救急救命士のため息現場 case11
狼少年に殺される
救急隊と切っても切れない関係の方々はたくさんいますが、どの消防署の管轄に必ずいるのが「常習者」と呼ばれる人たちです。常習者っていうのはもう本当にしょっちゅう救急車を利用する人たちの事です。これがどこかのお店なら常連のありがたいお客様なんですけど、救急隊にとってはまさに扱いたくないとんでもない人たちです。都心部の救急隊に目を向けると年間20人にひとり救急車を使う計算となります。でも周りに今年、救急車で運ばれた人を探すのはなかなか困難なんじゃないでしょうか?常習と呼ばれる人たちが本当に救急車をものすごい使い方をするのでこんな統計になってしまうのです。年間100回以上救急車を呼ぶなんて人たちがこの世の中にはいるのです。そりゃいくら救急車があったってなくなってしまう訳です。今回のお話は私の勤務する町の常習者Gさんのお話です。この人は年間100回なんてぬるいペースじゃありません。ここ最近は年間700回ペースで救急車を要請しています…。
お話に入る前にお断りさせていただきますが、ハッキリ言って私たち救急隊のこのGさんへの接し方はかなり悪いです。普段、具合の悪い方相手に決してこんな接し方はしないということは分かってください。年間700回ペースで救急車を使うこのGさんのおかげで救急車が迅速に現場到着できないのです。ひょっとしたらこの人のおかげで誰かが迅速な救護を受けることなく死んでいるのかもしれない。私たち救急隊はこのGさんに怒りを覚え、本当にうんざりしています。なんでもかんでもやさしく丁寧、親切が私たち救急隊の仕事じゃないってことです。その辺をご理解ください。
夜の22時を回った頃でしょうか出場指令がかかりました。「救急出場指令、K町2丁目・・・」
もう私たちの救急隊はこのK町2丁目でガクっときます。
救急隊長「おい…またアイツじないのか?」
機関員「そうですね…」
「K町2丁目○番○号、Gさん方急病人腹痛、本人からの通報」
救急隊3人「あの野郎〜!またかよぉ〜!」
ポンプ隊員「大変ですね。またあのじっさまですか?いってらっしゃい」
もう私の消防署ではポンプ隊ですら何度も扱いよく知っています。
現場到着。いつものように家の前で待っているGさん。70代の男性なのですがもう何回この人を救急車で運んだでしょうか?掛かり付けの病院も既往症も名前も聞かなくても分かります。機関員は地図を見ることなくこの現場に行くことができます。Gさんがこちらに向かって手を振っている、そして何かを叫んでいる。ああ…いつものね。
常習者G「うるせえうるせえ!止めろ止めろよ」
救急隊「あ〜あぁ今日も元気だなぁ」
Gさんは救急車の拡声器がうるさいと言っているのです。このGさん、もうちょっと遅い時間になるとご近所の迷惑になるからと自宅から100mほど歩いた公園から救急車を呼ぶこともあります。そんだけ歩けるんだからタクシー拾えばいいのになんて思っても無駄、Gさんにとっては救急車はタダで使えるマイタクシーですから。これだけしょっちゅう救急車を使っているとご近所からも何か言われているらしく、特にGさんの住んでいるアパートの大家さんはいつもうんざりって顔で出てきます。
常習者G「うるせえよ!時間考えろよ!近所迷惑になるだろ!いつも言っているだろ!」(かなり強い剣幕)
救急隊「Gさんいつも言ってますけど、救急車は緊急自動車です。サイレン鳴らさないで走行なんてできますせんよ。緊急事態に出動するためですから。で、今日は何が緊急なの?今日はお腹だっけ?」
このGさん、いつも大体「足が痛い」か「お腹が痛い」のどちらかで要請します。足の時はD病院の整形外科、お腹の時はS病院の内科です。もう聞かなくてもそこまで分かります。
常習者G「今日は腹が痛いんだよ!」
救急隊「そうですか、じゃあ救急車に乗りましょう。はいはい、こっちから乗ってください」
救急隊員がGさんの腕を引っ張ると
常習者G「痛いいたいたぁ、いってえなぁ!足が痛いんだよ!いつも言ってるだろ!歩けないんだよ」
救急隊「あれ?今日は腹が痛いんでしょ?」
常習者G「分からねえ救急隊だなぁ!てめえ、足も痛いんだよ!」
救急隊「足が痛いの?歩けない?ここまで来たじゃない?」
Gさんの家はアパートの2階です。玄関前までしっかり歩いてきたのです。
