たらい回し9件、いつものこと…

時事ネタ

2007年8月29日早朝、奈良県の救急隊が大阪府の病院に搬送していました。この救急車には妊婦さんが乗っており、結果、流産してしまったというものです。

搬送途上にこの救急車が事故を起こし、妊婦さんが病院に到着したのは要請から3時間以上もの時間を要していたそうです。 報道でも大きく取り上げられました。

なぜ奈良県の救急隊が大阪へ?救急隊が搬送先病院を決めて、搬送を開始するまでに約1時間半、9件もの病院に断られ、「妊婦たらい回し」こんな記事が載っていました。お子さんを亡くされてしまったこの女性、またその家族の方には本当にお悔やみを申し上げたいです。

このニュースを聞いて現場の救急隊員をしている私はまずこう思いました。「いつものことなのになぁ…」受け入れ先病院を見つけるのに9件10件断られるなんて本当にいつものことです。

奈良県の周産期医療の受入れ態勢が悪いとか問題視されていますが、これは奈良県に限ったことではなく全国的な問題です。さらに産科医の不足も問題視されていますが、これも産科に限りません。

どの科目であっても9件、10件受け入れ先が見つからないなんて日常茶飯事です。このサイトをご覧の方なら分かっていただけるのではないでしょうか?このサイトに出てくる現場の話はそんな話ばっかりですから。

昨日も昼食を摂りながら救急隊員、消防隊の救急資格者とこの話題になりました。みんな私と同じ事を思ったと言います。

「いつものことなのにね…」今回、これだけこのニュースが注目されているのは昨年にも奈良県では出産直後の妊婦が受け入れ先病院が見つからず死亡した事案が起こっていた事、搬送途上で救急車が事故を起こした事が大きな要因なのでしょう。

今回、事故が起きずに搬送されていたのならニュースにすらならなかったのではないでしょうか?1時間半、2時間受け入れ先病院が見つからず救急車の搬送が始まらないなんてニュースになる訳がありません。いつものことなのですから。

一番お気の毒だったのはこの傷病者、お子さんを亡くしてしまった家族の方たちです。さらに私が気の毒に思ってしまうのはこの時、搬送に当たっていた救急隊です。

私たち救急隊の仕事は傷病者を安全に適切に迅速に病院に搬送することにあって、搬送途上事故を起こしてしまった事は責められても仕方がない事でしょう。

でも救急車内、痛がっている傷病者を前に1時間半もの間、受け入れ先が決まらない、搬送を開始できないと言うことが救急隊にとってもどれだけ辛いことか…。

中には「何で早く搬送しないんだ!」と罵声を浴びせてくる方だっています。家族にとってみればそう思うのは当然でしょう。でも目的地が決まらないのです、出発できません。

現場の救急隊員たちはみんな苦しんでいます。やっと決まった受け入れ先病院、機関員にも「早く搬送してあげたい」と焦る気持ちがあったのかもしれない。現場の救急隊にはどうにもできないもっと大きな問題がたくさんあったのだと思うのです。

きっとこの手の問題はしばらくの間は起き続ける思います。医療機関の受入れは年々悪くなってきているように感じます。さらに救急病院の看板を降ろしてしまう病院も増えてきました。

救急病院が減っているということです。救急病院が減るもっとも大きな原因は「医師がいないから」のようです。今回、受入れを断った病院側も様々な形で取り上げられていますが、現場の医師の勤務体制だって本当に深刻です。

ひとりで診られる患者の数には限界があります。救急医療体制は、今のままでいつまでもつのか?はたまた地方によってはすでに崩壊状態に至っているのでしょうか?こんな中、私たち救急隊は扱った傷病者を、そして自分たちをどうやって守っていけば良いのでしょうか?

受け入れ先が決まらず1時間、2時間現場に待機、罵声を浴び続けたなんて経験、現場の救急隊の方ならあるはずです。そんな現場の話、そんな時どのように対応するかなど、みなさまのご意見をお待ちしています。

CPr
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