救命士のこぼれ話
消防署は24時間、仲間と寝食を共にする職場環境にあります。交替制で勤めるので、3交代制ならば年間の1/3は職場の仲間と消防署という狭い空間で一緒に過ごすことになります。同僚は仕事と生活を共にする第2家族と言っても過言ではありません。食堂にあるのは分かるけれども、消防署に何故かあるもの。
消防署の車庫
消防車と救急車、2台の緊急車両が消防署の車庫に戻ってきました。
隊員「オーライ!オーライ!ストーップ!」
消防隊長「お疲れさん!」
新人「お疲れ様でした」
隊員「お疲れ様でした」
救急現場では救急隊は傷病者を医療機関に搬送してから消防署に戻ってきます。最後に帰署することがほとんどの救急隊が消防隊と同時に戻ってきたと言うことは…。共に出場した新人の消防士が駆け寄ってきました。
新人「これ持ってきました!」
消防隊長「おう、気が利くじゃないか、サンキュな!」
新人「はい、背中にも」
救急隊長「こっちも頼むよ」
新人「はい、振りますよ」
機関員「ありがとう、救急車にも振っておいてくれよ」
新人「分かりました」
隊員「ありがとう〜」
24時間を共に過ごす第2家族の家では、気が利く新人はとても有望です。気が利かないと怒られてばかりだった私とは大違いです。それにしても配属してから数ヶ月の新人がこんなことに気が利くようになると言うのだから…。
機関員「消防官は人命救助するものだと思っていただろ?」
新人「はい」
機関員「やっぱり危機一髪のところを助け出すカッコイイ仕事だと思っただろ?」
新人「そうですね…」
機関員「ところが現実はそんな現場になかなか当たらない、消防署の車庫でこんなことをしているなんて思わなかっただろ?」
新人「はい、寝食を共にする仕事だから食堂にあるのは分かるけど、車庫にもあるとは思ってもみませんでした…」
隊員「そうだね、オレもそう思っていた…、続きませんようにって願掛けかな?」
新人「そうですね、あんまり効果はなさそうですけど、背中にも振りますよ〜」
先ほどの現場の傷病者は全身に硬直と死斑が及んでいる状態でした。社会死状態と判断し警察官に申し送り、消防隊と救急隊は同時に引き揚げてきたのでした。気が利く新人消防士が持ってきたのはお清めの塩です。消防署には車庫に塩が用意されています。
人命救助が生業の消防官、それは裏返せば死に直面する仕事と言うこと。どんな仕事も失敗や課題の繰り返しがキラリと光る成功の種になります。消防官の仕事も劇的な救命は本当に一握りで、日常は死との直面の繰り返しばかりです。新人だってこんな現実にも数ヶ月で慣れてしまう。いや…慣れないとやっていけない。
出場指令
「救急隊、消防隊出場、○町○丁目、男性は呼びかけに反応がなし、通報は妻」
消防署に再び救急隊と消防隊の出場を知らせる指令が鳴り響きました。
隊員「あぁぁ…事務室に上がることすらできない…」
新人「お疲れ様です、お清めをしておしまいですね」
このお清めが効いていますように。今度こそ救命の現場でありますように。
119番通報する前に1秒だけ考えてほしい、 大切な人がすぐ近くで倒れていないだろうか?今、本当に救急車が必要だろうか?と。
すべては救命のために
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