熱性痙攣じゃないぞ…

ケーススタディ

救急隊が未就学児の下に駆けつける現場の中で、かなりの頻度を占めているのが突然の痙攣(けいれん)です。お子さんが突然、痙攣を起こし慌てた両親が救急要請に至るという場合が多いです。

痙攣を起こしている際には顔色や唇が真っ青になり、通報者がかなり慌てていることも多いです。ただ、数分で治まることがほとんどで、救急隊が駆けつけた時には治っていることがほとんどです。こんな事案の場合、搬送先医療機関での初期診断は「熱性痙攣」との傷病名がついて軽症と判断されることがとても多いです。

結果的に軽症であっても、痙攣する我が子を見れば慌てて119番する両親の気持ちは本当によく分かります。救急車内で「あのまま死んでしまうのではないかと思って…」よくそんな言葉が聞かれます。「結果的には熱性痙攣で軽傷」は、救急隊が本当によく出会うあるあるの事案です。お子さんの発熱・痙攣と聞けば「熱性痙攣」だろうと想像しない救急隊はいないのではないでしょうか?

ただ、例外に出会うのが現場なのです。

出場指令

「救急出場、○町○丁目…W方急病人、1歳の女児は痙攣、通報は母親から」

との指令に私たち救急隊は出場しました。

機関員「1歳の痙攣か」
隊員「熱性痙攣ですかね」
機関員「ああ、多分ね」

要請先のWさん方までは10分ほどで到着できる距離です。緊急走行する救急車の後部座席から、隊員は通報電話に連絡を取り情報聴取しました。熱性痙攣の場合、痙攣は数十秒から数分程度で消失することがとても多いです。よくある事案の場合であれば、コールバックのこの時点で、今は治まっている、そんなことが非常に多いのですが…

119コールバック

隊員「もしもしWさんですね?119番通報していただいたお母さんでしょうか?救急隊です、急いで向かっています」
母親「救急隊!早く来て、お願いします」
隊員「今のお子さんのご様子を教えていただけますか?」
母親「あの…あの…まだ痙攣が続いていて、早く、早く来てください!」
隊員「落ち着いてください、救急隊は急いで向かっています、お子さんはまだ痙攣が続いているのですね?」
母親「はい、まだ続いています、真っ青な顔色をしています」
隊員「呼吸はできていますか?」
母親「呼吸は…はい、呼吸はすごく早くしています、苦しそうで、早く!」

隊員は慌てている母親に気道の確保、口の中が粘液や嘔物でつまらないようにと指示し電話を切りました。隊長と機関員に聴取できた状況を報告します。

隊員「傷病者は1歳の女の子、まだ痙攣が続いているそうです、お母さんはかなり慌てています、呼吸がしやすいように気道の確保を指示しました」
隊長「了解、通報から5分、痙攣は10分以上は続いているな、これは熱性痙攣じゃないぞ…」
隊員「了解です、小児用のアンビューマスクも用意しておきます」

現場到着

傷病者は1歳になったばかりの女の子でした。部屋の床上に仰向けでおり、顔貌は蒼白、白目をむいて全身性の痙攣が続いていました。

隊長「酸素投与!急げ!」
隊員「了解」

痙攣が継続している、この顔色は呼吸がしっかりとできず、全身に酸素が運べていない状況であることがすぐに判断できる。緊急度が高いことは明らかです。隊長が傷病者の観察を進め、隊員はすぐに酸素投与の準備を始めました。

隊長「意識レベルはJCS300、呼吸は36回、浅いけど止まってはいない」
隊員「酸素投与開始、今のサチュレーションは…80%代です」

傷病者は全身の硬直性痙攣が継続していました。呼吸はできていましたが相当に浅く充分な換気ができているかどうか…SPO2は80~85%くらいを示し不安定です。瞳孔は上方を向いていました。何よりこの顔色、酸欠状態であることは明らかです。体温は40℃でした。

隊長「お母さん、お子さんは過去にも痙攣を起こされたことはありますか?」
母親「いいえ、初めてです」
隊長「痙攣を起こしてすぐに救急車を呼びましたか?」
母親「はい、すぐに119番しました」
隊長「分かりました、と言うことは、もう10分以上は続いているな」
隊員「隊長、サチュレーションは99%まで上がりました」
隊長「了解、呼吸は出来ているな」
隊員「はい、ただ痙攣は治まりそうにないです、ずっと続いている」
隊長「お母さん、状況を教えてください」
母親「はい、実は3日前から熱があって…」

呼吸状態は浅く早い、高濃度の酸素投与でサチュレーションはすぐに改善しました。母親からの情報だと3日前から発熱があり、近所の小児科のクリニックを受診しました。この時は風邪だろうと解熱薬などをもらい帰宅、医師からは症状が治まらないようならばまた受診するよう指示されました。この3日間、熱は37〜39℃の間で推移、あまり良くはならなかったとのことでした。

痙攣がもう10分以上も続いている…これは熱性痙攣なのだろうか?1歳になったばかりの赤ちゃんか…ひょっとして?隊員は傷病者の頭を触りました。これは…やっぱり!

隊員「隊長、ここ、ほらここを触ってみてください、膨隆している」
隊長「どれ?本当だ!これは緊急度も重症度も高いな…」
隊員「はい、間違いないです」
隊長「分かった、3次選定するぞ」
機関員「了解、選定に入ります」

救急隊は緊急度も重症度も高いと判断、直近の3次救命救急センターへの搬送を判断しました。クエスチョン編はここまでです。緊急度も重症度も高く3次医療機関への搬送は正解でした。もちろん熱性痙攣ではありません。ズバリ傷病名は何だったでしょうか?

今回の事案の場合、ヒントから傷病名までも想定し、かなり確信を持って3次選定しました。仮にこれが無くてもバイタルから緊急度・重症度判断は高いと判断したと思います。皆さまからのたくさんのコメントをお待ちしています。続・熱性痙攣じゃないぞ…に続く。

119番通報する前に1秒だけ考えてほしい、 大切な人がすぐ近くで倒れていないだろうか?今、本当に救急車が必要だろうか?と。
すべては救命のために
この記事に対するご意見・ご感想をお待ちしています。SNSでのコメントを頂けると嬉しいです。

@paramedic119 フォローお願いします。