救急救命士の仰天現場 case2
うんこまみれのホームレス
住所のない方、ホームレス、住所不定者、浮浪者、彼らの呼び名はいろいろあります。もちろん地域によりますが都会の救急隊とホームレスの関係は切っても切れない関係です。我々からしてみればこんな関係切りたいんですけど、呼ばれれば行くのが救急車、切れないんですね…。今回の仰天現場のお話は「うんこまみれのホームレス」首都圏、都心部の救急隊員の方々からしてみれば、そんな話は仰天でもなんでもない、しょっちゅうのお話です。ただ、普通に社会生活を営んでいる方々には充分仰天のお話だと思います。
私の勤務する消防署のある地域にはたくさんのホームレスが生活しています。ひどい時には1当番で2度3度の救急要請があります。ホームレスからの救急要請はだいたいがこれ。
指令「・・・○町○番○号公衆電話からの通報」
この各家庭に電話が普及し携帯電話がひとり1台の時代、公衆電話からの119番通報はホームレスからの通報がたいへん多い。私の勤務する消防署の場合、公衆電話からの通報は9分9厘がホームレスです。
その日もやっぱり公衆電話からの通報でした。指令内容は「男性、両足の痛み歩行できないもの」、現着すると公衆電話の前にいかにものカッコのホームレスが立っている、ああやっぱりね。
救急隊「どうしましたか?」
ホームレスK「足が痛くて動けないんだよ、小便がもれちゃったんだよ」
救急隊「足が痛いのに立っていられるんですか?救急車には乗れる?」
ホームレスK「乗れる…」
自ら救急車に乗り込んだ50代Kという男性のホームレス、バイタルは正常、ただはいているズボンは足までの小便で塗れて異臭をはなっていました。失禁は観察するにあたり重要なポイントです。成人が、というよりも子供だってそれなりの年齢になれば小便や大便をもらす事なんてありませんよね?大人が失禁しているってことは重大な意識障害があったっていうサインなんです。ただこのホームレスの場合、意識消失等危険な状態があっての失禁ではなく単純にもらしたものです。
救急隊「おしっこはどうしたの?何で漏らしたの?」
ホームレスK「…トイレまで我慢できなかったんだ」
さあ病院です、ホームレスは病院選定が大変なんです。私たちは両下腿の痛みを訴えているため整形外科の直近病院から選定しました。A病院に連絡。
救急隊「Kさん(ホームレス)A病院には行ったことないね?」
ホームレスK「・・・ねえよ」
救急隊「救急隊です。・・・両足の痛みを訴えています。変形等はありません。この方は住所のない方です」
A病院婦長さん「ああ、ホームレスの方ね、名前教えてください」
ホームレスがたくさん住む地域の病院にはブラックリストがある所がけっこうあります。ホームレスには病院でトラブルを起こす場合が多いので、ブラックリストじゃないかどうかほぼ名前と生年月日を教えてくれといわれます。
救急隊「Kさん、生年月日は昭和…」
A病院婦長さん「その方は診ません!!」
生年月日を言い終わる前に診ないと言われました。
A病院婦長さん「あのね、救急隊さん、その人昨日の夜にうちの病院に着たんですよ。両足が痛いって言うんでしょ?S町から救急車でうちまで来たの。その前はT病院に救急車で行って、その前もH病院に救急車でかかってますよ。」
救急隊「…そうですか」
A病院婦長さん「私が責任持ってあげるわ!その人の言うことみんなウソですから!レントゲンもCTもなんの異常もありません。歩けないってのウソです。今どこにいるの?」
救急隊「○公園の前です」
A病院婦長「ほら!うちからそんなところまでしっかり歩いてるじゃない!ふざけてるわよ!とにかくうちでは診ません!」ガチャリ…
吐き捨てるようにA病院には診察を断られました。
救急隊「ねえ、Kさん、昨日もA病院にかかってたんだって?さっき行ってないって言ってたじゃない?その前はT病院、H病院にも救急車で行ったんだって?なんでウソつくの?」
ホームレスK「・・・」
(あなたがこんな風に救急車を使って今、この時、救急車を必要とする人がいたらどうするの?)言っても無駄なんで言いませんけど。
さあ次の病院を選定しなくちゃ、次に近いのは…。痛いっていう方を突き返すわけにはいかないんです。病院に運ぶのが我々の仕事。そしてまたこのKさんと違ってウソをつけないのも救急隊。病院に連絡の際、ウソはつけません。
救急隊「B病院さんですか?救急隊です。・・・両足の痛みを訴えています。変形等はありません。この方は住所のない方です。なお、昨日にはA病院にかかられていて異常はないそうです。T病院でもH病院でも異常はないと帰されたそうです」
B病院医師「A病院でもT病院でもH病院でも異常ないんじゃうちでも異常ないよ。何を診ろっていうの?」
(おっしゃるとおり!)
