ほどと変わっていませんか?」
Tさん「ええ、さっきまではこの…肩の、この辺りが痛かったのですが、今はここら辺ですね背中です」
隊長「一番痛い場所は先ほどよりも少し下がってきていますか?」
Tさん「ええ、そうですね」

反対側の上腕でも血圧測定しましたが、収縮期で100mmHg程度、左右差はありませんでした。ただ…

隊員「Tさん、もう一度足を触らせてください」
Tさん「ええ」
隊員「隊長、ちょっと触知してもらって良いですか?触れますか?触れていないと思うのですが…」
隊長「どれ?…う~ん、そうだな分からないな…」

Tさんの足背動脈を触知しようとするもどちらも触知することができませんでした。

隊員「これは間違いないですよ」
隊長「ああ、オレはご本人と奥さんに説明するから搬送連絡を実施してくれ」
機関員「了解です」



 クエスチョン編はここまでです。タイトルだけでも分かりそうな典型的な症状がいくつかあります。ズバリ、傷病名は?たくさんのコメントをお待ちしています。続・突然の背部痛、足背触れずにつづく。



119番通報する前に1秒だけ考えてほしい、 大切な人がすぐ近くで倒れていないだろうか?今、本当に救急車が必要だろうか?と。
すべては救命のために
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