救急車の有料化どう思う?

時事ネタ

救急車の有料化どう思う?…「緊急性の高い人を救う」「頼れる存在、無料で」

[The論点]

 救急車で病院に運ばれる人が増えています。昨年は全国で過去最多の676万人でした。しかし、その約半数が軽症で、通報も緊急を要しない内容が目立ちます。搬送先の病院が軽症者に費用負担を求める動きも出ています。実質的な救急搬送の有料化ですが、皆さんは認めますか?

[A論]搬送に多額のコスト

 三重県松阪市と周辺自治体などから救急搬送された人について、入院を要しないと病院が判断した場合、患者に7700円の費用負担を求める取り組みが2024年6月に始まりました。かかりつけ医などの紹介状なしに200床以上の病院を受診した時に徴収する「選定療養費」という制度を活用したものです。

 導入の背景には、救急搬送の増加があります。松阪市などの搬送者数は、23年に1万5525人となりました。一方で軽症者は6割近くを占めました。救急要請が重なって到着に時間がかかり、真に緊急対応を要する人を救えなくなる懸念が高まっていました。

 導入にあたった松阪市健康づくり課の西口裕登・保健担当監は「救急車を呼ぶか立ち止まって考えてもらうきっかけに」と狙いを説明します。24年の搬送者数は1万3642人と23年から12・1%減りました

 夫の搬送を要請したことがある松阪市の隣の明和町に住む女性(85)は「軽症の人にお金がかかるのは仕方ないと思います。助けてほしい時に呼んで、お金がかかったとしても納得します」と言います。西口さんは「導入後、救急車の要請が本当に必要か考えてくれる人が多くなった」と手応えを感じています。

 茨城県でも昨年12月、22病院が緊急性のない軽症者から費用の徴収を始めました。今年2月までの3か月間で、搬送者に占める軽症者の割合は38・7%と、前年同期の44・0%から5・3ポイント減りました。

 6月、横浜市で開かれた日本臨床救急医学会で、救急搬送の実質有料化についての討論が行われ、会場の8割が有料化を支持しました。「救急搬送での選定療養費の徴収は、消防機関の収入にはならないが、1回の搬送に多額のコストがかかっていることを知ってもらう機会となり、適正な利用につながってほしい」といった意見が出ました。

 神奈川県の救急救命士の男性(28)は、「『1週間前から腰が痛い』など明らかに緊急性のない要請もある。無料だから安直に呼んでいる印象もあり、対価として費用負担を求めてもよいのでは」と打ち明けます。

 東京消防庁によると、23年にあった約110万件の119番のうち、緊急性のない問い合わせや無関係な内容が2割に上りました。

 日本救急医学会理事で、横浜市大の竹内一郎教授(救急医学)は「少子高齢化が進む中、自治体の財源に限りがあり、救急搬送を無料で提供しつづけることは無理がある。救急医療を持続可能にするため、有料化について広く議論する必要がある」と訴えます。

[B論]「要請ためらい」危惧

 救急搬送の有料化で要請をためらって、必要な措置を逸してしまうのではという懸念の声が上がります。津市消防本部消防救急課の阪茂明副参事も同意見で、「有料化の前にできることがある」と言います。救急車の運用にかかる費用は、消防組織法で市町村が負担すると定められています。津市でも救急搬送が増えていますが、定年を迎えた救急救命士を延長雇用するなどして、救急隊を増やして対応しています。

 不安を感じる患者もいます。持病のため、倒れて救急搬送されることがあるという愛知県の大学院生(40)は「できれば救急車を使わずに過ごしたいのですが、本当に助かっています。生活に余裕はないので、有料化になると救急車を呼びにくくなるかもしれないという怖さを感じます」と話します。

 名古屋市立大の松嶋麻子教授(救急医学)も有料化は救急車の適正利用の解決策にならないとの立場です。「お金を払っているんだから」とタクシー代わりでの利用が逆に増える可能性を指摘したうえで、「搬送要請に一律に出動するのではなく、緊急性が低い場合は、救急車以外の方法を勧める仕組みに」と訴えます。

 救急車の適正利用に向けて、「普段から、どのような時に救急車に頼るべきか、市民自身が学んでおくことが重要だ」と日本医療政策機構の阿真京子フェローは主張します。

 東京都練馬区や杉並区などでは、子どもが生まれたばかりの家庭を対象に、子どもの発熱時に気をつける点や、119番が必要な症状について小児科医が解説する教室を開いています。