救急隊「・・・そうなんですが、本人が痛いと言ってますのでどうにか診察していただきたいんです、どうかお願いいたします。」
B病院医師「・・・はぁ、分かりました診るだけ診ましょう。でも診察終わって帰るまで救急隊はいてくれますね?」
救急隊「分かりました。お願いいたします」
本来、救急隊は傷病者を病院に引き継いだら引き上げます。ホームレスの場合、医師の診察で異常なし、入院の必要なしと診断されると暴れたり問題を起こすケースがたいへん多いので、だいたいこのように帰す時、面倒を見るようにと残っている約束をします。・・・じゃないと診てくれません。この日は2件目で診てくれる病院が決まったんだからかなりラッキーです。10件以上断られる事だって珍しいことじゃないですよ。
B病院救急診察室、衣服が汚れているため服を脱がします。病院によってはホームレス用の洗い場があるんです。これも救急隊の知られざる仕事ですね、医師はあまりのにも汚れているホームレスを診察したりはしません。看護士さん、そして我々救急隊できれいに洗ってから診察するんです。このホームレスの場合、下半身は小便でびっしょびしょでしたから当然先生の診察ははじまりません。
看護士さん「救急隊の方、(洗うの)お願いしますね」
救急隊「はい…Kさんこれじゃ先生診てくれないからズボン脱がすよ」
異臭を放っているズボンを脱がすとボトボトぼとぼと…。ああやっぱりね。こぼれ落ちたのは大量の大便、まぁ小便をあれだけ漏らすんだから必然かもね。まさにズボンの下はクソまみれです。とりあえずシャワーで下半身にびっちょりくっついたウンコを洗い流す。
看護士さん「キャアァ〜!ちょっと救急隊員さん!!」
救急隊「え!?あ!ごめんなさい。」
シャワーでこびりついたうんこを洗い流そうとしたら水圧で看護士さんに飛んでっちゃった…。
救急隊と看護士さんにキレイにしてもらったホームレスは病院から新しいズボンをもらい、もちろん歩いて帰っていきました。両足が痛いっていうのはウソといえばウソでウンコや小便まみれでいたものだからおしりの部分がひどくかぶれていたんです、それが原因でした。1日や2日じゃあんな風にはなりませんよ、ずっとうんこまみれだったんです。まぁこの日のホームレスKさんの場合、歩けないのはウソですけど本当に痛かったは痛かったんですね。ホームレスからの通報の場合、全然、なんともないけど入院したいから119番ってケースがほとんどです。
救急隊「Kさんどこに帰るの?」
ホームレスK「S町に帰るんだ」
救急隊「じゃあこの通りをず〜っとまっすぐ行ったらS町だから」
とぼとぼと帰っていくホームレス。ホームレスが病院からちゃんと離れたことを確認しないと救急隊も帰れないんです。中には入院させてくれな腹いせに病院に嫌がらせをしたり、病院のベンチに居座ったりするのがいるんです。はぁぁやっと終わった。ホームレスを扱うと普通の救急活動の2,3倍の時間が平気でかかります。その間にも救急車を必要とする人がいたらどうしよう?いつも心が痛みます。
へえ〜って思った方もいたんじゃないですか?でもこんな話、都会に勤務する救急隊からしてみればいつもの話です。ちなみにこのホームレスが受けた診察料、塗ってもらった薬代、もらったズボン代、ホームレスが支払うわけありませんよね?すべて税金でまかなわれています。救急車の1回の利用代金を計算すると地域にもよりますが約4万5千円になるそうです。この日扱ったホームレスのKさんの場合、分かっただけでもこの数日で3回以上、救急車を利用している。彼に投入された税金は20万以上ってトコかなぁ?オレの月給より高いんじゃないのか??
このように大変汚れた方を洗ったりした場合、私たち救急隊にも特別な手当てがつきます。まぁこれも税金なんですけどね、ちなみにビール1本は買えないです。救急車の適正利用、うんこを漏らして歩いている人にこんなこと言っても無駄なんで言いませんけど、必要な時に救急車が来ないわけでしょ?
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