断らない救急病院の裏事情の裏話

救急救命士の現実
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救命士のこぼれ話

前回、救急車の受け入れ率が急向上した「断らない救急病院の裏事情」をご紹介しました。賛否はあるのかもしれないけれど、医師や看護師のボーナス査定に救急車の受け入れ件数を直結させるという、きわめて合理的かつ生々しい制度改革です。実際、救急隊にとってこの上なく頼もしい存在となっていました。

しかし、人の集合体である組織が作る制度に、完璧なものなどありません。どれほど素晴らしい仕組みであっても、そこには必ず裏の事情や制度の歪みが生じるものです。今回は裏事情の続き、裏事情の裏話です。

処置室に貼られたスローガンの重み

世は師走、一年の中でも特に救急要請が増加する季節です。多くの救急隊が疲弊するこの時期であっても、この病院の救急受け入れ率は高い水準をキープしていました。処置室の壁にはスローガンが貼り出されていました。

『今年の目標–救急受け入れ〇千件–』

一丸となって救急車の受け入れに尽力してくれている。救急隊としては本当に頼もしい、本当に感謝しかないです。

「年間〇千件以上の救急車受け入れ数を目標とし、断らない救急病院を目指している」こんな情報はあっという間に周辺一帯へと広がっていました。周辺の救急隊はもとより、選定が難航した遠方の救急隊までもが、そう簡単には救急車を断らないこの病院に集まるようになっていったのです。

救急処置室にて

指定されたベッドへと傷病者を移しました。隊長はベッド脇で担当医師の到着を待っていました。そんな中、病院の電話が鳴り響きました。応答したのは看護師でした。その内容は、奥にいる医師へと伝えられます。

看護師「先生、当院にかかりつけの患者さんからです、娘さんの車でこれから向かいたいと、来てくださいと伝えて良いですか?」
医師「緊急性を否定できないから、救急車で来るように伝えて、診察はできます」
看護師「承知しました」

看護師は受話器に向かい、患者側へと伝えます。

看護師「もしもし、お待たせしました、当院で対応できます、先生が診察するとおっしゃっていますので、救急車で向かってください…え?ええ…ですから救急車で…、はあ、ちょっとお待ちくださいね」

電話口で戸惑っているのか、看護師は再び医師に確認をとりました。

看護師「先生、娘さんの車で行くことができると、すぐに向かえるからと言っているのですけど…」
医師「その症状は緊急性が否定できないから、救急車で来るように伝えてください、診ますから」

唖然とする隊長、自家用車ですぐに行くと言っているのに…。でも、こうなるのも頷ける…。

帰署途上

機関員「なるほどね、受け入れ率向上の裏事情には続きがあったか…」
隊員「裏事情の裏話ですね、確かに救急隊の受け入れ率は向上した、でも自分で来ると言う患者さんが救急車で来れば、さらに受け入れ件数も受け入れ率も向上できる…人間が作る仕組みって、やっぱり表と裏が生じるものですね」
隊長「どんな症状で連絡してきたかは分からない、医師は実際に緊急性があるから救急車でと、医学的な見地から指示したのかもしれないけれど…、ただ…そうは感じられなかったんだよなぁ…」

処置室での医師と看護師とのやり取りは、救急搬送数を高め、救急受け入れ率を向上させるための一つの手段であったのか否かは分かりません。しかし、少なくとも「家族の車ですぐに行ける」という患者さんへの「救急車で来てください」との指示を目撃してしまいました。

隊員「医学的な見地からの指示だったとしても、救急車でとなるとそこから119番通報、この時期に救急車がすぐに駆けつけられるかなんて分かったもんじゃない、救急隊が駆けつけて話を聞いて、バイタルサインを測定してって…、その患者さんがどこから来るかは分からないけれども…」
隊長「ああ…多分、そのまま自家用車で来た方が圧倒的に早いだろうな…」
機関員「でもなぁ…実際、この病院の受け入れの良さには助かってるぜ?」
隊長「それもまた事実だな、「当院では対応できないから救急車を呼びなさい」って指示する病院があるんだ、「救急車で当院に来てください」って病院は、それでもありがたい」
機関員「それは言えている…趣旨がズレてきている感は否めないけれど、手段が何だろうが当院に来てくださいって応えてくれる病院は貴重だな」
隊員「それはそうですけど…、何かが違う気がしてならない…」


医師にどんな意図があったかは分からないけれど、世の中には様々な矛盾、歪みがあるもの。「自家用車ではなく大至急、救急車で来て下さい」の大成功事例、「当院では診られないから救急車を呼びなさい」の大成功事例があるのもまた事実です。そんな事例も紹介します。改めて救急隊を取り巻く環境の難しさを感じることとなりました。

119番通報する前に1秒だけ考えてほしい、 大切な人がすぐ近くで倒れていないだろうか?今、本当に救急車が必要だろうか?と。
すべては救命のために
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