大阪府に住む主婦、橋本幸子さん(78)=仮名=の夫(80)は認知症で要介護4。昨秋、やっと特別養護老人ホームに入ることができた。
家で介護していたころ、橋本さんは夫の夜間徘徊や失禁の後始末で寝る間もなかった。橋本さん自身、障害3級の要支援2。在宅介護に疲れ果て、特養入所を相談していた折り、夫が膀胱(ぼうこう)がんだと分かった。
ところが、治療が難航した。カテーテルを埋め込む手術が必要なのに、病院から「徘徊する人に常時スタッフを付けられないので、うちでは手術できない」と断られた。別の病院が「何とかやりましょう」と言ってくれたが、「徘徊する人は個室に入ってほしい」と言われ、個室代を払った。
入院中も気は休まらない。夫は「オレは健康なのに何で検査ばかりするのか」と文句を言い、夜中に別の病室の機械に触り、病院から「迎えに来てください」と連絡を受けた。
退院したら、入所できそうだった特養から「がん患者さんの通院に付き添えない」と入所を断られた。
あれこれ探した施設の中には、医療も介護も受けられそうなところもあった。しかし、「月に20万円出せますか」と聞かれて断念した。年金は夫婦合わせて月20万円。20万円払ったら暮らせない。
そんなある日、夫が徘徊から行方不明になった。捜索願を出しに行った警察署で問わず語りに話したら、警察官が「がんで認知症だと施設に入れないなんて、そんなおかしなことはない。何のための施設だ」と、福祉事務所にあたってくれた。それが奏功したのかどうか。別の特養から連絡があり、入所が決まった。
ただ、「通院にはご家族が付き添ってほしい」と言われた。橋本さんは今、タクシーを使い、隔週で夫の通院に付き添う。
悩みは尽きない。特養からは「尿道カテーテルを外せないか」と相談される。夫が外しかねないが、特養は拘束しない方針だからだ。病院で「外せない」と言われ、橋本さんは特養に伝えた。「どうぞ、どうぞ縛ってください。私は文句を言いません」
橋本さんは言う。「こんなことがいつまで続くんでしょうか。施設費と医療費とタクシー代で貯金は底をつきました。認知症でがんでも、落ち着いて治療と介護を受けられる先はないのでしょうか」
2010.6.3 産経新聞からの引用記事
2010年6月3日の産経新聞の引用記事です。
記事で紹介されている行き場のない高齢者の現状は救急隊もよく目の当たりにしています。こういった問題が根底にあるのが大きな要因になっていると思うのですが、搬送先医療機関を選定する上で苦慮する要因として「高齢者」、「認知症」があります。さらに身寄りのない高齢者、さらにその方が認知症となると選定は難航します…。
以前出会った一人暮らしのお年寄りは生活保護を需給している方でした。町の福祉事務所の担当者がもう一人暮らしは難しい状況だからと様々な機関に受け入れを打診していましたが、腰椎圧迫骨折があるため介護施設からは治療が完了していない方は受け入れられないと言われ、医療機関からは入院し治療しなくてはならないものではないからと言われ、結局、一人暮らしを続けているのでした。(ラーメンを作ってくれないかしら)
救急医療機関の受け入れの問題が「受け入れ拒否」だとか「たらい回し」などと言う言葉でマスメディアをに賑わせていますが、似たような話は介護の世界でも起こっているようです…。この問題も様々な方面に渡り、またその根が相当に深そうです。
人類史上類を見ない高齢化社会を迎えようとしている日本、これからますます行き先のないお年寄りは溢れていくこととなっていくと思います。救急隊もこの手の問題に触れる機会が増えてきました。
119番通報する前に1秒だけ考えてほしい、大切な人がすぐ近くで倒れていないだろうか?今、本当に救急車が必要だろうか?と。
すべては救命のために
この記事に対するご意見・ご感想をお待ちしています。twitterなどSNSでのコメントを頂けると嬉しいです。