 救急相談窓口の「#7119」も救急車を呼ぶかどうかの判断の助けになります。東京都の会社員、平田貴美子さん(56)は、約15年前、救急車を呼ぼうか迷ったことがありました。当時、生後6か月だった長女が目を離した隙に、お菓子の乾燥剤を口に入れてしまいました。#7119に電話し、「病院にかからなくても大丈夫」と言われ、安心したといいます。「救急車が必要かどうかの判断は、素人には難しい。とっさに相談できて助かりました」と振り返ります。

 各自治体では、救急車に代わってタクシーなどが患者を病院に運ぶ取り組みも広がっています。名古屋市の医療支援企業「フィルタス」は、消防機関と同水準の機能を備えた民間救急車を運用しています。同社の救急救命士、渡辺翔太さん(35)は「交通手段や周囲の助けが乏しい場合は、救急車を呼ぶしかない人もいる。民間救急車を上手に活用して」と呼びかけます。

出動増え 到着まで10分

 救急搬送の増加に伴い、119番から救急車が現場に到着するまでの時間も延びています。総務省消防庁によると、2023年の所要時間は全国平均で10分と、13年から1分半長くなりました。同庁の担当者は「出動が重なることが一因」と説明します。

 心肺停止の場合、救命処置が1分遅れるごとに救命率は7~10%下がるといわれています。23年に搬送された人の48.5%は入院を必要としない軽症者でした。

 救急車が出動するのに実際どれぐらいの費用がかかっているのでしょうか。神戸市が23年度の1件当たりのコストを試算したところ、人件費や燃料代などを合わせ4万5469円に上ることがわかりました。15年度には同庁の検討会が、救急車の有料化について議論しました。全国の消防本部から「経済的な理由で119番を控え、結果的に重症になる恐れがある」といった意見が上がり、「引き続き慎重な議論が必要」という結論になりました。それ以降、国は有料化の議論を行っていません

 この検討会では、海外の事例も紹介されました。米ニューヨーク市では、救急救命士が同乗する場合、10万円以上請求される一方、フランスやドイツでは医療保険から費用が支払われるといいます。さいたま市民医療センターの坪井謙・救急総合診療科長は「日本と同様に無料の英国でも救急車の対応の遅れが課題になっている。有料化を含めた費用負担のあり方について検討する時期に来ている」と話しています。

2025年7月18日 読売新聞記事からの引用



2025年7月18日、読売新聞からの引用です。読売新聞さん、とても分かりやすい記事を本当にありがとうございます。

選定療養費の徴収、実質救急車の有料化、これが適正利用の推進に繋がるか否か、A論にもB論にも理があり本当に難しい問題です。

救急車の有料化の議論はもう数十年も前からありました。まさに人命に関わる問題であるため具体的な進展はないままだったのですが、昨年から松阪市茨城県が救急車で搬送された軽症者を選定療養費を徴収する対象とする対策を実行しました。結果、どちらも救急要請は減りました。

一方でB論、ためらい危惧です。記事にもある通り救急車が必要かどうかの判断は、素人には難しい。水戸市はこのためらいの対策に動きました。

賛否はあれど、何十年も前に進まなかった話が具体的に動き始めています。具体的対策に舵を切った松阪市、茨城県は国の対策を待っていられる状況ではなくなってしまった。動かざるを得ないところまで追い詰められてしまったと想像してしまうのは私だけでしょうか?この市町村、県レベルでの動きは国を動かすことになるのでしょうか?

記事からの数字を整理してみると、2024年に救急車で病院に搬送された人数は全国で676万人で約半数が軽症だった。2024年の日本の人口は1億2380万2千人なので…

「123802000÷6760000=18.313」昨年は日本にいる約18人にひとりが救急車を利用した。
「6760000×48.5%=3278600」昨年救急車で搬送された約330万人は軽症だった。

2023年神戸市の試算によると救急車の一回の出場コストは約45000円だった。

適正利用とは何だろう?これら数字は適正だろうか?何をもって適正とするのだろう?難しすぎるけれども…果たして国の議論は再開するでしょうか?


119番通報する前に1秒だけ考えてほしい、 大切な人がすぐ近くで倒れていないだろうか?今、本当に救急車が必要だろうか?と。
すべては救命のために
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