ケーススタディ
糖尿病だと思うんですの続き、解答編
母親の案内でMさんの部屋に入りました。玄関部には捨てそびれたゴミが袋に入った状態で積まれている。いかにも若い男性の一人暮らしの部屋、Mさんが言うようにかなり散らかっていました。
母親「ごめんなさい、汚くて…」
隊員「お母さんが言われているペットボトルって、このゴミ袋ですよね?確かにずいぶんとありますね」
母親「ええ、それもそうなんですけど、こっちです、ほら」
隊員「うわぁ…これは…確かに…」
Mさんの部屋には相当の量のペットボトルが散乱していました。空のペットボトルは数百本はあるでしょう。救急車に戻り部屋の状況を隊長に報告しました。
隊長「部屋中に?」
隊員「はい、2リットルのペットボトル、スポーツドリンクとかコーラとか甘いジュース類もかなりありました」
母親「いくら何でもあんなに甘いものばかり飲んでいたら糖分の摂りすぎで糖尿病になると思って、調べてみたら喉の渇きとか倦怠感とか、症状も合っていたので…」
隊長「水分補給はスポーツ飲料ばかりでした?」
Mさん「熱中症予防ならスポーツ飲料だと思っていつも出勤の時に2本買って、足りない時は店の自動販売機で買っていました、休憩の時の炭酸は堪らなくて…これって原因なんですか?」
Mさんの勤務先のガソリンスタンドではアルバイトが熱中症になってしまったこともあり、この夏は特に1時間ごとに数分の休憩を徹底していました。休憩室は冷房が効いており、冷蔵庫にはスタッフ各自のドリンクが冷えています。休憩の度に冷たいドリンクを飲み熱中症にはかなり気をつけていました。汗でびっしょり、冷たいドリンクはいくらでも飲めたとのことでした。毎朝買っていく2リットルのペットボトル2本は昼過ぎにはなくなってしまうこともあったのだそうです。
隊長「飲んでいたのはスポーツドリンクとか甘い飲料ばかりですか?さらに家でも?」
Mさん「はい、職場で2リットルを2本は飲んでいました、家でも1本は飲んでしまうので…だから1日で最低でも6リットルは飲んでいるはずだと思って」
特に暑い日は足りなくなってしまい、さらに購入して飲んでいたとのこと。炎天下のガソリンスタンド、サウナの様な高温多湿環境下から天国のような涼しい休憩室へ、清涼飲料はいくらでも飲めてしまう。確かに1リットルの一気飲みなんて簡単、炭酸飲料は最高に美味しい、容易に想像できる状況です。
医療機関到着
隊長「…とう言う状況でした、バイタルサインには特に問題はないです」
医師「なるほどね、だからペットボトル症候群を疑ったと?」
隊長「はい、部屋もまさにペットボトルでいっぱいだったそうです、ケトアシドーシスじゃないかと」
医師「なるほどね、確かに相当に疑わしい」
看護師「先生、血糖値は290です」
医師「ああやっぱり高血糖…さすがでしたね」
「ケトアシドーシス 中等症」
引揚途上
機関員「一人暮らしの男の部屋が汚いなんて想定内だけれども、彼の部屋は相当だったな〜」
隊長「そんなに?」
機関員「ええ、ゴミはちゃんと袋に入れてあるのですけど、捨てられないまま数十袋が玄関に放り投げられている感じ、それで引きっぱなしの布団の周りに…な?」
隊員「はい、半端な量じゃなかったです、清涼飲料水って呼ばれるものばかりでした」
機関員「この灼熱の夏、朝から晩まで屋外で仕事をしていたら確かに飲めるよな?」
隊員「はい、スポーツドリンクなんて特に、2リットルなんて簡単だと思う」
機関員「家に帰ってからも清涼飲料を飲んでいたとなると、糖分の摂取量は相当だろうな」
隊員「ケトアシドーシスって確か糖分過剰摂取の急性の代謝異常でしたよね?糖尿病とは違うのだろうけど、遠からずって感じでしたね」
隊長「ああ、お母さんが異常な量の空のペットボトルがあるって言うから、相当のヒントになったな」
機関員「ペットボトル飲料を飲み過ぎてペットボトル症候群ってまさに典型だな」
隊員「やっぱりヒントは現場に落ちているのですね」
隊長「そうだな、今回は危うく現場を見そびれるところだったな」
機関員「高温多湿環境下での肉体労働…まさにオレたちじゃない」
隊長「ああ、特に消防隊は典型だ、火災はもちろんだけど訓練の時も気をつけるべきだな?」
隊員「訓練後に防火衣を脱いでから飲むスポーツドリンクなんて至福の時、みんな絶対に一気飲みです」
消防活動は熱中症になる条件が揃っています。実際に熱中症になってしまうこともあります。特に火災では、重い装備を背負い防火衣をまとい炎との格闘、さらに放水するのですから高温多湿環境は相当のものです。熱中症はもちろん糖分の過剰摂取、通称ペットボトル症候群にも少しは気をつけないといけないのかもしれません。
119番通報する前に1秒だけ考えてほしい、 大切な人がすぐ近くで倒れていないだろうか?今、本当に救急車が必要だろうか?と。
すべては救命のために
この記事に対するご意見・ご感想をお待ちしています。SNSでのコメントを頂けると嬉しいです。