常習者G「てめえ本当に分からねえ野郎だなぁ、足も痛てえんだよ、でも今日は腹を診てもらいたいだよ!」
救急隊「はいはいそうですか、ゆっくりでいいからんじゃ救急車に乗ってくださいよ」
車内収容。
救急隊「今日はどっち(D病院orS病院)に行けばいいの?お腹ならS病院だよね?」
常習者G「いやS病院は昼間も行ったからダメだ。D病院に連絡しておいた」
救急隊「は?S病院には昼間行ったの?また救急車で?」
常習者G「そうだ。S病院には昼間診たからその薬を飲んで休めって言われたんだ」
救急隊「…で、S病院から昼間もらった薬は飲んだの?」
常習者G「オレさ、薬飲むと気持ち悪くなるから飲んでないんだよ」
救急隊「あのね〜Gさんさ、お医者さんに診察してもらって必要な薬出してもらって飲まなきゃ良くなるわけないでしょ?」
常習者G「…そうだなぁ」
救急隊「そうだなぁじゃないよ、何やってんだよあなたは…」
ここまで口をいっさい開かなかった救急隊長が口を開いた。
救急隊長「Gさん、あなた昨日もうちの救急隊で運んでいるんだよね、昨日は何回救急車使ったの?で、今日はこれで2回目でしょ?あなたのための救急車じゃないんだよ」
常習者G「歩けないだから仕方ねえだろ!分からねえやつらだなぁ!」
救急隊「分かりました!とりあえず血圧測らせてください」
パルスオキシメーターをつけて血圧、脈拍を測定、バイタルをとらないと。
常習者G「ホントそれいつもやるんだね…」(うんざりとした口調で)
この常習者G、測定している私たちによりにもよってこんな事を言いました。あ〜あぁぁぁ嫌だ!こんなヤツを扱うのは…。これ以上無駄なことをしても仕方がないのでD病院に連絡。
D病院の看護師「ああ、Gさんですね、さっきご本人から連絡ありました。どうぞいらっしゃってください…」
病院も毎回毎回毎回毎回救急車でやってくるこのGさんにかなりうんざりしているようですが、このGさん病院で問題を起こすわけではなく、診察の時は大人しいんです。でもお医者さんからもらった薬は飲まないんです。もう訳が分かりません…。黙りこくった救急隊長、救急隊員、現場出発するために運転席に向かった救急機関員、
救急機関員「ねえ!Gさん、あんたいいねぇ!救急車がタクシーだね!」
あ〜あ、機関員はもう完全にキレちゃってるよ…。救急車内の雰囲気、最悪…。
翌朝、ある病院で隣の救急隊と遭遇しました。常習者Gの話をすると、
隣の救急隊員「Gならうちも昨日、一昨日と扱っているよ」
救急隊員「ええ!本当ですか、うちも昨日、一昨日と扱っているんです」
隣の救急隊員「ホントとんでもねえよなぁ。あいつ、どうにかならないもんかなぁ…」
この常習者G、ここ2日で分かっているだけで救急利用回数4回、年間700回以上のペースです。なんでそんなことするのか??本当意味が分かりません。そんなになんで病院が好きなのか??考えてもこっちがおかしくなりそうなので考えたくもありません。
こういった常習者はこのGさんが珍しいのではなく、そこの消防署の管内にも似たような人たちが必ずいるのです。救急車の出場回数がうなぎのぼりになる訳です。ご覧の方の中には「こんなヤツに救急車出さなきゃいいじゃないか」ってお思いの方も多いかと思います。私もまったくそう思うのですが、100回に1回、いやこういう人たちの場合、1000回に1回、本当に命に関わる重症だった時にどうするってことです。1000回に1回、本当に重症の時に救急車を向かわさなかったら誰が責任をとる?行ってみなくちゃ分からないから、だから救急車を出さなくちゃいけないということです。消防も狼少年が恐ろしいのです。1000回に1回のために。でも必要のない999回の出場の間に迅速な救護を受けられず一生に一回救急車を利用した人が人知れず死んでいるかもしれません。1000回に1回ホントに急病かどうかの狼少年に一生に1回の住民は殺されている。
この常習者G、本当に年間700回使ったのならいくらの税金を使うのでしょうか?1回45000円と言われる救急車の公費。45000円×700かぁ…。私の年収の何倍だろ…。もう計算するのも嫌になっちゃった…。
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