巨大なタンコブ、ロードアンドゴー!

ケーススタディ

街はクリスマスムード一色、今年もあと数日、師走となりました。乾いた空気、快晴の空、とても温かい日でした。

出場指令

交替して間もない時間帯、この日1件目の出場指令が鳴り響いたのでした。

「救急隊出場、○町○丁目…A方、女性は倒れているもの、通報は息子から」

との指令に救急隊は消防署を飛び出したのでした。指令先のA方は消防署からすぐの地点、救急車はすぐに到着しました。

現場到着

Aさん方は住宅街の一戸建て、家の前には通報者の息子さんが案内に出ていました。

息子「こっちです、お願いします、母の様子がおかしいんです」
隊長「案内してください、意識はありますか?」
息子「意識は…返事はできるのですが…よく分からないです」

意識があるかどうかよく分からない…重症度が高そうな雰囲気が漂っていました。

傷病者接触

息子さんが案内したのは敷地内の駐車スペースでした。アスファルト上に女性が倒れていました。傷病者は60代の女性でAさん。

隊長「こんにちは、Aさん、分かりますか?」
Aさん「…」

隊長の呼びかけに目を開き頷いた。呼びかけに反応はあります。

隊長「お話できますか?お名前を教えてください」
Aさん「…」

Aさんは目を開きうなずくことはできますが話はできませんでした。呼びかけに容易に開眼する…意識レベルはJCS10、呼吸や循環に問題はない。

隊長「隊員は全身の観察、バイタルサインの測定、機関員は搬送路の確認、傷病者のすぐ近くにメインストレッチャーを準備」
隊員・機関員「了解」

隊長は隊員と機関員に下命し通報者の息子さんから状況聴取を始めました。

隊長「息子さん、お母さんはどうされたのでしょうか?」
息子「いや…それがよく分からないんです、僕が起きてきたらどこにも姿がなくて…探してみたらここで倒れていたんです」
隊長「この脚立とバケツは?窓の掃除をしていたみたいですけど」
息子「ああ…そうですね、昨夜は天気が良ければ大掃除をするとか…何か言っていました」

Aさんが倒れている脇には2mくらいの高さの脚立が倒れていました。近くにはバケツに雑巾、洗剤などがあり、どうやらAさんはこの脚立に上って窓を拭いていたようです。隊員はAさんの全身観察を実施しました。

隊員「Aさん、身体を触りますよ、頭から全身を触らせてもらいます、どこか痛いところがあったら教えてください」
Aさん「…」

発語はありませんが、Aさんはこちらが言っていることが分かっている様子でうなずくのでした。

隊長「頭だ!頭を特に注意深く観察!機関員は全身固定用資器材を準備!」
機関員「了解です」

機関員がバックボードや頸椎カラーなど全身固定用資器材を取りに走りました。

隊員「頭を触ります、痛くないですか?どうですか?」
Aさん「…」
隊員「特に頭には怪我はなさそう…あれ?これって…隊長、触ってみてください」
隊長「どれ?」

Aさんの後頭部は大きく腫れあがっていました。血腫の大きさはバレーボールくらいの大きさです。血腫が大きすぎてこれが頭の形だと思ってしまうほどの巨大なタンコブでした。脚立に登って窓を掃除していた。そのまま脚立ごと転倒し後頭部を強打し倒れた。そして地面はアスファルトです。脚立の高さは2mほど、2階の窓を拭くには高さが足りません。仮にその上に立って2階の窓を拭いていたとすると…。仮に頭から落ちたとすると…。

隊長「そのまま全身観察、オレがバイタルを測る、ロードアンドゴー!」
隊員・機関員「了解!」

隊長がロードアンドゴーを宣言しました。ロードアンドゴーとは重症外傷事案の際、生命に関わる最低限の処置のみを行い、とにかく早く適正な医療機関への搬送、現場出発を目指すことを言います。

隊長「全身固定実施後、早期に車内収容、機関員は選定に入れ!3次医療機関選定!」
機関員「了解です!」

全身観察の結果、頭部以外に怪我はありませんでした。意識はJCS10、呼吸は正常値、脈拍は60回/分程度と徐脈、収縮期血圧が200mmHg程度、SPO2値は正常値、瞳孔所見には異常はありませんでした。

隊長「息子さん、病院に向かう準備を、お連れする病院は救命救急センターと呼ばれる医療機関を選定します」
息子「え…えぇ…あの…母は悪い状態なのでしょうか?」
隊長「はい、お母さんをとにかく早く医療機関にお連れしたいので説明は病院に向かう救急車内でします、救急隊は重症と判断しました、息子さんは急いで病院に向かう支度をお願いします」
息子「はい、分かりました」

車内収容

車内収容してすぐに医療機関は決定しました。

機関員「隊長、▲病院救命センターOKです」
隊長「了解、行こう、急ごう!」

搬送途上

隊長「…分かりました、と言うことは、Aさんには特に大きな持病はないと言うことですね、飲んでいるお薬もないのですね?」
息子「ええ、時々、体調が悪いなんて言って近所のクリニックにかかることはありますが、いつも薬を飲んでいるなんてことはないはずです」
隊長「今日はずいぶんと血圧が高いのですが高血圧のお薬など飲んではいないでしょうか?」
息子「ええ、ないと思います」
隊長「分かりました」
隊員「隊長、血圧がまた上がっています、収縮期で230mmHg、脈拍も40回/分程度です」
隊長「ああ了解、バイタルを全部際測定してセカンドコールを入れよう」
隊員「了解です」

医療機関に伝達した情報は必要最低限のものです。救命センターに到着するまでの間、さらに詳細の情報を収集し、再度連絡を入れる必要があります、これをセカンドコールと言います。

機関員「あと5分もあれば着くよ」
隊長「Aさん、目を見せてください…アニソコ出てるぞ!右が7mm、左が3mm、対光反応はともにかなり鈍い…」

アニソコとは瞳孔不同のこと、左右の瞳孔径が異なっているということです。時間とともに傷病者のバイタルサインが変化している。ここまで得られた情報をセカンドコール、あと数分で医療機関に到着します。緊急度・重症度大、瞳孔不同、より徐脈になり、血圧もさらに上がっている、これって…



今回の記事はここまでです。外傷事案、ロードアンドゴーの現場では傷病者の病態、バイタルサインもめまぐるしく変化することがあります。今回もクエスチョン編と回答編に分けての更新になります。徐脈の進行、血圧の上昇、これは何の兆候でしょうか?また、傷病名はズバリ何だったでしょうか?現場にいる方には易しい問題です。学生さんにコメントいただけるよ嬉しいです。

※2015年の記事を再更新しました。

119番通報する前に1秒だけ考えてほしい、 大切な人がすぐ近くで倒れていないだろうか?今、本当に救急車が必要だろうか?と。
すべては救命のために
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